「はい、じゃあ今日からがっつりと勉強とお稽古してもらいますからね」

「う…まさか負けるとは」
















条件付の勝負はもちろん私の勝利だった。
サボりぎみのカスピアンに負けたりはしないよ。
二年のブランクがあろうとも、その前は二十年近く剣をたまーに揮ってましたからね!
なんていうか体が勝手に動いちゃうんだよね〜。うんうん、これで当分は安泰だ。
















「まさかそんな小さな体で僕に勝つなんて思わなかった」

「体の大きさなんて関係ありません。だって練習第一ですからね」

「何も言い返せないよ。これじゃあ何かあっても僕はやられてしまう」

「その時は私が守ってあげます」
















そう言うと、カスピアンは嬉しそうに笑った。
カスピアンは王子って自覚はあるけど高慢じゃないし付き合いやすい。
それに爽やかでカッコイイしね。
















「それにしてもそんな剣技をどこで身に着けたんだい?」

「昔、ある男の子に教えてもらったんですよ」

「ふーん、親友かい?」
















親友?そう言われればそうかも。
ヘラクスは私に猛アタックしてたけど、私は全然その気は無かったし。
















「うん、親友ですね」

「そうか。男同士の友情は固いって言うしね」

「へ?今なんて言いました」

「男同士の友情は固いって言ったけど…?」
















カスピアンは不思議そうな表情で私を見る。
もしかして、まさか今まで私をずーっと男だと思って接してきたの!?
















「私……男に見えますか?」

「あはは!いくらなんでも僕だって女の子がどういうものか知ってるよ。

は男の子だ。そうしか見えない」

「う…」
















確かに髪を切ったら男の子に間違われることはあったけど、こう何日も一緒にいてまさか気づかないなんて思ってもみなかった。
というか、私ってばそんなに男っぽい付き合い方をしてきたのかな。
ああ〜、それともカスピアンが女の子ってモノを全く知らないのかもしれない。
うんそうだ。そうに決まってる。
















「女の子は髪を短くなんてしないよ。そうだろう?

さあ、僕はに負けたんだからこれから一生懸命素振りをすることにしよう」
















カスピアンはわなわな震えている私をほっぽってそのまま素振りに入ってしまった。
女の子は髪を短くしない…そっか、ここではそうかもしれないよね。何にも言えないよ。
















「ま、男の子でいた方がカスピアンにとって付き合いやすいのかもしれないし…、気づくまで黙ってようかな」
















でも元の世界に帰るまで気づいてくれなかったらどうしよう。
そしたら私、今度来る時はかつらでも被って来ようかな。かつら被ったら絶対女の子に見えるよね。
そう思いたい!

そんなことを考えながら、私は城内に入っていった。
















































、もしかしたら今夜ではないですか。王子が狙われるのは」
















ぼんやり窓の外を見ていると、博士が部屋に入ってきた。そしてこう言うと、心配そうに髭をさする。
博士が言ったとおり今夜な気がした。
だってミラースの奥方が今日産気づいたって産婆達が大騒ぎしていたんだもん。
でも産気づいてもすぐ産まれるとは限らない。2、3日産まれないこともある。だから用意にカスピアンを連れ出すわけにはいかなかった。
















「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。こればっかりはわかんないよ」

「しかし用意しておいた方がいいでしょう」
















博士はそう言って部屋から出て行く。きっと産まれたか確認しに行くんだろう。
















「用意…か。持ってきたものも持って行きたい物もないし、この身一つあればいいんだよね」
















外は真っ暗。もう夜中の1時頃をまわってるかな。
街も場内も寝静まって人の気配はない。カスピアンも寝息を立ててぐっすりだろうな。
















「そういえば前に来た時に会った男の子には会えなかったな。名前を聞きたかったし、連れて行ってもらった高台にまた行きたい。
どうしたらまた会えるんだろう。でも、城内でも街でも見当たらなかった」
















もう2年も前のことだから、ずっと昔のテルマールに来ただけだったのかも。
ってことは、あの男の子はもうこの世にはいないんだよね。

オレイアスやヘラクスに会えないのまでとは言わないけど、やっぱりもう会えないのは寂しいな。
















「さて、今日はもう大丈夫かもしれないし寝ようかな」
















ベッドに入るとシーツが冷たかった。体がひんやりしてぶるりと震え、体温を逃さないようにと体を縮こめる。
布団をぎゅーっと被り目を閉じた途端、部屋のドアが乱暴に開けられた。
















、産まれました!!!やはり男子です…早く王子のところへ行かなければ」
















博士の顔は恐怖に怯えていた。
やっぱり赤ちゃんは男の子だったんだ。だからミラースにとってカスピアンは邪魔になる。

もしかしたら女の子が産まれるかもしれない。そうしたらナルニアのためにもっと時間を掛けて準備が出来る…そういう可能性も賭けていたんだけどやっぱり本の通りになった。
早くカスピアンを連れて逃げなきゃ。
















「うん!博士、早くカスピアンのところへ!!!」
















私は壁に掛かっているマントを剥ぎ取ると足早に部屋を出た。
















********

とうとう冒険が始まります。
ナルニアに無事到着できるでしょうか…


2010/01/21






72話