「本当なのですか!?」
「だから、違うと言っているだろう?」
第一王子ヴァルシードの書斎に響く女性の声。
ドアは開け放しになっており、彼女が急いで入って王子に食いついたのを表している。
召使達は見て見ぬふりをしながら部屋の前を通って行き、ドアの外ではチラチラ中を見ながら震えている、王子の息子ヴァイシスがいた。
「今度こそ、本当なのではないですか?」
彼女はつんとした態度で言った。
「僕がそんな人間に見えるのかい?」
ヴァルシードは諭すように言う。
「……見えませんけれども。」
「そうだろう?」
彼女は困惑した顔つきになると、「でも」や「そんな」と呟き出した。
彼女はヴァルシードの妻エレイナ。クルザンドの貴族出身だ。
彼とは政略結婚(のようなもの)だったが、それなりに幸せな生活を送っており、彼らの間にはヴァイシスという息子も産まれている。
エレイナは決して美人とは言えない女性だ。背は低くふくよかで、良く言えば可愛らしい方ではあったが。
では、彼らは何故、結婚する事になったのか。
妹のが産まれるとすぐ、ヴァルシードは自分にも子供が欲しくなった。
「相手をつくるのが苦手だったけど、募集すれば相手も簡単に見つかるし、その人一人を愛していけばいいんだろう?」
彼はこう言うと、妻募集の御触れをクルザンド中に出した。
ここで集まったのは、街娘からボラド家と共にクルザンドをつくって来た、いわゆる貴族の娘達。
募集に規定をかけていなかったため、老若関わらず相手がいない女性達はすべて参加した。
これでは全く選べないと判断したヴェイシス王は、自ら進み出て彼女らを篩にかけた。
「ここから一目惚れで選べばいいではないですか。」
当の本人は軽く言うが、王はそこだけは譲れない様子だった。
「ヴァルシード、妻を娶るのは良いことだが、ちゃんとした妻を選ばんとクルザンドの行く末が見えぬだろう。」
王はそう叱咤すると、彼女達の中から貴族と淑やかな街娘を選んだ。
王に減らされた女性達を見回すと、ヴァルシードは空を仰いだ。
刺すような日差しが痛く、右手で日差しを避ける。
この強い日差しは、乾燥地帯であるクルザンド特有の日差しだった。
彼はその日差しを見つめると、ふと視線をおとす。
パチン
その瞬間、彼の中で何かが弾けたような気がした。
彼の目線の先にはエレイナが立っていたのだ。
彼女は真っ直ぐと彼を見つめ、視線が外れることはなかった。
それを少しの間見つめ、ヴァルシードはフと笑うと、彼女に手招きをした。
周囲の女性達は、ヴァルシードが急に手招きをしたので、誰に手招きをしたのか血眼になって探した。
エレイナは女性達の態度を気にせず無言で彼を見据えると、ゆっくりと歩き出した。
エレイナが横に来ると、ヴァルシードは隣にいる王に
「僕は、この人を娶りますよ。」
と、言った。
王はびっくりしてエレイナの足先から頭の頭の先まで穴が開くほど見つめると、
「安産型ではあるが…」
と呟いた。
その時、エレイナが口を開く。
「王様、私は美人ではありません。しかし、ヴァルシード様に健康な男の子を産んで差し上げることは出来ます。」
はっきりと言う彼女に、王は圧倒された。
この言葉には王は何も言えず、
「…そうか。」
と言うと、ヴァルシードの方をぽんと叩いて城の中に入っていった。
「君の名前は何ていうんだい?」
「エレイナです。ヴァルシード様。」
「じゃあエレイナ、僕の部屋に行こうか。」
「まだ、婚前ですわ。」
「いやしかし、僕はすぐ女の子が欲しいんだよ。」
「ヴァルシード様、子供は男の子が生まれる確立の方が高いですわ。」
「なんで分かるんだい?」
「占ったのですわ。」
彼らは初めて会ったとは思えない会話を二人で繰り広げると、楽しそうに城内に入っていった。
取り残された女性達はというと、何がなんだか分からないうちに終わってしまったため、呆気に取られていたが、
やがて自分の状況に気付くと、口々に不満を洩らしながら帰っていった。
こんな不思議な出会いから早5年。
幸せだろう彼女は、最近悩みがあり、それを直接本人にぶつけに来たのだ。
「君は、毎回ヴェティに騙されているんだよ。この前もそうだったじゃないか。」
「そんなことは!!
