ゆったりとした午後。
テラスの長椅子で涼しげに風に当たりながら寝転ぶヴァーツラフ王子と、その横でスヤスヤと寝息を立てている王女がいた。
安心しきって眠る妹を、ヴァーツラフは愛しそうに撫でている。
久々に遺跡船から戻ったヴァーツラフは、その疲れを癒そうとテラスでぼーっとしていた。
それを見つけた王女が走りよって来て、遺跡船での話をせびったので、話してやったところである。
ヴァーツラフが本当に癒される瞬間、それは妹と一緒にいる時なのではないか。
彼は、改めてそう思っていた。
「時間が止まったようだ。」
ヴァーツラフは呟いた。
燦々と輝く太陽。それをうまく遮っているテラスの屋根が、彼らを覆っている。
自分が動く音と、妹の寝息以外何も聞こえない。
優雅な午後だった。
「静かだな…。」
「そーお?」
突然、後ろから女性の声がする。
ヴァーツラフはびっくりして飛び起きると、振り返った。
そこには、目のパッチリした水色の髪の女性が立っていた。
その女性は、意地悪そうに微笑みながら、彼に近付いて来た。
「元気そうね、ヴァツ様♪」
女性はそう言うと、優しい目になった。
「…お前は…ジェイルか?」
ヴァーツラフは恐る恐る彼女の名と思われる言葉を言う。
「覚えていてくれたんですね☆」
ジェイルは嬉しそうに笑った。
「15年ぶりだな…。」
「そうね。」
珍しいものでも見る様に、ヴァーツラフは彼女の頭から足先まで見た。
「そんなに見ないでくださいな。恥ずかしくなるじゃない。」
彼女は照れた。
「この子が王女?」
ジェイルはふと視線を落とすと、王女を見た。
「美しい子ねぇ。これならヴァツ様がデレデレしてもおかしくないわねぇ。」
「…おい。」
ヴァーツラフは、彼女をギロリと睨んだ。
「私の弟はどこですか?」
ジェイルは徐に言った。
「サジェは実家に帰ったぞ。会っていないのか?」
「あら、では行き違いだったのね。残念だわ。」
彼女は残念そうに溜め息をついた。
「おーい!ジェイル!!」
遠くから聞こえるヴェスティクス王子の声。
「あら、ナンパ王子がやってきたわ。」
ジェイルはそう言うと、舌をペロリと出した。
「なんだ、ヴァツも一緒なのか。つまらん。」
ヴェスティクスは彼らを見つけると、開口一番にそう言った。
「口説けるチャンスだったのにな。」
彼はぶつくさ呟きだす。
「…う、うるさいですわ。ヴェティ兄様。」
王女がムクリと起き上がった。
「…あら?なんて美しい方なのかしら。
もしかして、…サジェのお姉様?」
は起き上がると、ジェイルを見た。
ジェイルの水色の髪、醸し出す雰囲気が少しサジェに似ている。
「あら、よくわかりましたね。」
「わかりますわ。サジェと同じものを持っていますもの。」
は目を擦りながら言った。
「同じ…もの?」
ジェイルは不思議そうな顔で、王女を見た。
王女はジェイルに優しく微笑む。
「ヴァーツラフ兄様と話しがあるのではなくて?」
はトンと長椅子から降り立つ。
「え?」
王女はヴェスティクスの腕を掴む。
「行きますわよ。」
「え、オイ!!」
そして、グイグイと催促するとテラスを出て行こうとする。
その時、王女はフイに振り返ると、
「ヴァーツラフ兄様とお話しが終わられたたら、ぜひ私とお話しましょうね。」
そう言うと、扉をパタリと閉めた。
「な、なんて不思議な子なのかしら。」
ジェイルは言う。
「そうか?」
ヴァーツラフは機嫌が悪そうに言った。
「可愛い妹がいなくなってしまったからって、そんなに不貞腐れないでくださいな。」
ジェイルが柔らかく笑うので、ヴァーツラフは不貞腐れるのを止め、
「それで、なんだ?」
神妙な顔つきになる。
「ガドリアが、静かに動き出しているわ。あと、数年でクルザンドを攻めて来るかもしれない。」
「それは、確かな情報か?」
ヴァーツラフはジェイルを見つめた。
「当たり前です。私を疑うの?ヴァツ様…」
ジェイルは悲しそうに笑う。
「そういうわけではないが。」
