「それで、具体的にはどうすればいいのですか?」








はお忍びで城を抜け出し、街のある一角の小屋に訪れた。
そこには先日会ったシフォン・ウェレンツと妹のイルハ・ウェレンツ、その他クルザンドの若者が数名居た。




「それは…、」




シフォンが話し出そうとすると、妹のイルハがお茶を持ってきての横に座った。




「イルハそれは私がやるから、お前は休んでいなさい。」



「嫌です。せっかく王女様がいらっしゃってるのに…こんな事も出来なくては、王女様に申し訳が立たないです!!」



「いいのよ、イルハ。お構いなくね。」



は隣の少女の頭を優しく撫でた。
少女はそれに気分を良くすると、にっこり笑って感謝の意を示す。



「王女様、あんまり無理しないで下さいね。兄様、王女様に何かあったら私が許さないからね!!」


イルハは膨れると、兄にねだった。


「分かってるよ。」


「それと、王女様に手を出さないでよ!!」



この発言にもシフォンも困り果て、お互いに顔を赤くした。



「イルハ、お前が居ると話が進まないじゃないか。」



シフォンは呆れた声で妹を非難した。妹は膨れ面で立ち上がると、「イーっだ!」と兄に言い放って部屋を出て行った。













「仲が良いですわね。」



「甘やかし過ぎてしまったんですよ。様も兄上殿達と仲が宜しいではないですか。」



「そうね…。」



は一瞬淋しそうな顔をした。



「ヴァーツラフ殿ですか?」



心配の種を鋭く突かれ、は少し動揺した。



「分かりますよ。本当は少しも離れていたくないのでしょう?」



「…ええ。また勝手にどこかに行ってしまって、私の知らない事をしているのが心配で。」



シフォンはクスと笑うと、「様も兄離れ出来ていませんね。」と言った。




















それから一週間、は彼らの小屋に通いつめた。

とイルハは姉妹のように仲良くなり、イルハはいつもの横に居るようになった。


「ねえ、王女様。」


「何?イルハ。」


「王女様、兄様の事どう思う?」


「妹想いの好青年ね。それに、熱い青年かしら。」


はうんうん唸りながら考えて言った。しかし、彼女が聞きたいのはそういう事ではなかったようだ。
眉を寄せての方を向いた。



「そういう事ではなくて、王女様は兄様の事好きじゃない?」


「え!?」



率直に言われて驚く。
彼をそういう風に見た事がなかったので、は返答に困った。




「そっかぁ。でも、兄様はきっと王女様の事好きだよ。私わかるもん。」



イルハは少し淋しそうに言うと、エヘヘと笑う。



「イルハは、ウェレンツ殿が好きなのね。」



はピンと来ると、そう言った。
図星なのか、イルハの顔が赤く染まった。

「私と兄様は本当の兄妹だから結婚できないけど、一緒に居るだけでいいの。私、王女様の事も大好きだから、兄様と一緒になってくれれば二人も一緒に居れて幸せなんだけどなぁ。」



