ランプが淡く光り、部屋の中をぼぉっと照らしている。
机の上には、戦術の本や格闘技の型の本が無造作に積み上げられ、その横には、ぼろぼろになった紙が散らばっている。
紙に書き込まれた文字は、何度も書き直されたのか擦れて読みにくくなっていた。



積み上がった本の隙間から、濃い紫色の髪の毛がちらちらと見える。
その髪はふわりと揺れたと思うと、急に起き上がった。










「また寝てしまった!」










眠気眼のヴァーツラフは叫んだ。
彼は目をしばたかせると、周囲を見回した。

窓から差し込む光は、ガラスを通して部屋の床を照らし始めている。
ずっと点いていただろうランプは、まだ部屋の中を明るくし続けているが、間もなく必要なくなりそうであった。







「朝、か。」








彼は微かに呟くと、机の上を簡単に片付け始める。




そして、その後数分間ぼーっとしていると、廊下からヒトの足音が聞こえてきた。

しかしそれは、彼の頭の中をすり抜けてどこかにいってしまう。







「眠い。」






彼は光差す窓辺を見つめながら、再び目を擦った。





トントン…



ドアを叩く音にギクリとすると、慌ててドアを凝視する。




トントン



再び誰かが叩く。






「王子、起きていらっしゃいますか?」


ドアの外から聞こえたのは、サジェの声であった。





「…起きている。入れ!」





ヴァーツラフは不機嫌そうに返事をすると、言った。



カチャリ。


キイィ…





「失礼します。コーヒーをお持ち致しました。」




サジェは湯気を立てたコーヒーを持ちながら、ゆっくり部屋に入って来る。


彼はコーヒーを机に置くと、礼儀正しくお辞儀した。


端正な顔立ちの彼は、無造作に伸ばされた髪の毛を後ろで縛っている。
最近長髪になったばかりで、前までは後ろで縛ったりはしていなかった。





「サジェ、お前は前の髪型の方がいいんじゃないか?」




ヴァーツラフはコーヒーを飲みながら言った。




「私も、その方が落ち着くのですが…。王女がこの髪型の私を描きたいと言われますので…。」




サジェは照れながら微笑む。


サジェはかつて、こんな事で笑むような男だっただろうか。




妹のは、最近絵を描き始めたからな。それにしても、サジェをモデルにするとは…。

ヴァーツラフはムスリとすると、頬杖をついた。




「サジェ、お前はの事をどう見る?」




ヴァーツラフはじとっとした視線でサジェを見た。



「…お美しい方ですね。」



サジェはそう言うと、微笑む。




「美しい?サジェ、はまだ十三だぞ。美しいはまだ早いと思うが。」



ヴァーツラフは更にムスリとなる。



「そうですね。でも、あの方は不思議な方です。話していると、なぜか十三歳の王女ではなく、同い歳くらいの方に感じてしまう。





…失礼でしたね(笑)」




サジェはくすりと笑うと王子を見た。





「本当だ。」





ヴァーツラフはサジェを睨んだ。














「王子、最近頑張りすぎですよ。このような場所で寝てばかりいますと、お体を壊されますよ。」


「…しかし、やらねばならぬ事がたくさんあるのだ。…遺跡船を、何としても手に入れなければならない。」



ヴァーツラフはそう言うと、机の上の紙切れをぐしゃりと握った。








「我が国を、救うためだ。」







そして、強い目でしわくちゃになった紙切れを凝視した。


「王子……」


サジェが何か言いかけると、ヴァーツラフは制止する。


「…すまない。お前はこの話に賛成ではなかったな。」


王子にそう言われると、サジェは何も答える事が出来なかった。







「夜、王子の部屋の前に王女が佇んでいらっしゃいました。王子が部屋にいらっしゃらない事がわかると、しばらくお待ちになっています。」






ヴァーツラフはぴくりと耳を立てた。




「寒い廊下で待っていらっしゃるので、だいたいの時は私の部屋でココアを飲んで帰られますよ。」



「何!?」



「昨日もそうでした。」




サジェは、王子の反応を楽しむように言った。



「サジェ、まさかに…」



ヴァーツラフはそこまで言うと、自分の口を塞いだ。

サジェはにこりと笑うと、「どうでしょうね。」という顔で王子を見る。


ヴァーツラフはみるみる間に顔を赤くすると、サジェからフイと目を逸らした。




「王子も、まだまだお可愛い事で。」


「…殺すぞ。」




ヴァーツラフは窓を見ながら言った。














「さて、王子にご報告があります。」



一間置くと、サジェが切り出した。


「…何だ?」


ヴァーツラフは機嫌がなおらないのか、まだ窓を眺めている。



「王子が決められた大会の優勝予想が発表されました。」



サジェは懐から一枚の紙切れを取り出すと、広げた。




「えー…、カッシェルとメラニィという者ですね。」



ある二人の名を読み上げる。



「ほぅ…あいつらか。」



機嫌を直したのか、サジェを見てニヤリと笑う。



「知っていらっしゃるのですか?」



サジェは不思議そうに問う。


「あぁ。前から目をつけていたのでな。」



フフフと笑うヴァーツラフを見て、サジェはほっとした。



「これは予想ですからね。一般参加も可能ですし、まだ誰が優勝かはわかりませんね。」



そしてこう言うと、一礼する。



「もう行くのか?」



ヴァーツラフはガタリと立ち上がる。



「ええ。大会の用意がありますので。」



優勝者のポストをしっかり用意しなければなりませんからね。サジェは空になったカップを取ると、再び一礼した。








「……待て、サジェ。」







ヴァーツラフは静かな声で呼び止めた。
王子がこのような声で呼び止める事はないので、サジェは驚いて止まる。




「その、な…。」




王子は吃ると、下を向いた。
サジェは不思議そうな顔で、王子を見つめている。




「…」



「…」




しばらく、無言が続いた。




「王子?」



サジェが切り出すがヴァーツラフは下を向いたままである。




「…」



「?」




突然、ヴァーツラフは顔を上げた。
そして、








「サジェ、お前、を娶る気はないか?」







こう言った。




****************

はい。十一話完結です。
ここで終わりです。続きませんよ?(笑)
なんだか微妙な終わり方ですが、また今度ということで。
ヴァーツラフの書斎をうまく表現できたか不安です。
戦い好き、戦術バカみたいな感じで。
あと、あのヴァーツラフが書斎で寝てしまったり、ボーっとしてたりするのもアリかなぁなんて…。
何か感想などございましたらBBSか拍手にて下さいね☆

2006/03/25


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