「アスランの守人である方が何故ナルニアではなくテルマールに?」
私とグレンストームの話を聞いていたのか、ミノタウロスのアステリウスが問いかけてきた。
彼の言葉には棘があり、明らかに私を非難しているのがわかった。
「ナルニアの救世主がテルマールにいるから」
私は簡潔に言った。するとアステリウスは怒ったように目をかっぴろげ、壁を殴る。
ドンという音が響き、アスラン塚を整備しているナルニア人たちが一斉にこちらを見た。
「アステリウス!
すまない、私達はテルマールに全てを奪われてきた。だから簡単に受け入れられる事実ではないのだ」
「わかってるよ。でもナルニアの救世主はテルマールのカスピアン十世なんだ」
私の言い放った言葉に周囲はしんと静まり返った。
きっとグレンストームとアステリウスだけではなく他のナルニア人にも聞こえたんだろうね。
「カスピアンの叔父ミラースは自分に息子が出来たからカスピアン十世が邪魔になったの。だから殺そうとした。私はカスピアン十世と一緒にテルマールから逃げたんだけど……」
連れてくることは出来なかった。
最後の言葉が言えなかった。だって私は全く役に立たなかった。カスピアンを守るはずが置いてきちゃったんだもん。
アスラン、やっぱり私は自分に打ち勝てないよ。
だって私……
戸惑っている私の前にピーピキークが庇う様に出て、グレンストームとアステリウスを見上げた。
「アスランの守人には彼女の役割があるはずです。一緒にここに来なかったのはアスランの何らかの意図があるのでしょう」
「一隊員が口を出すところではないぞ、ピーピキーク。隊長はどうした!」
彼の言葉をアステリウスが切り捨てた…かと思っていたら全然違う。ピーピキークがアステリウスの言葉を無視したの。
「に聞いたところですとカスピアン十世が馬から落ちたのは松露とりの家付近です。現在我が隊長もそちらの方に向かっておりますのでこちらに到着するのもそう遠くは無いと考えられます。
カスピアン十世がナルニアの救世主となるかは、本人を見てからにしてはどうでしょうか」
ピーピキークの意見は完璧だった。その考えにグレンストームも異論が無い様。
でも一人唸り声を上げているアステリウスは両目を瞑ってゆっくり考えた後、ニヤリと笑った。
「流石だ、ピーピキーク。お前が隊長となる日は遠くないな」
「いえ。私は隊を纏める力がありませんので」
ピーピキークは謙遜したようだったけど、私から見れば彼が隊長でもおかしくないと思う。
でもリーピチープのことよく知らないしなんとも言えないけど。
私にとってピーピキークはとっても印象が良い紳士だもん!
彼を見るとアステリウスと共にニヤニヤしていた。
なんていうか、もしかして二人とも大の仲良しなんじゃ…?
「、アスランの守人として問う。そのカスピアン十世という者はナルニアの王に相応しいか?」
アステリウスがこちらを向き真剣な表情で私に聞いた。
彼は私をちゃんとアスランの守人として扱ってくれてる。だったら私も一ナルニア人としてはっきり答えなきゃいけない。
「うん。カスピアンはナルニアの王に相応しい人物だよ」
「そうか、わかった」
彼は私の背中をドンドンと叩くと武器を鋳造している者達の激励に向かったようだった。
うぅ…背中が痛い…
私達三人は再び話の続きをしようと顔を見合わせた。
さっきは下ばっか見ててちゃんと見なかったけど、グレンストームの顔はオレイアスを思い出す。
確かに森で暮らしてきただけあって髪とか髭とか整えてないけど、貫禄があって強そう。
そんなことを思っていたら、グレンストームがオレイアスみたいに前足を床について私を見上げた。
「?」
「よくぞお戻りになられました、アスランの守人・。私達は長い間お待ちしておりました」
彼がそう言うと、隣にいたピーピキークも床に膝をついて私を見上げる。
やだやだ、何の冗談!私はぺベンシーの四兄妹なんかと比べ物にならないくらい普通の人なのに!!!
見上げられるなんて慣れてない。っていうかヤダよ。
「何してるの二人とも!やめてよ!私は全然偉くない人だよ!!!」
私がそう言って立たせようとするけど二人とも立つ気がないみたい。
「、あなたはあなたの役割以上にナルニアを守ろうとしてくれたのです。我等はその時代にいませんでしたが、あなたの行った功績は数百年未だこの身に刻みこまれています」
「あなたはナルニアの王・女王が帰られた後もそのまま残り、私達のために尽力して下さいました」
憎まれてると思っていたのに、まさか感謝されるなんて思ってもみなかった。
だから正直嬉しかったよ。私のやった事を覚えていてくれてありがとうって思った。
「結局、空回りだったけどね」
「結果が全てではありません。我々は、ナルニアに残ってくださったことに感謝しているのです」
「ナルニアに残ったことに…?」
聞き返すとグレンストームとピーピキークは優しく微笑む。そして遠い昔を思い出すかのように空を見上げた。
「あなたの選択肢は二つあったはずです。そのままナルニアに残ること、そして元の世界へ帰ること。結果的にあなたは帰ることとなった。けれども帰る時期を遅らせ、ナルニアのために尽くして下さいました」
「そんなことまで知ってるの?」
「、あなたの事も古き時代の王、女王の事も伝承として受け継がれているのです」
「そして、ナルニアが滅びるまでそれは受け継がれる…」
グレンストームはそう言って立ち上がった。そしてアスラン塚の入り口を見据える。
「新たな時代の始まりに携わることが出来るとは…これも星の運命か」
彼は感慨深く溜め息を吐くと呟く。それを聞いてピーピキークがくすりと笑った。
「グレーンストーム、全ての生き物はいつでも新しい時代の始まりを担い、携わっていますよ。あなたのは大か小かの違いです」
「……ねずみにこそ大か小の違いが分かると思ったのだが」
「わかりませんね。大胆と小胆の違いはわかりますが」
「……」
ニヤリと笑うピーピキークにしてやられたという表情のグレンストーム。
言葉ではピーピキークの右に出る者はいないって感じだね。
「さあ、が少し休んだらカスピアン十世を迎えに行きましょう。
うちの隊長と出会った時に王子が剣をとったら、隊長が殺してしまいかねませんから」
彼の爽やかな言い方が多大な影響力を生み、私は休まずにカスピアンを迎えに行くことに決めた。
リーピチープならやりかねないって思ったんだもん。
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ピーピキークの名前は原作に出てきます。
彼自身は映画にも出ているはずです^^
2010/01/29
76話