「ここは……どこ?」
広がる砂漠。
いつもは静けさの中に日照りの暑さがあるだけ。
それなのに今は、
そこら中に転がる物体。
「これは、なに…?」
その物体は、砂漠の熱にやられて腐臭を漂わす。
鼻を衝く臭い。思わず鼻に手を当てるが、耐え切れずに咽てしまう。
辺りを見回せど、砂漠に続く物体。
どこまでも、どこまでも。
この状況が当たり前な景色の様に思ってしまう。
そこら中に転がるヒトの死体。
彼らは永遠に自ら動くことはない。
― なぜなら、私が殺したのだから。
目を覆いたくても覆えない。ううん、覆ってはいけない。
素直に受け止めなければいけない。
「でも、これは…一体なんなの!?」
今朝方まで、笑い合っていた兵士達が、今では私の横で目を見開いて倒れている。
彼らは、どんな想いで死んでいったのか。どんなに無念だったことだろう。
― でも、それは皆同じだわ。
クルザンドの者も、ガドリアの者も。
私は、食い込むほど握り締めていた剣を離すと、手の平を見る。
剣の柄の跡と、誰かの血。
自分の姿を見ると、泥のように汚れたどす黒い血の跡が点々とついている。
― 発狂してしまいそう…
顔にもこびり付いた血。誰かの血、私の血、ヒトの血…
触ると、それは瘡蓋の様にぼろりと剥がれ落ちる。
ヒトの命は、重くて…でも軽々と散ってしまうのだ。
私は、軽々と散らしてしまったんだ。
― 誰か、私を助けて……
「、俺の側を離れるな!!」
ヴァーツラフ兄様はそう言うと、私を後ろに匿う。
「それでは、私は兄様の足手纏いになってしまいます!!!」
私はそう言うと、兄様の後ろから一歩引いた。
「兄様、私は後ろから援護します!!行ってください。」
兄様は頷くと、ガドリアの騎士たちに突っ込んでいく。
私は背中に掛けてある弓を取ると、素早く矢を番えて狙いを定める。
(今だ。)
ビュンッ
矢は瞬時に弦を離れ、敵へ向かって一直線に飛んでいく。
ドスッ
鈍い音を立てて刺さる。
矢は頭を半分貫通し、敵は目を見開いてドサリと倒れた。
瞬間、胸がチクリと痛む。
再び、矢を放つ。刺さった敵もまた、血を流しながら倒れた。
真っ赤な血。
それは私の目に焼きつく。
「!!!!」
ヴァル兄様の声が後ろから聞こえたかかと思うと、私の後ろで何かの塊が地面に落ちる。
「大丈夫か!?」
兄様は私の肩をがしりと掴むと、心配そうに顔を覗いた。
「大丈夫です。」
私はそう言うと、地面に落ちた塊を見た。
剣を持った腕だけ。
胴のない首。
首と離れた胴。
切り口からどっと溢れる血。
「お前を後ろから切ろうとしていた。」
兄様は目を細めると、塊を見て言った。
兄様の目は、普段と違って冷たい灰色になっていた。顔には表情も無い。
― 兄様は、戦いを割り切っているんだわ。
戦いは嫌いな筈なのに、必要に駆られると割り切る。
私も、こうならなければならない。
さっきから目に入るのは、ヒトの鮮やかな血。
戦う事だけを考えなければいけない。
そうしないと、私も命を落とす。
「、これを。」
兄様は、ベルトに括り付けられた一振りの剣を私に差し出す。
「弓では、自分を守れない。」
私は手に取ると、ベルトを腰に巻いた。
兄様はそれを見ると、安心して戦いに戻っていく。
兄様は細い双剣を、スラリとはためかした。
剣は日の光を受け止め、その刃をきらりと光らせる。
敵はその光に怯み、命運を決めた。
瞬時に起きたのは、無表情で双剣を振るう兄様が敵を上からクロスして切り裂いた事。
それは静かで、美しく舞う。
音も無く切り裂く。
あの細い剣でなぜあんなにも切れるのか。
敵は、頭、各腕、胴の四つの塊となって地面に落ちる。
兄様は何事も無かったように素早く次へと走る。
あの優しい兄様はどこに行ったのか。
今私が想うのは、ただ、兄様が恐いということだけ。
「わ、私も戦わなければ。」
私は急いで弓を構える。狙いを定めて射つ。
ひっきりなしに延々と。
次の矢を、と思い、背中の矢筒に手をまわすがもう矢がない。
「!?」
回収するか、補充しなければ!!そう思うが、うまくはいかない。
回収するには敵が多く、補充するにはテントまで遠い。
取る道は一つ。
私は弓を背に掛け、剣を鞘から抜く。
恐る恐る柄を持ち、震える手を押さえると、スラリと抜く。
キイイィィィン
響く鋼の音。
磨かれた刃は、刃毀れ一つ無く美しい。
そして、軽くて振りやすい。
私は心を決めると、一目散に走り出す。
「うわあぁぁぁぁっ!!」
がむしゃらに叫ぶ。
震える手。真っ白な頭。足なんて、もう立てないくらいガクガクしている。
けれども、走る。地面の砂は私の足を絡め取ろうとするが、転ばないように素早く爪先で蹴った。
ヴァル兄様のように剣をはためかせ、日の光を集める。
光る刃は、私をも魅了する。
その剣を構え、敵を定める。
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
気合を込めると、剣を下から斜めに振るった。
ガンッ
鎧に当たり、跳ね返される。
手が痺れる。
それにめげず、今度は振り下ろす。
ザク
何かが切れる感触。
― これは、肉が切れる感触…
剣から伝わる肉を切る感触。
ヒトだというのに、それは料理をしているときの包丁を感じさせる。
あの、ハムを切る時の感触。最初にプチと皮を切り、さくりと肉を切る。
それを思い起こさせる。
― 吐きたい。
胃の中から込み上げてくるものがある。
喉は熱く焼け、口の中はカラカラに乾く。
目の前の敵は、傷口から大量の血を噴出して、どさりと後ろに倒れた。
私は吐き気を必死に我慢し、次々と襲い掛かってくる敵に剣を振るう。
ガンッ
キィンッ
ザシュゥッ…
剣で受け止め、攻撃を流す。
そして、相手の隙を突いて切る。
それらを薙ぎ払い、走る。
― 何度、ヒトを切っただろう?
その感覚は段々と薄れ、苦しみを取り除く。
私の後ろに出来た黒い物体の山。
― 私のヒトとしての罪の証。
それでも、剣を振り続ける。
― 何のために?
そう、何のためだったかしら。
もう、分からない。
唯一つ分かることは、
私は、戦いが終わるまで剣を振り続けなければならないという事。
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お疲れ様でした。
私の文章力では、ここまででしたか!!!(無念)
少しでも、戦う事を思っていただければいいなぁと思います。
ヴァーツラフ兄様とは離れちゃったみたいですねぇ。
戦いって恐ろしいですね。
人を殺してしまうのも恐ろしい。
でも、何かを、誰かを、守るために、
人はいつまでも戦い続けるのでしょう。
感想、お待ちしております。
2006/03/30
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