「にいさま〜」
「にいさまどこ〜?」
城内を彷徨う小さな幼女。
彼女はクルザンド王統国第一王女・ボラド、3歳。
おぼつかない足取りで丈の長いドレスを引きずりながら、必死に兄を探している。
「にいさま〜!」
上手く舌が回らないのか、叫ぶ声がなんとも可愛らしい。
彼女が廊下の角を曲がろうとした時、反対から来た何者かにぶつかって思い切りはね飛ばされた。
「ひゃうっ…!」
彼女はその何者かに顔をぶつけ、バタリと転倒した。
「だ、大丈夫か!?。」
その者は彼女に手を差し出す。
彼女はぶつけた顔を痛そうに擦ると、差出された手に片手を添えて立ち上がった。
に手を差出したのはヴェスティクス・ボラド、彼女の二番目の兄である。
彼女は兄を一瞥すると、
「にいさまは?」
と聞いた。
「(俺も兄なんだけど。)どっちの?」
ヴェスティクスは心の中で突っ込みを入れながら問う。
「ヴァルにいさま。」
は真剣な顔で言う。
「あぁ、兄上は嫁さんの実家に行ってるよ。ヴァイシスが病気らしい。」
ヴェスティクスが言ったヴァイシスとは、第一王子ヴァルシードの子である。
「ヴァイシスびょうきなの?」
は心配そうな顔で兄を見上げた。
その顔は焼きたてのパンに円らな瞳がちょこんと付いたようで、ふっくらして可愛らしかった。
(は絶対に可愛い女になる!!さすが俺の妹だ!)
ヴェスティクスは頭の中でパチンと指を鳴らした。
「…そのうち良くなって帰ってくるだろ。」
彼は返事を簡単に流すと、を優しく撫でた。
「そう…。じゃあ、ヴァーツラフにいさまは?」
は少し考えると、もう一人の兄の場所を聞いた。
「ヴァツ?あいつは出かけてるよ。戦いにな。」
ヴェスティクスは苦々しい顔をした。
の顔が途端に曇る。
「たたかい…。じゃあ、だれもいないのね。」
そして寂しそうに呟く。
(オイオイ、俺が目の前にいるだろ。)
「他には?」
ヴェスティクスは顔を引きつらせながら聞く。
「………ヴェティにいさま?」
少し間があったが、やっと自分の名前を呼ばれる。
しかし…
「…なんであからさまに嫌そうな顔をするんだ?」
の目はじとっと兄を見ていた。
「してない。」
はつんと横を向いた。
(このガキ…)
その態度に、ヴェスティクスは一瞬本音を出しそうになった。
ヴェスティクス、以下ヴェティは、子供があまり好きではなかった。
彼からすれば、子供とは@めんどくさい。A目障り。Bマジムリ。←??
と、彼の三大嫌Mを占拠する程である。
(子供嫌いを挙げたら切りが無いんだがな。)
彼はこうも思う。
― 可愛い妹(見た目は本当に可愛いんだ!ヴェティ談)だから許せるが、他人の子供
なら殴っている所だな。
「…俺も探していたのか?」
ヴェティはにっこり微笑んだ。
「ううん。」
はつんとした態度で否定すると、彼のズボンを掴む。
「ヴェティにいさまでもいいの。あそんで♪」
(……俺でもいいって……俺、何かしたっけなぁ。
自身はまだガキだから手をだしてないし、教育係りもオバハンばっかだし…
とりあえず周囲には手を出してない。…うーん、何で嫌われているんだ?)