ヴァーツラフは困った様な顔をすると、ドサリと腰を降ろした。
「ガドリアが攻めて来る…か。考えていたより早いな。まだ、アレは対応できん…。
力で防ぐしかないか。」
ジェイルは無言で王子を見つめた。
「ジェイル、良い情報を持って来てくれた。褒美をとらそう。何が良いか?」
しばらく間が続き、ジェイルは口を開いた。
「王女を、我が弟に。」
強い口調で言った。
ヴァーツラフは口をあんぐり開けると、ジェイルを見る。
「な、なな何をいっているのだ!!!はまだ十三だぞ!!サジェは、もう二十九ではないか!!!」
「歳の差なんて、関係ないですわ。ヴァツ様。本人達の問題ですもの。
ヴァツ様がそれとなく、我が弟に勧めてくださればいいんです。」
「こら!まだ許して無いぞ!!」
「私、私が叶えられなかった事を、弟の運命にさせたいんです。」
「うっ…」
「私、もう何年も女を捨てているんですよ。」
「…」
「私が弟の運命を背負うなら、弟は、私の運命だった筈のものを、背負うべきでしょう?」
「ジェイル…。」
ジェイルは、がっしりとしたヴァーツラフの肩に手をまわす。
そして、後ろから抱きしめると、彼の耳に囁く。
「日ごろ、どんな女性で満足しているのですか?」
ジェイルの言葉に、ヴァーツラフは耳まで赤くなる。
彼女を振り解こうと、ヴァーツラフは腕を掴んだ。
「や、やめろ!!」
ヴァーツラフは慌てている。
彼女はお構いなしに腕を絡み付ける。
「これからは、大人の時間です。」
彼女はそう言うと、額をヴァーツラフの背中につける。
そして腕の力を強めると、肩を震わして泣いた。
「私の部屋に行くか。」
ヴァーツラフは彼女の腕を優しく撫でると、そう言った。
「あの方は、ヴァーツラフ兄様の恋人ですの?」
は、ボソリと言った。
「ああ。お前が生まれる前のな。」
「私が生まれる前?」
ヴェスティクスは深く頷く。
「ベネト家は、代々ボラド家のために犠牲者を出すんだ。」
「犠牲者?」
「犠牲者とは、密偵のことだ。
彼らは、自分の生活を捨ててボラド家のために生涯働く。
本来なら、サジェがなる筈だったんだ。でも…なれなかった。」
彼には、犠牲者の素質が無かったんだ。ヴェスティクスは苦い顔で言う。
「反対に、ヴァーツラフの婚約者だったジェイルにはその素質があった。彼らはボラド家忠誠を誓っているから、犠牲者を出さないわけにはいかなかった。
だから、ジェイルがなったんだ。
全てを捨てて。」
は、途端に心が重くなるのを感じた。
ヒト一人の幸せが奪われた上で、クルザンドは微かな恵みを保っている。
そんなのは、間違っている。
そう思っても今の自分にはどうすることも出来ない無力さを感じる。
はジェイルに同情した。
「そう、暗い顔をするな。ジェイルも大切な者を守るために戦っているんだ。ヴァーツラフを守るために。」
「…そう。ですね。」
突然、ヴェスティクスがにニヤリと笑いかけた。
王女は何かと顔を顰める。
「?」
「…今。ヴァーツラフに会いに行ったら駄目だぞ。
…
お楽しみ中だろうからな♪」
瞬間、王女が兄の脛を思い切りヒールで蹴ったのは言うまでもない。
<余談>
その後、王女が顔を真っ赤にして(ヤキモチを妬きながら)自室に篭ったようだ。
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勝手に婚約者つくっちゃったよ〜ん♪
とりあえず紹介。
本名レジェイエル・ベネト、32歳。
明るくて、頭が切れて、元気。
ヴァーツラフとは幼馴染でタメ語兼敬語で話す。
15年前に犠牲者(密偵)になり、ガドリアに潜入中。
ヴァ-ツラフとは15年前に婚約解消しました。
ちょっとエロネタはいりましたが、30代ですしこういうことは
外せないかなぁと(笑)
それより、ヴェティをナンパ王子って呼んだのが、自分のなかでツボでした!!
2006/03/23
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