イルハは幸せそうに笑うと、に抱きついた。
は微笑むと、彼女の髪を梳く様に撫でる。



愛らしい子。



はきゅとイルハを抱きしめた。





― でも、ごめんね。私はウェレンツ殿と一緒にはなれないのよ。





心の中でイルハに謝ると、力を込めて抱きしめた。


































様!」



「ウェレンツ殿。」



「…いつになったら、名前で呼んでいただけるのでしょうか?」



「え?あ…シフォン?」



「はい。何ですか?」



「何ですかはないでしょう。シフォンこそ私に用があったのでしょう?」



「はい。クルザンドにはこんなにも戦争を嫌う方々がいらっしゃったとは思いませんでした。これは偏に様のお蔭です。」



「いえ、あなたの努力の成果ですわ。」




この戦争反対者集団は、が入ってから以来急激に増加していた。
具体的な作戦を練り、今日で最終決断の会議が行われて皆の思いを一つにして行動を起こす事になっていた。




「今日の会議で全てが決まる。一緒に、戦いの無い世界を求めて頑張りましょう。」



「そうですわね。」


シフォンとは固く握手した。




「では、私は一度城に戻りますわ。」



はフードを被ると、ドアに手を掛けた。




「では、また夜に。」

「ええ!」





そして人目を憚りながら、小屋を出て城に向かっていった。












「…やっと呼んでくれた。」



ここまでどんなに長く感じたか。


この遂げられない想いを持っているのがどんなに辛い事か。そして、どんなに今回の事の励みになる事か。




「よし、頑張るぞ。」




シフォンは気合を入れると、席を立ち会議の資料を纏めるために自室へと向かって行った。
























































「カッシェル、いるか?」


「ハッ。」



ヴァーツラフは不意にカッシェルを呼んだ。
すると、どこからともなくカッシェルが現れ彼の前に跪く。




「最近、の様子がおかしい。少し探ってきてくれ。」




ヴァーツラフはそう言うと、呼んでいた本を閉じる。



「かしこまりました。」


カッシェルは一言、そして消えた。












「悪い予感がする。」


本をドサリと机に置くと、彼は立ち上がって窓の外を見た。



が城を抜け出すようになったのはパーティーの後からだ。

その時何かあったとすれば、あの見た事のない貴族が原因としか考えられない。





「あの男…、をどうするつもりなのだ…。」




ヴァーツラフは再び男の顔を見るときは、男を八つ裂きにするときだ、と心に誓った。








































「シフォンはサジェに雰囲気が似ているから、少し困ってしまいますわ…。」



は相変わらず首から提げている指輪を、手で弄び始めた。
指でころころと転がす指輪は、あの時と変わらず深い碧が映えて美しかった。

指輪を見るたびにサジェの死を思い出してしまい、自分はダメな人間だと思う。





この世界からいなくなってしまった人は、もう戻ってこないのに。



それでも私は、まだサジェを忘れられないのかもしれない。



これは、恋とか愛とかではなくて…そう、罪とか償いの類。



私が大人になるにつれて失われていくサジェの記憶。



は、どんどんとサジェを裏切ってあなたから離れていってしまうの。








私はズルイ女なの。





サジェを踏み越えて、こうやってのうのうと生きているのですから。













「サジェ…。」




は徐に呟いた。




「…さて、私達がどうやったらこの戦争に対抗できるか、やってみないとわかりませんわ。
 
 私には、シフォン・ウェレンツとイルハ・ウェレンツがついているのです!!

 今日の会議で全てが決まる。私も、頑張らなければ!!!」








は気合を入れると、会議に行く身支度を始めた。







「シフォン・ウェレンツ…。」



意気揚々とが身支度をしている後ろで、カッシェルは隠れていた。

そしてシフォンの名前を呟くと、姿を消した。





































「戻ったか。」



「は。」




ヴァーツラフは窓に寄りかかりながら、カッシェルの帰りを待っていたようだ。



「して、何か分かったか。」



「は。妹姫の背後にいるのは、シフォン・ウェレンツという者で、クルザンドとガドリアの戦争を止める気でいるようです。」



ヴァーツラフは驚くと、顔に手を当てて笑いだした。



「は…ははは、そうだったのか。ガドリアの騎士め、粋な事をしてくれる。」



「今日の夜、その者達の会議があるそうです。妹姫も参加されるようで、『今日の会議で全てが決まる。』と仰られていました。」



ヴァーツラフは含み笑いをすると、「今日の夜は、狩だな。」と呟いた。



「そのようで。では、我らトリプルカイツも準備してまいります。」


カッシェルは消えようとしたが、ふと思い出してが言ったもう一つの言葉を報告した。












「妹姫は、サジェ様の名前を呟いておられました。」










そう言うと、カッシェルは完全に消え去った。




















カッシェルの二つ目の報告に、ヴァーツラフは動揺を隠せなかった。









私の前で決して口にしなかった名前。



それを、は部屋で呟いたのか。



まだ、サジェを愛しているのか。



それとも、あのガドリアの騎士がサジェに似ているので、思い出したのか。








どちらにしろ、私はもうの中にいないということなのか。









こんなにも胸が疼く。






愛しているのに、私がなぜこの戦争をしているのか分かっていない筈もないだろうに。



妹は、私の想いとは裏腹に行動する。




何故、私の傍に居ないのか。何故、私だけを愛さないのか。












「…!?」





ヴァーツラフは自分の気持ちがおかしい事に気付く。




「私は、を妹として愛しているのだ。」




彼は自分に言い聞かせる様に呟く。











「そのために、今日は狩る。」










ヴァーツラフは不適な笑いをすると、鎧を手に取った。









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ヴァーツラフ兄様恐い。(色々な意味で。)

クルザンド記も後2、3話で終わりです。
このお話自体は、本編でヒロインがジェイに
「戦争ではなく、和平を進めるように活動したりしていました。」
と言った事の真相です。
あんな一言からこんなお話が生まれるとは思っていませんでした(笑)

言葉って大事だなぁ。と思った瞬間。

言い訳&説明。

ヒロインはどんどん大人になっていくので、サジェを忘れてはいませんが、あの時の愛する気持ちを忘れかけちゃっています。あの時はまだ幼かった。と終わらせるつもりは無いですが、そういう感じになってます。
まだ若いから再び恋をしたりするってこともアリですよね。(汗)
皆様の捉え方しだいですが、サジェはその事について怒ったりはしないと思います。「アリですね。」と言うでしょう。
それよりも、彼女は自分の所為で失われた命に罪を持ち、償いたい。という気持ちが多いのじゃないかと。
なんだか、酷い言い訳に聞こえますね(泣)


2006/04/22



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