「いーくーのー!」
ヴェティが訝しく頭を巡らしていると、は早くしてー!と引っ張った。
(今日はガキ守りか。)
そしての顔を見る。
目がきらきらとこっちを見ている。
― う、可愛い。
(…ま、たまにはいいか♪)
「わかったわかった。」
ヴェティは溜め息をつくと、歩き出した。
*
「きゃー!様!!」
を肩に乗せて廊下を歩いていると、若い女の召使たちが寄って来た。
「まぁ、ほっぺたが可愛い!」
「今日はヴェスティクス様とお散歩ですか?いいですねぇ。」
召使達は次々と話しかけに来る。
「ご…きげんよお!」
はたどたどしく言うと、テヘと下を出した。
そんな仕草をする度に女達が黄色い声を上げる。
彼女達の目的はだが、囲まれている様に見えるのはヴェティの方である。
(を連れ出すと、結構イイかも♪)
彼は心の中でニヤリと笑った。
「君達は、とこうやって会った事はないのかい?」
ヴェティは髪をかき上げながら、キザっぽく聞く。
「遠くでお見掛けする事はあるのですが、いつもヴァーツラフ様がお守りされていて、近づけないんですよ。」
彼女達は笑う。
(…ヴァツは、にベッタリだからなぁ。)
「ふ〜ん、そうなんだね。じゃあ君、今度の寝顔でも見ながら俺と♪」
ヴェティは目を付けていた召使にウィンクした。
「遠慮しておきますね。」
召使はそう言うと、彼ににこりと笑い掛ける。
(チッ。ダメか。)
ヴェティは心の中で舌打ちをした。
*
彼は、召使の女性達に始まり、位の高い女性、軍の女性などなど、一日中を肩に乗せて廻った。
(まともに靡いてくれるのはいなかったけど、次に繋がる機会が持てた。まあまあの成果だな。)
彼はニヤリとすると、を見上げる。
彼女はたくさんの女性に愛嬌を振り撒いていたために疲れたのか、うとうとしていた。
「俺のためにありがとな、。」
彼はにこりと微笑むと、ぷにぷにした頬をつついた。
その時。
「!!!!!!」
彼女の名前を叫ぶ者がいた。
ヴェティはギクリとする。
「この声は………ゲッ……ヴァツ!!」
ヴェティが振り返ると、そこには息を荒げた弟が立っている。その後ろには小さく控える弟の付き人サジェ。
弟の目は、突き刺すかのように鋭い。
「兄上、何をやっているんだ!!!」
弟はドスドスと怒りを踏みしめながら近づいてきた。
「ヴァ、ヴァツ…」
ヴェティは弟の凄みに負けて後ずさる。
そんな彼に、ヴァーツラフは手を差し出す。
「?」
ヴェティは弟の行動の意味が分からずにぽかんとした。
その顔にイラつくと、ヴァーツラフはサジェに命令する。
「サジェ!」
サジェは呼ばれると、「失礼します。」と言って、ヴェティの肩からを抱き取る。
(そういうことね。)
ヴェティは呆れると、ふうとため息をついた。
サジェは、をゆっくりヴァーツラフに渡すと、後ろへ下がる。
「ん…、あ、ヴァーツラフにいさま!!」
うとうとしていたは、目を擦ると嬉しそうに笑う。
(俺の時はあんなに嬉しそうじゃなかったぞ。)
ヴェティは鋭くツッコんだ。
「、何もされなかったか?」
ヴァーツラフは妹の腕や頭を触ると、何もなっていないことに安心する。
「俺は獣か?」
ヴェティはじとっと弟を睨んだ。
その視線を気にすることなく、ヴァーツラフはに話しかける。
「危ないからヴェスティクス兄上に近づくなといっただろう?」
(俺はいったいなんなんだよ。)
「ご、ごめんなさい。」
(…も何故そこで謝る。)
「何も無かったからいいが、今度は気を付けろ。」
ヴァーツラフはくしゃりとの頭を撫でた。
はくすぐったそうにすると、にこりと微笑んで頷く。
(ホント、俺っていったいなんなんだよ。)
ヴェティは呆れ返って彼らを見守ることにした。
(さすがの俺も、ヴァツのシスコンには勝てん。)
彼らはヴェティの存在を忘れ、その場を後にしようと歩き出した。
「結局俺は無視か。」
ヴェティは寂しそうに呟く。
しかしその時、が突然振り向いてこちらへ走ってきた。
そして、勢いよく抱きつくと、ヴェティに満面の笑みを向ける。
「きょうたのしかったよ!!ありがとうヴェティにいさま!!」
「あ…、ああ!」
の笑みに殺られながら、ヴェティは嬉しそうに返事をした。
そして、急には小声になる。
「あのね、ないしょなの。
ね、ヴェティにいさまのこと、
…べたべたしてくるヴァーツラフにいさまよりだいすきよ。」
そう言うと、にっこり笑った。
(…微妙な位置だ。)
「…そ、そうか。嬉しいよ、。」
ヴェティは引きつり笑いで答える。
「!!早く来い!!」
遠くでは弟が心配そうにを呼ぶ。
そんな彼を見ながら、ヴェティは良い案を思いついた。
「おーい、ヴァツ。」
弟を呼ぶ。
「な、なんだ。」
呼ばれた弟はたじろいだ。
― ふっ…今だ。
「は、(べたべたする)お前より、俺のほうが好きだってよ!!」
こう叫ぶと、弟は石のように動かなくなる。
「あ、ないしょっていったでしょ!!」
更にの一言で追い討ち。
――― ドサッ
ヴァーツラフは見事に崩れ落ちた。
崩れ落ちる弟の横で、付き人サジェはくすくす笑っている。
「は〜、良い気分♪ありがとな、。」
ヴェティは妹に軽くキスをすると、鼻歌を歌いながら歩いていく。
「弟は、数時間意識が戻らなかったそうだ♪」
そして、こう解説を加えると、二ヒヒと笑った。
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第一話『ヴェティにいさま。』です。
お疲れ様でした。
ヴェスティクスが少し掴めてきましたでしょうか?
今回は少しギャグにしてみました。
ヴァーツラフのシスコン度を高めにね♪
なんだかヴェスティクスの独り舞台でしたね(苦笑)
かなりツッコんでますが、子供ってツッコミ所満載ですから!(何)
少しずつ、兄様達を語りたいなぁ、なんて。
2006/02/28
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