驚くほどこざっぱりした部屋。
書斎とは大違いなくらい物が無く、ベッドとテーブルと椅子、目立つ物はこの三つしかない。
たぶん、寝て食事を摂るためだけの部屋なのだろう。
ヴァーツラフは、この部屋にいる事は少ない。夜と朝だけである。
逆に夜や朝だったら書斎にいない限りは必ずここにいる。
テーブルの上には数冊の本。
戦術の本ばかりである。
彼は、これらの本がぼろぼろになるまで読みこんでいた。
ヴァーツラフは妹をベッドに座らせると、部屋の隅に置いてある大きな包みを取り、彼女に手渡す。
「例のやつだ。」
そう言うと、ニヤリと笑った。
彼の妹は、嬉しそうにに包み紙を取ると、それをきれいに畳み、テーブルの上に置く。
プレゼントした方もされた方もドキドキしながらその物に集中していた。
最後の包みをガサリと開ける。
そこからで出来たのは、白銀のボディに精巧な細工を持つ弓だった。
細工は細部まで渡り、真ん中の持ち手から上下の先へ対称にされていた。
妹の銀髪に映える白銀の弓。
これは彼が妹のために造らせたオリジナルだ。
「まぁ…なんて素敵な弓なのかしら…。あら…この重さは。」
は、兄の細かな気遣いに気付いたようだ。
「そうだ。お前が今まで使っていた弓と同じ重さで造られている。弦は今までのものを使うと良いだろう。」
そう言うと、彼は笑んだ。
「ヴァーツラフ兄様、有り難う御座います!!!」
は勢い良く、兄に抱き付いた。
ヴァーツラフは嬉しそうに妹を抱き締めると、よしよしと頭を撫でた。
「明日は、私のそばにいろ。」
「…兄様。」
「なんだ?」
「兄様は、直接攻撃、それも素手でされる方ですから、私といるべきではありませんわ。」
はそう言うと、もらったばかりの弓を抱き締めた。
「私、兄様のそばでは戦えません。だって、明らかに兄様の戦いの邪魔ですし、兄様も私の戦いの的になってしまうかもしれないんですもの。」
「!!」
「兄様もわかっているはずですわ。私は、弓部隊第一陣で構えておりますから、兄様は存分に戦ってきて下さい!!」
がにこりと微笑むと、ヴァーツラフは無言で妹を抱き締める。
きつく抱き締められたため、息が止まりそうな程苦しかったが、は耐えた。
もしかしたら、最後かもしれない。
彼女の中にはそういう思いがあった。
ヴァーツラフにもあったかもしれない。
は自分を抱き締める兄の背に、小さな手をまわすと、ぽんぽんと叩いた。
まるで、小さな子供をあやすように。
そして彼女は口ずさむ。
豊作の歌やクルザンドを称える歌など、ありとあらゆる歌を口ずさむ。
そのメロディは、ヴァーツラフの心を抜け、彼の部屋をすり抜け、城壁をすり抜け…
クルザンドの全ての人に聞こえる様だった。
その声は美しく、楽しそうで、とても幸せそうであった。
「兄様、踊りましょう?」
が突然言い出した。
「私が歌いますから、一緒に踊りましょう?」
は兄を体から引きはがすと、無理やり手を掴んでベッドから立ち上がる。
そしてグイグイ引っ張って立たせた。
「!!」
「いいではないですか。ほらっ…」
はワルツ曲を歌い出す。
彼らはステップを踏み、最初はとまどっていたものの、踊り方を思い出したのかどんどん楽しそうに体を動かす。
「明日に響かない様にしなければね。」
「ああ。」
彼らは、いつまでも楽しそうに踊り続けた。
「さあ、行くぞ。」
早朝、クルザンドの門を出て行く戦士達。
彼らの顔は、緊張に満ち満ちている。
誰一人私語をせず、砂漠の向こう、ガドリアの騎士たちが待つ方角を見据えている。
唾をごくりと飲み、武器を握り締める。
彼らの行進は、砂漠の砂に掻き消されて聞こえることはない。
戦士達は何を思うのか。
それは、戦う者達にしか分からない。
「いよいよだな。」
「そうだね。」
砂漠に無理矢理張ったテントの中で、ヴァルシードとヴェスティクスは戦準備をしていた。
その横には軽装備をしたが矢筒を背中に掛け、その前では、ヴァーツラフが鎧の点検をしていた。
「、昨日は綺麗な声で歌っていたね。」
「ええ。なんだか、歌いたくなってしまって…。ヴァーツラフ兄様と、ワルツも踊ってしまったわ♪」
「!!!!!!!!!!」
「いいではないですか♪」
ヴァルシードに楽しそうに話すを、ヴァーツラフ王子は止めようとしたが敢無く交わされた。
バツの悪そうな王子は、キッとヴァルシードを睨む。
彼のコメントを止めるためだ。
ヴァルシードはくすりと笑うと、細い双剣を腰に刺す。
「じゃあ、昨日はヴァツと寝たんだな。」
ヴェスティクスが話しに乗って来た。
「ええ。ヴァーツラフ兄様の胸板は、抱きつくには良い心地なのですが、一緒に寝るにはちょっと困難でした。」
がそう言うと、上の兄二人は大爆笑した。
ますますヴァーツラフの機嫌が悪くなる。
「あら兄様、機嫌を直してくださいましね。」
が優しく言うと、
「…まあ、いいだろう。」
と言ってを抱きしめた。
兄達はそれを見守りながら、外の音を聞く。
風の音が微かに変わる。
「さて、行くか。」
「そうだね。、用意はできたかい?」
「大丈夫よ、ヴァル兄様。」
「よし、我らがヴァーツラフ将軍、皆に号令を!!」
「…わかった。」
昼下がりの砂漠。
太陽はぎらぎらと地面を照らし、空気は多くの熱を持っている。
一歩踏み出すごとに体中を流れる汗が目に沁みて痛い。
この一筋の汗が命取りになることもある砂漠の戦い。
足を取られ、思うように動けない。
それはクルザンドもガドリアも同じ。
彼らは、それぞれの国を守るために、
戦いを始める。
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本当は、20年前にクルザンドがガドリアを侵攻して以来、
交戦中だけど膠着状態にあるんですよね。
小さな戦いはあっても、王子たちが出撃するような戦い
は無いのでしょうが(笑)
この方が盛り上がるし(オイ)
凄い胸板の人と寝るというのは、どういう気持ちなのでしょう?
ヒロインのみぞ知るんでしょうけど…。
ヴァーツラフ頑張れ!!!
とか言いながら、次はヒロインばっかです(笑)
2006/03/29
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