ある晴れ渡った日の夕方、
(といってもこの国は殆ど晴れているので、解りやすく言うと久々の雨が降った翌日の快晴)
王城の内庭で、長身の第三王子と5歳になったばかりの王女の散歩が見られた。
「にいさま、当分はいらっしゃれるの?」
心配そうに聞く。
王子はそれに優しく微笑むと、そっと頬を撫でた。
「ああ。当分はいるつもりだ。」
妹は嬉しそうに笑うと、きゅ、と王子の足を抱いた。
クルザンドの中心であるクルザンド城は、街の中心部の高台に建っている。
内庭からは、街や城壁の向こう側の砂漠を見渡せるので、彼らが散歩している姿がよく見られた。
「は、いつの間にか大きくなったな。」
王子は微かに笑うと、寂しそうな顔をした。
妹はその顔の意味がわからず、ただ彼を見上げている。
「にいさま?」
「あ、すまぬ。」
妹に呼ばれて、自分が微妙な顔つきをしていたのに気付くと、彼は謝った。
「寒くなってきたな…。さぁ、中に入るか?」
辺りを見渡すといつの間にか空気は冷えて、橙色になった夕焼けが見える。
空は橙から始まり、赤、紅、紺と美しくグラデーションされ、間もなく夜がやって来るのを示していた。
彼は妹の顔を覗く。よく見てみると寒さからか、頬が少し赤くなっていた。
「風邪をひくぞ、。」
「もう少しだけ、ここにいたいの。」
妹は見上げて訴えると、彼のズボンを掴んだ。
「様、さぁ。」
王子の付き人のサジェがどこからともなく現れ、体を屈めて、王女の肩に暖かそうなブランケットを掛けた。
「ありがとう、サジェ。」
妹は満面の笑みでお礼を言うと、サジェの頬に軽くキスをした。
「ありがたき幸せ。」
サジェはこう言うと、王子の顔をチラリと見た。
「……」
王子は無言で彼を見ている。その目には、非難の声も含まれていた。
「では。」
サジェは、彼の機嫌を損ねないようにそそくさと引き下がった。
「ねぇ、にいさま。」
「うん?なんだ。」
妹は街を見渡す。
「ここは、きれいね。」
そして、遠い目をした。
それは5歳児には見えないくらい大人びた姿で、王子は急に歳をとった気がした。
「…」
― お前はいつか、どこかに行ってしまうのだろう。しかし、それまでには…
「はこの国がすきです。」
妹は彼を見ると、にこりと笑った。
「…私も、クルザンドが好きだ。」
王子はそう言うと、妹を抱き上げる。
― だからこそ、あの戦いで始めたものを勝ち取らなければならない。
クルザンドを存続していくには、豊かな領土と資源が必要なのだ。
王子は妹を肩に乗せると、9時の方向を指差した。
「あの向こうには、クルザンドの未来がある。」
「みらい?」
「そうだ。私は、そのために戦っている。」
妹を支えている手の力が無意識に強くなる。
きゅ、と彼の大きな手が体に食い込む。
それは不思議と痛く無く、優しい感じがした。
その優しさに安心すると、妹は彼の頭を抱き締める。
「にいさま、だいすきよ。」
妹がそう言うと、彼は救われた気がした。
― 私には、守る者がいる。このクルザンドを、もっと広げて豊かな国にするのだ。
が、幸せになるように。
「にいさま?」
「…なんだ?」
妹は彼の眉を触りながら、甘声で話しかける。
「は、大きくなったらきっと、にいさまを守るためにたたかうわ。」
「…。」
「も、クルザンドのおうじょですもの!」
可愛い妹はそう言うと王子の頬にキスをする。
彼女にとって、そのキスはサジェにしたようなキスと同じものだったかもしれない。
しかし、ヴァーツラフにとってはとても重く、幸せなものだった。
「そうか。なら、守ってもらうぞ。」
彼はそう言うと、頭を妹の体に摺り寄せる。
「いいよ!!」
妹は彼の頭を受け入れると、頬を摺り寄せて嬉しそうに笑った。
あくる日のクルザンド城の内庭。
第三王子と妹姫が仲良く散歩をしている。
… ヴァーツラフはいつまでも、この幸せな刻が続くことを願っていた。
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第三話『夕暮れ時の幸せ』でした。
お疲れ様でした。いつもみたいにダラダラ長くしなかったつもり
なのですが…。ほのぼのっていうより、シリアスでしたね。
でも、最後辺りの彼が頭を摺り寄せるとか!!!!!!!
ヤバイですね〜。危うい所に入りそうでしたっ☆
ヴァーツラフ24歳ですよ。わ、若い。
2006/03/02
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