サジェの戦う姿は、本当に美しくて…






あんなに美しく妖気な雰囲気で戦う人は、この世にサジェしかいないのではないかと思うくらい。





敵を殺す事より、何よりも、この時私の心に焼き付いたのは、彼の戦いと、彼の…

































「頼んだぞ、サジェ。」


「は。」


を守ってくれよ。」


「は。」


「兄様達!!念を押しすぎです!!」



私は顔を赤くして叫ぶと、頬を膨らませてつんとした。



んそんなに怒るもんじゃないぞ!!頬を膨らませてばかりいると、そのうち皮が伸びて皺になる。」


「もう、ヴェティ兄様ったら!!」




ヴェティ兄様は、嬉しそうに笑った。











私がこういう気持ちで居られるのは、全部サジェのお蔭。
サジェが私を想ってくれるから、私を守ってくれるから、
私は笑っていられる。







「さて、ヴァツはどこだ?

…さては、サジェに妹をとられて拗ねてるんだな。」

ヴェティ兄様はそう言うと、辺りを探し出した。



「あそこにいる。」




ヴァル兄様がボソリと呟いて、指した所に目を移すと、少し高台になった所にヴ
ァーツラフ兄様がドカッと胡座をかいて座っていた。








「さあ行きましょう、様。」


サジェは私を促すと、手を取って引っ張って行く。



「サジェ…。」



「王子には、認めてもらいたいんです。」



「そうね。」





私達は手を取り合って、兄様の前に走って行く。


兄様は私達が手を取り合っているのをチラリと見ると、外方を向いてしまった。






「王子、この戦いが終わったら、私は様を娶ります。」



「…」


「…」


「…決定、なのだな。」




少し間を空けて、兄様は呟いた。



「問いではなく、決定なのだな。」


「はい。」



「…わかった。泣かせたら殺す。」



「はい。」



「…もう行け。」


「はい。」






兄様はしっしっと猫にやるように手を振ると、後ろを向いた。





結局、私は何も話さなかったけれど、あれで良かったのよね?





兄様とサジェの間には、何か見えない絆があるから。
それは私が入ってはいけないような、とても強くて太い絆。










サジェは再び私の手を引き、テントの方へと歩き出す。







「私は、あなたを守ります。」



サジェは振り向き様にこう言った。






そして、言葉として紡いでいない筈なのに、その後の言葉まで聞こえた。









命に替えても。





と。







ああ、何故こんな言葉が聞こえるのだろう。
目の前に彼はちゃんと存在しているのに。







「…お願いね、サジェ。
でも、私もあなたを守るから…。」



「はい。」






交わされる優しいキス。




そして、お互いを求める様な、深いキス。







「帰ったら、素敵なドレスをお願いするわ。」



「…私の給金で間に合えば良いのですが。」



「うふふ。」



























「今日の戦いで、全てが決まる!!」







ヴァーツラフ兄様の響く声。
それに反応して叫ぶ戦士達。



彼らも昨日の戦いで疲労が溜まっているだろうに、それをおくびにも出さず、目
を輝かせて兄様を見ている。



これは、兄様のカリスマとでもいうのだろうか…。



彼らの目は、兄様だけを映している。





私は、きゅ、と隣りにいるサジェの手を握った。






気付かなかったけれど、彼の手はスラリと長い指で整っている。
でも、剣胼胝がある。


これは、いつかのために彼が訓練を欠かさなかった証拠。


彼が、今日のために戦って来た証拠。









彼は、昨日私に昨日言ったの。




『この戦いが終わったら、二人で戦いのない場所に行って、平和に暮らしましょ
う。』と。




戦いのない世界、それが彼と私の望むもの。










ぎゅ…









彼が強く私の手を握り返す。



この手を、離さないように。

























ガチャガチャ





たくさんの矢を矢筒に入れて、私は慎重に歩いて行く。





遠くの前方にはヴァーツラフ兄様。



兄様は次々と襲いかかって来る敵を薙ぎ倒しては払い、どんどん進んでいた。






おかしいでしょう?