…私、実家に帰らさせていただきたいです!」
「エレイナ!?」
其処へ、ひょっこりを肩に乗せたヴェスティクスが現れた。
「何してるんですか?」
「ヴェティ、何してるじゃないだろ、早く誤解を解いてよ。」
ヴァルシードはじろりと弟を見ると、ため息をついた。
「あれ、姉上はまだ信じてたんですか。」
「え…?」
ヴェティはニヤニヤしながら言った。その言動にエレイナは怯む。
「兄上が、他の女性に手を出すわけ無いでしょう。姉上も兄上のこと、わかってあげなければ。
そんな根も葉もない噂、信じてはダメですよ。」
ヴェティが言い終わると、エレイナの顔は恥ずかしさでどんどん赤くなり、終いには両手で顔を覆ってしまった。
「わ…私、出直して参ります!!行きますよ、ヴァイシス!」
「は、はい!ははうえ!!」
エレイナは顔を覆いながら、息子を連れて部屋を勢いよく飛び出していった。
「ヴェティ、お前がエレイナを好いていないのは分かるが、毎回あんなことをしなくてもいいだろう。」
「姉上はすぐ騙されてくれますからね。そのまま実家に帰ってくださってもいいのに。」
「ヴェティ!!!」
ボカッ
「ヴェティ兄様、さいて〜ですわ。」
肩に乗っていたが、拳でヴェティを殴った。
「痛いよ、。
は思わないのか?兄上にはもっと美人な奥さんが合っているよ。」
ボカッ
「ヴェティ兄様はおばかさんですのね。愛には見た目は関係ないのですわ。」
は再び殴ると、こう言った。
「そうだよヴェティ。僕はエレイナの全てを愛しているんだよ。
彼女を見つけたのは、運命だったんだ。」
ヴァルシードはそう言うと、にこりと微笑んだ。
「俺にはわかんない世界だな。」
ヴェティはケッと言うと、を肩から下ろす。
「俺、を連れて来ただけですから。帰りますね。」
そして、背を向けてドアへと歩き出した。
「お前も、誰か一人愛するものを見つければわかる。」
ヴァルシードは彼の背中に言った。
「…俺はそんな人、つくりませんよ。」
ヴェティは聞こえないように呟くと、部屋を出て行く。
彼はドアを閉め、廊下側でそのドアに寄りかかった。
中の話を聞くためである。
「ねえ、兄様。」
「なんだい、。」
「姉様とは運命だけなの?」
は兄を見上げた。
すると、ヴァルシードは首を横に振った。
「違うよ。
こう思ったんだ。
彼女なら、僕が王位を継がなくてもついてきてくれると。」
「そうなの。」
7歳のに、彼の言った意味が分かる筈もない。
しかし、
ドアの向こうでは、ヴェティが悲痛そうな顔をして呟いた。
「そういうことだったのか。」
と…。
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いつの間にか結婚して子供を授かったヴァルシード兄様の
お話です。
最後はヴェティが活躍?しましたが(笑)
エレイナさんは美人ではないけれど、とても純な人なのです。
彼女は占いが得意で、ヴァルシードに運命を見出していました。
純粋に彼だけを愛しているので、彼の弟に嫌われているとは知
らずに弟の言葉を信じて夫が浮気をしているのではないかと疑
ってしまいます。その原因は彼女の自分の姿に対するコンプレ
ックスが挙げられますね。
ヴェティが何故彼女を嫌っているかと言うと、最後の所でヴァ
ルシードが王位を継がない〜とか言っていますけど、それを感
づいていて、そうならないように原因は排除する、と思ってい
るからですね。まぁ、彼の美人好きに原因はありますが(笑)
こんなところで裏設定ですが、最後まで読んでいただき、お疲
れ様でした☆
2006/03/05
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