カーンカーン…
塚の中に響いた鉄を打つ音。それは規則正しく鳴らされ、私の安眠を妨害する。
もう夜も更ける頃だというのに、ナルニア人達は働くのを止めなかった。
それはそうだよね。だってナルニアを取り戻すかの戦いだもん、みんなが必死になるのはおかしなことじゃない。
私はそう考えると寝ている自分が恥ずかしくなった。
ちょっと戦って疲れたからってみんなを置いて眠るなんて守人のすることじゃない!
そう言い聞かせて眠い目を擦りながら立ち上がる。
でも隣で剣を抱えて丸くなってるリーピチープを見て心が砕けそうになった。
忍び足でリーピチープとカスピアンを跨ぎ、その場を後にする。
鉄を打つ音が近く、耳鳴りがしそうなくらいになって両耳を抑えた。
「みんな頑張ってる…」
鉄を打つ者はおろか、武器を運ぶ者や夜食を作る者…みんなが額に汗をかきながら働いている。
私はじっとそれを眺めて色々考えた。
私に何が出来るか。
さしあたって私だけに出来ることは思いつかなかったけど、カスピアンの力になることは出来る。
ヘラクスに教えてもらった剣の腕があるし、まだカスピアンには話してないけど守人というナルニア人の信頼もある。
「きっと、私だってナルニアの役に立てる」
ナルニアの歴史が変えられないことは前来た時に痛感したもん。
ペベンシー四兄弟のいなくなった後に大人になって黄金時代のナルニアを保っていこうとしたけど、結果的に滅んでしまった。
アスランの言った通り、本の内容は変えられない。
「でも……少しでも良くすることは出来るよ」
私は働いているナルニア人たちに背を向け、アスラン塚の奥へと進んでいった。
たいまつで照らされた道を下りていくとそこには開けた祭壇。そして圧倒するくらい大きなアスランの彫り物。
「ナルニア国物語の本に全てが書かれているわけじゃない。書かれている物語を想像して、その中の小さな物語を作ってナルニア国物語を創りあげるのは、読み手自身だもん」
だから、私は物語の間にきっとある小さな物語を少しでも良くするよ。それでナルニア全体を見守る。
この考えが正しいのかはわからないけど、きっと間違ってはいないと思う。
だって、アスランは「違う」とは言わなかったから。
「本当に違ってても「違う」なんて言ってくれないかもしれないけど」
私はアスランの彫り物に笑いかけた。
「私は私らしく頑張るね!」
*
「おはよう、」
結局眠気には勝てなかった私は祭壇の上で寝てしまった。
起こしに来てくれたカスピアンはそれを怒ることなく笑うと、小さなパンのかけらとチーズ、干し肉をくれた。
「食糧があんまりないようだ」
「そうですか。ちゃんとみんなにいきわたってますか?」
「それは大丈夫。には戦ってもらわなければいけないのに、こんなに少なくてすまない」
「いいえ、お気遣いありがとうございます」
私はパンを齧りながらくすくすと笑ってしまった。だって、カスピアンてばいつの間にかこんなに成長してる。
テルマールにいたころとは打って変わって、甘えん坊で自由奔放な王子じゃない。
「何で笑ったんだ?」
「王子も成長しましたね」
「そんなことを思えるほど僕たちの付き合いは長くない」
そう言われればそうだ。でも小さい頃からナルニア国物語を読んでカスピアンのことは知っている。だからそう思っちゃうのかもしれない。
私のくすくす笑いが止まらずカスピアンの機嫌を損ねてしまったので、彼は「それを食べたら偵察に行く」とぶっきらぼうに言っていなくなってしまった。
後でどうにか機嫌を直してもらわないと。
私は干し肉とパンを口に突っ込むと、もぐもぐしながら祭壇の部屋を出た。
外に出ると、既に偵察隊として選ばれた者は集まっていた。
私が一番最後だったらしく、みんな私の顔を見ると「やっときた」という表情をして歩き出す。
カスピアンたら、みんな集まってるなら早く来いって言ってくれればよかったのに!
ぼうぼうと生えている草を分けて警戒しながら進む。
さっき機嫌を悪くしたカスピアンは隊の一番前をアステリウスと歩いている。
で、私はというと一番後ろ……
自分がナルニアの守人だってことも言ってないし、まだ怒っているような気がして話しかけ辛かったんだもん。
「はあ〜、いつ話せばいいんだろ」
どんどん時間が経ってしまうともっと話し辛くなってくのは目に見えてる。だからこんな状況でも早めに話した方がいいよね。
意を決してカスピアンの方を向くと一歩踏み出す。
カスピアンはアステリウスと何かを言い合ってたようだけど、急に私の方を見た。
「えっ」
いきなり目が合ったから驚いて声を漏らす。彼も同じように驚いたようで目を丸くして私を見ている。
私達はお互いを見て止まってしまった。どちらも動かない。
どうしよう…そう思ってもう一度踏み出そうとしたその瞬間、カスピアンはもうこっちを見ていなかった。
それどころか剣を抜いて飛び出してきた人に襲い掛かった。
「うりゃあぁぁっ」
キンッ
剣のぶつかり合う音が鳴り響く。
カスピアンともう一人の人は激しく剣を打ち合い、二人の力量は互角に見えた。でもそれは私の思い違いだった。
カスピアンは剣の柄で顔を殴られ体勢を崩す。何とか立て直したけれど、すぐに剣を跳ね上げられてしまった。
相手は剣を振り、彼は必死に避ける。そして相手の剣が木に刺さったところで彼は腹を蹴った。
「ダメ!やめて」
女の子の声が響く。あれ、聞いたことがあるような声だ。
その声に惹かれるように偵察隊のみんなはカスピアンの周囲に集まった。
私はというと、さっきの戦いに驚いて足が固まって動けない。
「カスピアン王子?」
相手の男性が言った。
カスピアンを知ってるなんて、もしかしてテルマール人がもう入り込んでいたの!?
私の固まった足はしびれを残したまま動き出す。そして一目散にカスピアンへと駆けていく。
「王子、ご無事ですか!?」
「大丈夫だ」
カスピアンは緊張を解くことなく言い、そして私の頭をぽんぽんと撫でた。
その行為に胸を撫で下ろすと、私は剣を抜きはらって構える。
「王子は私がまも……」
切っ先を突きつけた相手を見て驚愕する。
だって、そんな、ずっと会いたいと思ってた人たちのうちの一人だったんだもん。
「まさか、?」
彼は突きつけられた切っ先を気にすることなく私の名前を呼んだ。
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やっと会えたwww
2010/04/16
80話