「引きが甘い!!」
「はいっ」
「狙いがついておらん!!」
「はいっ!」
ビュンッ
ドスッ
矢は勢い良く飛び出し、人形の頭に刺さる。
「よし、見事だ!!」
ヴァーツラフはそう言うと、妹の頭をくしゃりと撫でた。
はにこりと笑うと、兄を見上げる。
「もう、実戦に出ても大丈夫だろう。」
「本当?ありがとう、兄様!!」
は嬉しそうに飛び上がった。
「しかし、私の後ろを離れるのではないぞ。」
「はい。心得ております。」
はそう言うと、再び弓に矢をつがえ、構えた。
ビュンッ
ドスッ
同じ様に人形の頭に刺さる。
「もう、私が教えることはない。爪術を使いこなしながら、己の技を磨くんだ。」
「はい。」
兄の言葉を重く受けとめ、心に打つ。
「どうぞ。」
サジェが持って来てくれたタオルを受け取ると、は汗を拭いた。
「ありがとう、サジェ。」
にこりと笑う。
「私に、兄様を守れるでしょうか。」
ふと考え、聞く。
「援護は出来るだろうな。しかし、守るには些か不安ある。」
ヴァーツラフはそう言うと、腰を下ろした。
も兄に寄り添う様に座ると、肩に寄り掛かった。
「弓は、前線で戦う者達を援護する武器だ。私一人を守るものではない。しかし、その援護で、多くの兵士を救うことになる。守るということには変わりないが…」
ヴァーツラフは言葉を濁した。
「それでもいいのです。」
は、兄の胡座の上にある手に自分の手を重ねた。
「私は、守るために戦うのですから。」
「…そうだな。」
兄は深く頷くと、をいきなり抱き締めた。
「兄様!?」
「私がを守ってやる。」
抱き締める力が強くなる。
兄の胸板は厚く、引き締まっている。
毎日の鍛練を欠かしていない証拠である。
その胸板に押しつぶされそうになり、は息苦しさを訴えた。
「に、に…さま、くるし!」
「お、すまん。」
兄は謝ると、笑った。
「もっと優しく抱き締めてくれないと、は兄様の厚い胸板に押し潰されてしまいます!!」
はぷくっと頬を膨らまして言った。
「許せ、許せ。」
兄は笑う。
そんな兄の顔が愛しくて、は兄の胴に手を回した。
しかし、兄の胴は太く、後ろまで手が回らなかった。
「むむむむ、届きません〜。」
は気の抜けた声を出した。
微笑ましい兄弟の会話。
二人は周囲を気にせずに愛を振り撒いていた。
「兄様のこの胸板に顔を埋めるのは、どんな女性なんでしょうね。」
「な!?何を突然言い出すんだ?」
ヴァーツラフは慌てると、顔を赤くした。
「照れましたね。」
はニヤリと笑う。
「私、早く兄様に結婚していただきたいですわ。兄様のお子が見たいです。」
ヴァーツラフはますます顔を赤らめた。
「馬鹿を言うな!!」
「馬鹿ではありません!!兄様はもう32歳ですのよ?もう、お相手がいて大きな子供がいてもいい歳です!!」
は熱く言う。
そう、ヴァーツラフはもう32歳。
父王が心配して何度か見合いをさせるが、どれも失敗に終わっていた。
「この前の美しい方は、勿体なかったです!!くどくど…」
は前失敗した女性の事を蒸し返して喋り出した。
「、ヴェスティクス兄上も相手がいないじゃないか。」
ヴァーツラフは話を逸らそうと、すぐ上の兄を持ち出す。
しかし、逆効果に終わる。
「ヴェティ兄様はいいんです!!男の方として最低ですからっ!!!」
は凄い勢いで、二番目の兄を否定した。
「ここまでお見合いが失敗に終わると言う事は、どなたか好きな方がいらっしゃるのではありません?」
はずすいっと兄の顔を見た。
兄は目を細めてを見返す。
「おらん!」
そう言うと、プイとそっぽを向いた。
ヴァーツラフは顔に似合わず可愛い行動をするため、はそれを見てくすりと笑う。
「私、本当に兄様のお子が見たいですわ。それに、兄様と幸せに家庭を築く女性も見たいです。
…でも、は兄様のそんな姿を見たら、嫉いてしまいますわね。」
少し悲しそうに笑うと、「えへへ。」と言った。
「今までずっと、兄様と一緒に過ごして来たから、突然寂しくなってしまいますわね。」
「……!!!」
ヴァーツラフは妹の言葉に感動して、ひし、と力強く抱き締めた。
は再び、苦しそうな顔になると、兄の胸をどんどんと叩いた。
「に、さまっ…たら」
「お、おぉ。すまん。」
ヴァーツラフはパッと手を離す。
「さっき言ったばかりですわよ。」
は顔を赤くしながら膨れる。
「そうだったな。」
ヴァーツラフはニカカと笑った。
「私、寂しいのは本当ですけど、兄様に結婚して頂きたいのも、本当ですのよ!」
「わかっている。」
「本当ですの?」
「ああ。でも、まだいないのだ。」
「え?」
ヴァーツラフは窓の間から見える空を見た。
「これぞ、と思う相手が。」
「……」
「こんなに素晴らしい妹がいるせいだろうな。」
「まぁ!」
は兄の首に腕を絡ませ、ぎゅ、と抱きしめる。
「お前が幸せになった時なら、結婚も考えてもいいな。」
兄の呟きに、はくすりと笑った。
「兄様、おじいちゃんになってしまいますわよ。」
「そうかもな。」
彼らの笑い声は幸せに包まれて、運ばれていく。
その一方から、運命の歯車を狂わす出来事が近づいていることに、二人は気付いていなかった。
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お疲れ様でした。
ヴァーラフとの幸せの刻、第二段です。
こんなに穏やかにずっと暮らせたら、二人はどんなに幸せだっただろうか。
ヴァーツラフに奥さんと子供がいたら、何かかわっただろうか。
本当に結婚してないのかなぁ。
2006/03/13
NEX7