目の前に見える光景は何?









私を庇っているサジェ?









生暖かい血がぽたり、ぽたりと、


彼を貫いている剣の切っ先から私の元へ、











落ちる




































「無事で…良かった…」












サジェは再び呟く。

その目は、痛さに歪んでいるけれど、真っ直ぐに私を見つめている。







「サ…ジェ…?」







私は思わず、彼の頬に手を伸ばす。

暖かい体温。



































「なんて馬鹿な犬だ。」



サジェを刺した男は、思いきり剣を抜いた。








「ぐぅ…」







低く唸り、ドサリと私に倒れ込むサジェ。

彼の後ろから私達を殺そうと、剣を振翳す男が視界に入る。







































私は、









サジェと一緒にこの世界からいなくなりたい、と思った。












あぁ、この世界は、なんて悲しい世界なのでしょう。











大切な人とも幸せに生きて行けない世界。









いくら欲しても手に入らない。










どうして、こんな世界に生まれてしまったのでしょう。

















































「覇王爆砕撃!!!!」







ヴァーツラフ兄様の声が聞こえた瞬間、剣を振翳していた男が視界から消える。








遠くで聞こえる男の叫び声。
怖いくらいの怒声で叫ぶ兄様。






鈍い音が響く。




































私はゆっくりとサジェの体を離し、体勢を整えて膝に抱く。





様…」



「何…サジェ…」



「これを…」








サジェは懐に手を入れる。







ブチッ






鎖が切れる音がする。








「貴方のために、造らせたものです……」








震える手で私に持たせる。



それは小さな宝石が付いた指輪。












その宝石の色は、サジェの瞳と同じで優しくて、深い碧。





































「貴方と共に…居たかった。













貴方と共に…生きたかった…













…貴方に………って…」










































ふわりとつぶる目。





コトリと落ちる手。






























「サジェ?サジェ?起きて!!」





頬を叩いても、目は開かない。



痛い程手を握っても、握り返してくれない。



話掛けても、あの低くて響く声を返してくれない。

















彼はもう、動くことは無い。
















サジェは、この世界からいなくなってしまった。


















































「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」








































私は、何度も何度も彼の名を呼び、彼の体を掻き抱いた。









































































!!!」






兄様に呼ばれて気がつく。




「大丈夫か?」




心配そうに私の顔を覗くヴァーツラフ兄様。




「わ、わたしはっ…だいじょぶ…だけどっ…サジェが…」



「………」





兄様は一言も発しない。





「に…さま…」






でも、兄様の顔から痛いほど分かるその気持ち。













「……クルザンドに、帰ろう。我々の勝利だ。」











兄様は無理矢理私を立たせようとする。


私の膝からガクリと落ちるサジェの体。










「いや!!!!サジェを、置いては行かない!!」









砂漠の戦で死んだ者を連れて帰る事はしないのが普通。

腐敗が早く進むため、クルザンドに着く頃には見るも無残な姿になっている。

そのため、砂漠に捨て置き、砂に埋もれて行くのを待つのだ。
















でも、それでも、






「絶対に、サジェを置いては行かない!!!」





…」













兄様は溜息を一つつくと、鎧を外し始めた。
そして、サジェの体を軽々と担ぐ。







「行くぞ。」





そして、私の手を取り歩き出す。
























兄様に手を引かれ、とぼとぼと歩く私。







私の頬を流れ伝う涙は、止まる事を知らない。






私の涙は永遠。






その言葉が合う位、溢れ出す。



ふと、顔を上げる。












兄様に担がれたサジェの顔は、穏やかで微笑んでいる様に見えた。





















































「ヴァーツラフ!!!無事だったんだね。」

戦いが終わり、元に戻ったヴァル兄様はヴェティ兄様と共に、ヴァーツラフ兄様を見つけて走り寄って来る。



そして、目を見開いて立ち止まる。






「それは、サジェ…かい?」





ヴァーツラフ兄様は頷く。





「まさか、そんな。」





ヴァル兄様は信じられないという顔をしている。




「僕と対等な力を持っている筈のサジェが、殺されるなんて…」


「マジかよ…」








心に棘が突き刺さる。










サジェが殺されたのは、私の所為なのよ。

そう、言いたい。










「サジェは、を守って死んだのだ。」



を!?…そ…うか…。、怪我は無いかい?」



「……」





何も言えない。何も答えたくない。

もう、何も考えられない。








「!?、酷い怪我をしているじゃないか!!!!」



ヴァル兄様は私の背に回り、傷に気付く。
ヴァーツラフ兄様も驚いてサジェを担いだまま私の背を見る。






斜めに付けられた傷。
縁は血が乾いている。しかし、深く切られた所は砂を巻き込みながら膿んでいた。





「これは酷すぎる!!すぐ応急処置を!!!」

ヴァル兄様は叫ぶ。




「はやく!!」




「おい、…」




「…!!」





















あれ?段々兄様達の声が遠くなる。



張り詰めていたものが一気に引いていく気がする。






私、気を失うんだ。






不思議と落ち着いている自分が居て、なんだか…








虚しかった。




















































気がつくと、ここは自室で私はベッドにうつ伏せに寝かされていた。




背中の傷が疼いて痛い。




それよりも、心が痛い。






全部が、全部が夢だったら良かったのに。


いつもみたいにヴァーツラフ兄様の部屋の前で待っていたら隣の部屋からサジェが出てきて、

「ココアを召し上がりますか?」

って、言ってくれて。















でも、夢じゃないんだ。

だって、私の背中にはあの傷があるのですもの…。



















視線を横に移すと、ベッドの横の棚に置いてある指輪を見つける。

それを取ろうと必死に腕を伸ばす。


叫びたいくらいに痛い背中。



でも気にしない。




がしりと指輪を掴むと、目の前に持ってきて抱きしめる。





指輪はひやりと冷たくて、悲しい。











ゆっくり指に通してみると、


ぴったり。






サジェは凄いなぁ、なんて感心する。













視界がぼやけてくる。




私、また泣いているんだ。




でもいいよね。誰もいないもの。
















「サジェ……」




















あなたは最後、私になんて言ったかしら。




ふふ、…そうね、私も願うわ。




















































『貴方に、再び出会えることを願って…』
















































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お疲れ様でした。

人は、あっけなく旅立ってしまう。
大切な者、愛する者を置いて。

それを思うのも引きずるのも人の感情。

感情というのは厄介です。

人は感情があるから、生きていく中で色々な経験をする。

感情があるから、戦う。

全てが感情から行われるものなのではないでしょうかね。
本当に、厄介です。

感情がないと人ではなくなってしまうとも思ったりしますが。


人は本当に、複雑な生き物ですね。



ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!!


2006/04/05




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