戦いは、私が自ら望んだ事。
でも、私は何のためにこんなに多くのヒトを殺しているの?
どうして……
「?」
後ろから誰かに呼ばれる。
振り向くと、ヴェスティクスが立っている。
彼は血だらけの槍を持ち、肩で息をしながら静かにを見ていた。
「無事…だったか…。」
兄はよろよろと寄ってくると、槍を握ったまま、妹を強く抱き締める。
まるでここに存在しているのかを確かめるように。
「あぁ…良かった。」
そして、安心して胸を撫で下ろすと、妹を離した。
ゆらりと揺れる妹の体。
何かを支えにしないと立っていられないようなぐらいフラフラしている。
「大丈夫なのか!?」
彼は妹の体を確かめる。
浅い傷はいくらかあるものの、致命傷はないようだ。
「?」
様子のおかしい妹を見つめる。
彼女の目は遠くを見ていて、心ここにあらずの状態だった。
「、しっかりしろ!!」
肩を揺するが、反応はない。
ふと、妹の視線を追って見る。
そこには、
たくさんのヒトの死体。
それが周囲に見られないわけではない。
しかし、そこだけは他と比べて、明らかに多かった。
彼女の目は、ずっとこれらを見つめている。
彼はある事に気付くと妹の顔を見た。
「…もしかして…これ全部、お前が殺ったのか…?」
妹はコクンと頷いた。
―― まさか…
しかし、彼女に付いた血、足下に落ちた剣、どれを見ても間違いはなかった。
「…」
言葉を紡ぐ事が出来ず、名前だけ呟く。
― 我が妹ながら…恐ろしい…
彼は初めて、妹に恐怖を覚えた。
「…私…がやった…の…」
妹は気付いたように途切れ途切れ呟くと、意識を失った。
「!」
「……」
ヴァーツラフ兄様の声…
生きていて下さったんだ…
は、ふわふわした意識の中、周囲の会話を聞く。
「大丈夫なのか!?」
「気を失ってるだけだ。」
「でも、なんでが剣を……まさか!」
ヴァーツラフは長兄の前にズカズカ歩いて行くと、彼の胸倉を掴んだ。
「オイ!!に剣を教えただろう!!!」
と叫んだ。
ヴァルシードは末弟の手を払うと一言、「教えた。」と言った。
ヴァーツラフはキッと兄を睨むと、妹の枕元に戻る。
「なんで…なんだ。」
「…お前は、弓で自分が守れると思っているのか?」
ヴァルシードが言った。
いつもと喋り方が違うのは、彼が戦いに身を置いているからである。
彼は、日常と戦いを割り切って別の自分で対応するようにしているのだ。
「お前はずっとを守っていたか?戦いが始まったらすぐ、は一人だったぞ。彼女は自分を守るものがなかった。」
だから剣を渡したのだ。
長兄は言った。
「…」
ヴァーツラフはゴクリと唾を飲み込むと、苦しい顔をした。
「…ねぇ、ヴァーツラフ兄様、ヴァル兄様を責めないで下さい。私が、剣を習いたいって言ったのですから。」
妹はゆっくり目を開けると、言った。
「、気付いたか!!!」
ヴァーツラフはなんとも嬉しそうな顔をすると、妹の手を握り締めた。
「ありがとう、兄様。でも…まだ戦いは終わってないでしょう?」
ヴェスティクスが頷く。
「明日で、全てが決まる。」
ヴァルシードがそう言うと、はにこりと笑った。
「早く、明日の事を話し合って下さい。私は大丈夫ですから。」
苦しそうに微笑む妹を辛そうに見ながら、兄達はテントを出て行く。
「また後で来る。」
ヴァーツラフはの髪をふわりとなぞると、テントを出て行った。
「心配かけて、ごめんなさい。」
は消えそうな声で呟いた。
「王子。」
会議用のテントに戻る途中、ヴァーツラフは呼び止められた。
「サジェ?」
呼び止めたのはサジェで、彼はここに居ないはずの人物だった。
「サジェ、来たのか…。」
ヴェスティクスは彼を見ると驚いた。
彼は戦いには参加しない。
今回もその筈であった。
しかし、その彼がここにいるということは…
「私も、この度は参加させていただきたく、参上いたしました。」
彼はそう言うと、砂の上に片膝を付いた。
「サジェ、お前が来てくれると助かる。」
ヴェスティクスの言葉の後に、ヴァーツラフがサジェの前に乗り出した。
「駄目だ。お前が戦えるとは思えん。無駄死にするだけだ。」
「王子!!!」
ヴァーツラフはつんとした態度で、腕を組んだ。
しかし、それを少し緩めると、チラリと彼を見て言う。
「…サジェ、何故だ?お前は戦わない筈だろう?」
「はっ。
今までは、大変申し訳ございませんでした。私の我儘で王子方にご迷惑を…。
しかし今回、考えてわかったのです。」
サジェはそう言うと、顔を上げた。
彼の目は澄み、それは何かを決意したような、強い意志が感じられた。
王子達は彼の瞳にハッと息をのむ。
「私には、守る方がいると。」
「サジェ…」
「ヴァーツラフ王子、私にも戦わせてください。」
「…」
「王子!」
「わかった。」
ヴァーツラフはそれだけ言うと、踵を返す。
ヴァルシードは何も言わずに彼の後を付いて行く。
ヴェスティクスのみが、サジェに近寄り耳打ちした。
「はその先のテントにいる。」
「有難う御座います。」
ヴェスティクスはサジェにウィンクすると、兄弟の後を追っていった。
