日も傾き、昔の王・女王が私たちの元へ帰還してきた一日が終わりに近づく。
まだ何の変化もなく、ナルニアの森は静けさを漂わせていた。
私は薄いケープを羽織って外に出ると深呼吸をした。
「これから、何が起こるのかな」
そしてアスランは、いつ来てくれるのだろう。
戦いは目前へと迫っている。けれどもまだナルニアは…ここは静か。
私が散歩しようと思って外に出ても誰に襲われるわけでもない。
急に冷たい風が吹いて、羽織っていたケープが飛ばされる。
驚いた私は慌てて手を伸ばして端っこを掴んだ。
「」
ふう、とため息を吐いた瞬間声を掛けられる。
びくりと肩を震わせて振り向くと、そこにはカスピアンが立っていた。
彼の纏っている雰囲気はこの静けさに似合わず燃えている。
きっと、私が本当のことを言ってなかったことを怒ってるんだ。
「王子…」
「王子なんて呼ぶな、ナルニアではお前の方がもっと位が高い」
「カスピアン、私に位なんてないよ」
「っ……でも、あの四人にはあるだろう?」
カスピアンは私から目を逸らすとアスラン塚を見つめた。
「あの四人」彼はそう言ったけど何故だかピーターだけにそういう思いを抱いているように聞こえる。
「彼らは選ばれた王・女王。でも私はナルニアの行く末を見守るだけの人間」
「アスランに選ばれたのに?」
怒りが見え隠れする声を浴びせられて次の言葉が出てこなかった。彼は何を言いたいのかな。
私は彼から視線を外すと空を見上げる。
「…真実を話さなくてごめんなさい。ちゃんと言うべきだった」
「本当だ。……博士は知っていたのか?が守人だということを」
「うん、知ってたよ」
「そうか。博士が知ってたならいい。博士をも騙してたんなら…」
「騙してたら?」
「……いい」
カスピアンはそう言うと気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
すると周囲に静けさが戻り、彼がもう怒ってないことに気付く。
「許してくれたの?」
「ああ。博士と一緒に内緒にしてたってことは、僕のためを思っての事だろうからね」
「博士と違って私って信用ないなぁ」
「当たり前だ。まさか女の子だってことも隠してるとは」
突然の発言を聞いてズッコケそうになった。だって私が女の子だってことは全然隠してないのに。
彼をまじまじと見て気付くけど、こんなに冷たい風が吹いてるのにすごく薄着。肌着しか着てないみたい。
私はフゥとため息を吐くと、羽織っていたケープを取って彼の肩に掛けた。
「?」
「あなたはここで頭を冷やすべきです」
「?」
「私が女の子じゃないって勝手に思い込んだでしょ!」
眉毛を釣り上げて怒声を発した。するとカスピアンが驚いたのなんのって。
目をかっ開いて何も言えずに私を見返す姿が面白いのなんの!
私はそれ以上何も言わずにアスラン塚に戻っちゃった。
最後に「自分は女だって訂正してくれればよかったのに」と呟いてたのが聞こえたけど、そんな訂正は悔しくて出来るわけないじゃん。
女の子はちゃんと女の子だってわかってもらいたいもんね。
*
塚に戻ると、何故か腕を組んで仁王立ちしたピーターが待ち構えていた。
表情は硬く、憤りを抑え込んでるみたいだった。
「ピーター?」
「、カスピアン王子と話していたのか?」
「うん」
「……そういえば、ケープはどうしたんだ?外は寒かっただろ」
ピーターの話し方には少し棘があったけど、会わないうちに彼も本当の世界で歳をとったんだもん。
大人っぽくなったっていうんだよね。
でも私がケープを羽織って外に出たことを知ってるとことかは昔のままのピーターだよ。
細かいことに気を配れる王様だもんね。
「カスピアンがまだ外にいるみたいだから貸してあげたの」
「……すぐに作戦会議を始めるから石舞台の部屋に来てくれ」
「……?」
あれ?さっきから答えた質問に関してスルーされてる気がするんだけど…。
ピーターは踵を返すとスタスタと歩いて行ってしまう。
そんな彼にひょっこり出てきたスーザンが声を掛けた。
「あ、ピーター、作戦会議の準備が出来たわ。カスピアン王子を知らない?」
「が知ってるんじゃないか?」
ピーターはちらりと私の方を見て言う。なんかとっても機嫌が悪そう!
スーザンは不思議そうにピーターを見て私の方を向いた。
「、カスピアン王子は?」
「外にいるよ」
「そう」
なんかスーザンまでよそよそしい気がする!!!
久々に会ったんだから、もっと抱き合うとかして喜びを分かち合いたかったのに。
前の二人なら絶対、抱き合って喜んで話とか尽きなかったはず。二人ともどうしちゃったんだろう…。
時が経って、本当に大人になっちゃったのかな。
「」
うんうん唸りながら歩いてるとエドマンドに呼ばれる。私がはっと顔を上げて見るとエドマンドは笑っていた。
「本当に久しぶり」
「うん…!」
「元気そうでなによりだよ」
「エドマンドも」
「なんか、大人になった」
「そうかな?十七歳になったからかも」
「初めて会った時から二年経ったんだ…」
感慨深げに言うエドマンドの言葉に笑ってしまう。だってなんかおかしいもん。
二年とか言うけど実際一緒に居た期間は長い。
「それの言葉は変だよ。だってずっと一緒にいたじゃん」
「そうか…そうだった。が大人になったのも見たんだった」
「うん」
「……そうだ、僕達がナルニアから消えた後には…」
「エド、早く来い!!!」
エドマンドの言葉はピーターの怒声に遮られる。
私が話したかった話題なのに、話せるのはまた先延ばしになっちゃうよ。
「わかった。も行こう」
「うん」
私はエドマンドと連れ立って祭壇の部屋へと向かった。
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2010/05/07
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