夜の廊下は暗く不気味だった。
私一人じゃ恐くて満足に歩けなさそう。そう思いながら男性について行く。
彼は小さなランプを前に突き出して確かな足取りでずんずんと進んでいくから、きっとお城に精通した人なんだろうと思った。




そういえば私ってば、博士がアスランの守人を知らない場合の事を考えてなかったよ。
ペベンシーの四兄妹はナルニアの黄金時代の王様だから知ってるかもしれないけど、ナルニアの役にあんまり立てなかった私なんて知られてないかもしれない。
どうしよう!その時はこの男の子に剣で刺されるか、良くても牢屋に入れられるかだ…



男性の後姿を見つめながらため息を吐く。
知らなかったらその時はその時だ。だって他の言い訳考えてる暇はなかった。
博士の部屋についてしまったから。


















「博士」


















彼はドアをノックした。返事はなかったけどそのままドアを開けて入っていってしまう。
私はどぎまぎしながらついて行った。


















「わあ…」


















そこにはたくさんの本が置いてあって、夢のような空間だった。
ナルニアのケア・パラベルにも書庫があって、この部屋の何十倍もの本が置いてあったんだけどそこも夢のような空間だった。
けどここは博士一個人の部屋、それなのにこんなに本が置いてあるなんてそれだけで素晴らしいよね。

ドアから少し進むと階段があって、数段上がったところが開けていて部屋になってる。
左側には大きめの机があって、色々な国の本が乱雑に置かれていた。
それに目を配らせながら進むと、急に彼が立ち止まったのでぶつからないように私も止まる。
彼の目先には白髭を蓄えた老人が熱心に窓越しで夜空を見上げていた。


















「博士」


















彼はもう一度声を掛ける。すると老人はぱっと振り向いた。


















「お…おお、どうなされましたか?」

「博士こそ熱心に空を見られて…何か変わったことでもありましたか」

「そうですね、何かが起こりそうな予感がします。大切な何かが…」


















博士の唇はわななと震え、その予感に神秘的なものを感じているようだった。


















「大切な何か……それかはわかりませんが、客人を連れてきました」

「客人…?」


















博士は目を凝らして私を見据えた。数秒後、その目はいぶかしんでいるような目線に変わる。
私の事を全く知らないと物語っていた。当たり前だよ、会ったことないもん。



マズイ!こののままだと私の身が危うい!!!



博士の目を見て男性は構えるような姿勢をとった。明らかに警戒してる。
彼はそのまま切り込んで来そうな勢いで私を睨んできた。
だから慌てて名乗るしかなかった。もうどうにでもなれって感じになっちゃったんだ。


















「わ、私はといいます!N国のといいます!!!」

…?」


















博士は私の名前を復唱した後、物思いに耽るように視線をずらした。
私と博士の間に立っている男性は博士が考え込んでしまったのでそうすればいいのか考えあぐねているようだった。


















「N国の…」


















沈黙が続く。
数分後に博士がもう一度復唱した時、男性は私に剣を突きつけた。


















「こうやって時間を稼ごうとしても無駄だ、はっきりと正体を言え」

「言ってるよ!私はN国のって言うの!!!」

「…N国の……

!!!」


















私がフルネームを叫ぶと、博士は合点がいたかのように手を叩いた。
そして小走りで男性を通り越し、私の肩をがしりと掴む。


















「君があの!?」

「はい!!!」


















博士は私を眩しそうに見つめると大きく頷いた。
そして男性に向かって諭すように言う。


















「この子は確かに私を訪ねてきたようです」

「……博士がそう言うなら、わかりました」


















彼は最初博士をも疑った目で見てたけど、やっと剣をしまい初めて表情を崩して笑ってくれた。


















「人を訪ねてくるならばちゃんと門から入ってくるものだよ、

「う…ごめんなさい」

「まあ、博士の知り合いだったら君が変わり者でもおかしくないけどね」

「へ…?」

「はは。じゃあ、僕は寝るとするよ。おやすみなさい、博士、


















彼はそう言ってドアから出て行ってしまった。
うーん、もうちょっと話してみたかったんだけどしょうがないか。何せあんなに空が暗いってことはかなり夜遅いだろうし。
テルマールにいればまた会えるかもしれないもんね。

彼の後姿を見送った後、私は私を穴の開きそうなほど見つめている博士に気づく。
学者が物珍しいものを発見した時って絶対こうなるんだろうなぁ…


















「あなたは本当になんですか」


















博士は言葉を正すとそう言った。
私がという存在だって事を疑ってるのではなく、信じられないみたい。
そうだよね、ずっとずっと昔に私はナルニアからいなくなったんだもん。


















「はい。ナルニア国のアスランの守人、です」

「おおお…わしは夢を見てるのではないか。いや、星を見る限り何か大切なことが起こると思ったがまさか守人に会えるとは…」

「博士は星を読めるの?」

「少しだけですが…。あなたはナルニアを救いに来たのですか?」


















博士は窓の外の鬱蒼とした森を見て言った。
そっか、前に来たときは気づかなかったけどあれがナルニア国だったんだ。


















「違うよ。私はナルニアを見守るだけなの。救うのは別の人」

「別……それは…?」

「カスピアン王子。ナルニアを救うのはカスピアン十世なの!!!

博士、カスピアン王子はどこにいるの?ちゃんと無事!?」


















甲高い声でまくし立てちゃって、私はちょっと恥じた。
だって博士ったらきょとんとした顔で私を見たんだもん。
何で?って思うでしょ。でもすぐにわかったの。


















「王子は、先ほどあなたを連れてきた人物ですよ」


















博士はニヤリと笑った。
私はハッと息を呑むと、彼が出て行ったドアを見た。


















「ええっ!?さっきの男の人がカスピアン王子なの!?」


















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無事にテルマールに入り込めました^^
カスピアンが叔父に襲われる少し前のお話になります。


2010/01/15







70話