「様。」
サジェは、テントの外から彼女の名を呼ぶ。
「…様。」
「…サジェ?」
「はい。入っても宜しいですか?」
「!?……え、えぇ…入っても…いいわ。」
サジェはガサリと天幕を開けると、中に入る。
そこには、佇んでいる王女。
彼女の目からは涙が絶え間なく流れ、顔も赤かった。
「ごめんなさい、こんな顔で。」
「いえ。」
サジェは心に棘が刺さったようだった。
― こんな美しい人が泣いているとは。
泣かせたくない。
「サジェ、何故ここにいるの?」
「…それは、戦うためです。」
「サジェが?サジェが何故戦うの?」
「様…」
「駄目よ!!サジェは戦っては駄目。
…戦いは、こんなに苦しくて…辛いものだもの…」
王女は更に涙を流し続けた。
「私、ヒトをたくさん殺したの。彼らにも家族がいて、同じような生活があって、必死に生きてきた筈なのに。 私が、それを奪ってしまったの。」
王女は小さな拳を握り締めた。
華奢な肩は小刻みに震え、目から涙を流すのを手伝っているかのように見える。
「私は、自分が死にたくないから、彼らを殺したの。」
王女は懺悔するかのように呟いた。
「様…」
「ねぇサジェ、私、駄目な子ね。自分のために周りを失くそうとするなんて。子供過ぎるわよね。」
― 自分もそうだった。
彼は思う。
初めてヒトを殺したあの戦い。
彼の心に酷く焼きついたあの光景。
同じように、この人にも焼き付いてしまった。
この人も、私と同じように暗いものを背負っていかなければならないのか。
私は、それを少しでも助けるために来たんだ。
「サジェ、私はいつまでも忘れないわ。今日のこと。私の人としての罪だから。」
それを一緒に背負うために。
「私、何のために戦っているのか、分からなくなってしまった。」
それを教えるために。
「私、もう、戦いたく…ないの。」
それを救うために。
私は、ここに来たんだ。
「様!!!」
サジェは彼女の名を呼ぶと、力強く抱きしめた。
「サ…ジェ…?」
強く、強く抱きしめる。
彼女が逃げないように、彼女がいなくならないように。
「様。」
「何ですか…?」
「この戦いが終わったら、私と一緒になりましょう。」
「え…」
王女はびっくりすると、サジェを見た。
しかし、抱きしめられているので顔は良く見えない。
「サジェ…それ…本当?」
「…こんな時は嘘などつけません。」
「…兄様に言われたから?」
「言われました。しかし、私が考えた気持ちです。
いえ、考えたというのは間違っています。私に出来上がった気持ちです。」
「……」
「私は、貴方様にずっと恋心を持っておりました。
自分でも気付かないほどに覆い隠していた。
王女だというお立場と、歳が離れすぎているという事から、考えないようにしておりました。
それをなくしてくださったのは、ヴァーツラフ王子です。」
「兄様が?」
「はい。『年齢など関係ない。お互いに想いあっているならば、そんなモノは障害にもならない』と。」
「まぁ…」
「様。」
「…はい。お受けします。
ありがとうサジェ、嬉しくて、涙が止まってしまったわ。」
王女はふふ、と微笑むとサジェを抱きしめた。
二人で、いつまでも抱きしめあう。
「私は明日、貴方様を守るために戦います。」
「え…」
「私の戦うということは、貴方様を守るためにある言葉ですから。」
「守る…
私、いつかあなたとこんな話をしたわね。」
王女はサジェから離れると、ベッドに座った。
「そうだ、忘れてしまっていたわ。
私が戦うのは、愛しい人達を守るためだということ。」
「そうですね。」
「ありがとう、サジェ。私、明日も戦える。」
「そうですか。」
「ええ!
サジェ、本当にありがとう。
ありがとう、ありがとう!!!」
「どう致しまして、様。」
二人は微笑み合うと、優しいキスをした。
その後、何が起こるとも知らずに、
彼らは幸せに浸り、
その後の生活を夢見、
それぞれ眠りにつく。
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お疲れ様でした。
告っちゃったよ!!!!サジェ、やっちまった!!
というか、サジェを作り出したあの日には、この話
は決定していました。
ヒロインが生きていく上で、一番まともな事を教え
たのはサジェではないかと思います。
(それの一役買うためにヴァーツラフはイイ事言っ
たなぁ。)
これが本当の愛なのか、と言われると分からなくな
ってしまいます。
彼らの年齢は離れておりますし、ヒロインはまだ子
供な年齢だと思いますから。
この時点でヒロインは14歳、サジェは30歳。
時期的には、セネル、シャーリィ、ステラのいた村
がヴァーツラフ軍に襲われる数ヶ月前です。
次の話は、クルザンド記のピーク話になると思います。
終わりが近いということですね。(寂しい)
読んで頂き、誠にありがとうございます。
2006/04/01
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