将軍自ら前線に立つなんて。
でも、兄様らしい。




私達も兄様の援護をしながら着いて行く。


けれども、兄様の勢いには追いつけなかった。







「サジェ、大丈夫?」

「はい。様はお怪我をされていませんか?」


「ええ。サジェが守ってくれるから大丈夫よ。」







私は素早く矢を番えると、放つ。


その矢はサジェの後ろで剣を構えている男に刺さる。





「ありがとうございます。」


「どういたしまして♪」

























戦いも佳境に入ると、優劣がハッキリして来る。


今回の戦いは、明らかにクルザンドが優勢だった。


敵も疎らに退避したあと、

まだ私達はヴァーツラフ兄様を追っていた。






「兄様ったら、なんて早いのかしら…」




私が呟くと、サジェは兄様をフォローするように返事をした。




「あの方は、ガドリアの将軍を探してらっしゃいます。」




「え?」




「これ以上、戦う意味はないですから。
手っ取り早く、総大将を捕まえるのが戦いを終わらせるコツです。」




サジェはそう言うと、足を踏み出した。



「わかりました。」




私もサジェに遅れないように足を踏み出す。





その時






























「クルザンドの王族一人目見つけた。」





























後ろから急に声がした。







「え!?」






私が振り向こうとする前に、いきなり切りつけられる。






「ぐぅっ…」





背中が熱い。
火が出てるみたいー





矢筒のお蔭で致命傷にはならず、私は前に倒れた。






様!!!」





サジェの声が聞こえる。





「サ…ジェ…」






サジェは私の前に出ると、私を切り付けた者に立ちはだかる。







「ほぅ……鬼神のサジェか。」


「お前は!?ガドリアの…!!」






サジェは男を見知っている様だった。
私は激しい痛みを伴いながら、必死に体を立てる。






「サジェ…」



「大丈夫ですか…?」



「ん…大丈夫よ。」








サジェと男の睨み合いは続いた。




どちらも一言も発しない。






私は、サジェのために体を引きずって離れる。














「それが、というクルザンドの王女か。可愛い顔をしておるな。」


「…」





「ふ…ヴァーツラフの犬め。私は死なん。
そう簡単にこの楽しい戦いを終わらせてたまるか。」





男はそう言うと、殺気立った目で、私を見た。






「どけ、犬。そんな者のためにお前が死ぬのは、なんとももったいない事だ。」






このガドリアの将軍らしき人の狙いは、私の命だ。






「さぁ、その小娘を差し出せ。」


「…そうは、させない。」






サジェは低い声で呟くと、剣を構える。
























サジェは舞い上がる。






木の葉のように、軽く。






彼の磨かれた剣は、太陽の光を照りつけキラリと光る。






その光は、遠く砂漠の向こうまで差す。







彼は空中でくるりと回転すると、その勢いで男に切りつける。






キィィィィン








擦れ合う刃の音が木霊する。







その音に耳を傾け、他の者の戦いに一間置かれる。









誰もが釘付けになる、サジェの剣の舞。




彼は、切りつけてくる刃をひらりとかわし、男の後ろに降り立つ。



























「馬鹿な犬だ。」






男は徐に呟くと、戦いの矛先を変えた。







私に、向かってきた。








「!?」










「我の目的はクルザンドの王族を殺る事だ!!!!!!」







刃を構え、私に向かってくる男。










私は何も出来ずに、ただただ見つめるばかり。

































私は、殺される。


































そう思った時、私の全ての刻が止まる。












何もかもが。走馬灯のように駆け抜けていく。














私は―――

















































ズシャ…




































「あぁッ……!!!!!」














私の目前に見える優しい瞳。





さらりと流れる水色の髪の毛。














ぬるりと暖かいものが、私の体にぽたりと落ちる。














何が、起こったの?













私は……






























急に刻が流れ出す。

いつもより早く、ずっと早く。





































「かはっ……」





































目の前に見えるのは、サジェの顔。





彼の体から突き抜けるのは、鋼の刃。





その先から流れ落ちる、暖かい血。





刃は私に届くことなく、彼を貫いて止まっている。








































サジェはにこりと、私に微笑んで、







「無事で良かった。」









と一言呟いた。





















*********************

もう悲しくて書けないです。
こんな所で終わらせてしまって、申し訳ないです。
もうちょっと落ち着けてから、書きたいと思います。

彼の運命を決めるのは簡単だけれど、
それを実行するのがこんなに辛いこととは。

どなたかが彼を少しでも想って下さるなら、彼を
作り出したことに誇りが持てます。

2006/04/03




    NEXT18