今までこんなに緊張したことあったかな…。
心臓がばくんばっくんいって頭の中は真っ白だし、手の平には脂汗かいてるし、どうにかなっちゃいそう。
それくらい緊張しちゃって、これ以上に緊張したことなんて思い出せもしないよ〜っ!

私は今、テルマール軍の野営地を引っ張りまわされていた。
兵士達の好奇な目にさらされて、いてもたってもいられないような状況にも関わらず、そんなことも気にならない。
だってこれから一世一代の芝居をうって、自分を守らなきゃいけないんだもん。

それにはミラースが私をどう扱うかにかかってるんだけど、こればっかりはわからないから不安。
彼に感じる昔の絆を信じるしかない。










「ミラース王」










兵士の一人が彼の名を呼ぶ。すると彼は将軍とか幹部の人たちと話し合っているのを止めてこちらを見た。
そして言ってくれたの。










、どうしてここに」










と。

どんなにホッとしたことか。
もし知らないの一点張りをされたら、この後は拷問とかが待ってたかもしれない。










「存在がバレて城を追い出されたの」

「城を追い出された?……そうか」

「それで仕方なくここに向かうしかなくて……」

「………」










ど、どうしよう!ミラースが黙って考え込んじゃってる!
嘘は言ってないけど、やっぱり強引すぎたかな。

どぎまぎしながら彼を見ていると、隣の男性が口を開いた。










「ミラース王、この女子は?」

「ああ、ソぺスピアン卿。彼女は私の愛人だ」

「愛人!?」










ミラースは難なく私を愛人と言い、ソぺスピアン卿は大層驚いている。
確かに私は、愛人には見えないもんね。










「後継ぎが生まれたばかりだというのに」

「だからこそだ。若い女が欲しくなる」

「……そうですか」










あまり納得がいかないようで、私の顔をちらちら見ている。
もうちょっと女の子らしかったら演技のしかたもあるのに!!!
髪を切ったことが悔やまれて仕方ないよ〜っ。










「あらかた妻に追い出されたんだろう」










ミラースが助け船を出してくれた。私は頷くと続きを話す。










「鬼のような形相で部屋に入ってきて、「戦争に巻き込まれて死ねばいい」というニュアンスのことを言われました」

「やはりな」










彼は腕を組むと兵士に命ずる。










「私の天幕に連れて行ってやってくれ。縄も外してな」

「はっ」










私を縛って連れてきた兵士達は焦り顔で頭を下げる。
すぐに縄を外してくれて、ひときわ大きな天幕へと案内してくれた。

中に入ると何部屋かに仕切られているのがわかった。
だって入った部屋はこの大きさの天幕から見れば狭いし、天井からは不自然なところに布がぶるさがっている。










「面白いつくり…」

「そうだろう」










ミラースの声に振り向くと、彼は入口で私を見ていた。
小さく頷くと、さっと入ってきて私の横に並ぶ。










「まさかこんなに早く見つかってしまうとはな」

「え?」

「妻に見つかって城を追い出されるとは考えもしなかった。しかしよくよく思い出してみれば、妻にとってお前の名はトラウマになっているのかもしれん」

「トラウマ?」

「そうだ。私達は婚約が早かったのだが……、お前を探すことに夢中だった私は妻を眼中に入れなかった。だから今の今まで子供も授からなかった」










そういえば奥方がそんなことを言ってた。
無言で見つめていると、ミラースは言葉を続ける。










「お前を探すのを諦めた頃は等に三十半ばを過ぎていた。諦めたらすることがなくなってしまったから、王位を狙う事にした」

「そんな……それでカスピアン九世を?」

「そうだ」










ミラースは悪びれた風もなく事実認めた。
途端、私の胸はとても苦しくなってしまう。だって、彼はそんな人には見えなかったのに。










「若き日の私は、お前に会うまではずっと王位を狙っていた。兄は私にいつ殺されてもおかしくなかったのだ。
しかしお前が現れて私の心を奪ってしまったせいで、こうしたナルニアとの戦争が勃発したのだ。
いうなればお前のせいだな、この戦争は」

「そんな!!!」










笑うミラースが悪魔に見える気がした。
一つしかない真実は解釈の仕方によってどんな事柄にも例えられる。

千三百年前の私の行動だってそうだったのを痛い程わかったじゃない。
でもやっぱり面と向かって言われると堪えるよ……










「ふ……、そうではないか。お前が現れて消えたお蔭で、兄は結婚しカスピアン十世を設けたのだ。カスピアンはお前のお蔭で生まれ生き延び、そしてナルニアの王に治まろうとしている」

「……」

「お前の行動は全てナルニアの未来のためか?」










ミラースは私の顎に手を掛けると、無理矢理上を向かせる。
抵抗しても無駄だってわかった。私は彼の手中にいるんだから。










「ナルニアに向かわずここに来たのも、全てはナルニアのためか?」

「ちが…」

「我が軍は強大だが脆い。そこに私を貶めるためにやってきたのか?」










何のことだかわからずに彼を見返す。すると激高をおさめるように息を吐くと、私を離してくれた。










「この軍は権力で成り立っている。総指揮官は私だ、テルマールの王になったのだからな。だが私にその権力が無くなったら、誰かがとって変わるだろう。
たとえばソぺスピアン卿……彼は私の次に権力がある」

「?」

「お前は本当にナルニアの守人か?政治や権力の事は何もわかっていないようだ」

「…ごめんなさい、本当にわからないの。ナルニアではそういうことに携わってなかったから」

「そうか。私は守人というものを間違って理解していたらしいな。
お前がこの陣営に現れたことで、私は危機に陥っている。もしナルニアの守人だと知られてみろ、私はそれを匿った者になる」

「あっ…」










私ってば、自分がナルニアのみんなの足手まといにならずにする方法ばかり考えて、ミラースのこと考えてなかった!
彼はいつかはカスピアンに負ける…けど、私のせいでそれも変わっちゃうのかもしれない。

……ううん、そんなことない。大丈夫信じなきゃ。
もしかしたらそのことによってミラースの命も助けられるかもしれないし。










「でもあなたは私を助けてくれた。昔と変わらない優しい人」










そう言うと、何とも言えない表情で唇を引き締めて私から目を逸らす。
しばらく何も言わず、置いてある椅子に腰掛けて肩を落とした。










「お前は裏の部屋を使うといい。愛人を別の天幕にするわけにはいかないからな」

「ありがとう、ミラース」

「外から入れるようになっている」

「わかった」










彼を一人残して天幕を出る。裏に回ると言われた通り入口があった。
中に入ると人一人が寝れるくらいの小さな部屋になっていた。ちゃんと敷物もしてあってゆっくり休めそう。










「疲れた…」










そこに座り込んでぼーっとしていると、いつの間にか眠ってしまった。









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2011/04/10



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