ヴァーツラフ王子は、普段部屋で朝食を摂るようにしているが、たまに妹と一緒に食べる気になると、広間へと向かう。
滅多にないことなので、これがまた面白いのだが、たまたま広間へと行った時程、兄妹全員が揃ってしまうものなのだ。
「お、ヴァツ!」
「ヴァーツラフ、来たね。」
「兄様、こちらへいらっしゃいな。」
嬉しそうに自分を呼ぶ三人。
― 普段兄上達も部屋で食べているはずなのに、何故こういう時だけ 揃うんだ。ありえん!
ヴァーツラフは心の中で悪態をつくと、彼らの元に向かう。
― ヴェスティクス兄上はいいとして、ヴァルシード兄上は妻と子をそっちのけで兄妹で食事とは…
ヴァーツラフは、殆ど習慣のような睨みを、一番上の兄に向けた。
「相変わらず怖いね。ヴァーツラフは。」
ヴァルシードはそう言うと、何ごともないように食事を続けた。
― 昔は睨みも効いたが。子を持つとこうも変わるのか。
ヴァーツラフは思う。
あまりにも睨みすぎたために免疫がついてしまったのか、兄は昔のように悲しそうな顔をしなくなった。
「今ね、昔の話を聞いていたんですの。」
が楽しそうに言った。
「専ら、の話だけどね。」
ヴェスティクスはナイフを振ると、を見て言う。
「こんな可愛い娘になるとは思わなかったよな。妹じゃなかったら良かったのに。
…ってっ!!」
言葉の最後が変だったが、ヴァーツラフは気にしないことにした。
「おい。今誰か爪術放っただろ!?」
ヴェスティクスはナイフを置いて足を擦っている。
「そんなマナーの無いコト、するわけありませんわ。ヴェティ兄様ではあるまいし。」
は目を細めて、二番目の兄を見た。
「さ、ヴァーツラフ兄様、私の隣りへどうぞ。」
「あぁ。」
― 隣りは。目の前はヴェスティクス兄上。ヴァルシード兄上でなかっただけましか。
ヴァーツラフはそう考えると、椅子に座った。
食事も終わりに近付いた頃。
「ヴァツ、にお婿さん見つけないのか?」
ヴェスティクスが問題発言をした。
ぶふっ!!
「な、ななな何を言っているのだ、兄上!!」
ヴァーツラフは口に入れたコーヒーを危うく吹き出しそうになる。
「もそろそろ結婚を考えてもいいと思うが?」
ヴェスティクスはきょとんとした顔になると、弟と妹を交互にみた。
いつもと違って、彼にとっては真面目に発言した気分のようだ。
「そうですわね。良い方がいらっしゃるといいのですが。」
もその話に乗り気である。
「も恋をする歳かぁ。僕がおじさんになるわけだ。」
ヴァルシードがそう言うと、は笑う。
「何を言っているのです?ヴァル兄様は若いですわよ。中身が。」
はサラリと言った。
「、それって兄上の見た目はもうおじさんだって言ってるようなものだぞ。ははは!」
ヴェスティクスがそう言うと、はあわわと慌て出した。
「ごめんなさい、兄様。そんなつもりはなかったんですのよ?」
「いいよ、気にしてないから。」
ヴァルシードは肩を落として溜め息をついた。
― 絶対気にしてるではないか。
こんな奴が未来のクルザンド王になるなど、虫酸が走る。
ヴァーツラフは悪態をつく。
はというと、落ち込んだ一番上の兄が手に負えないと思ったのか、「薬草学の勉強の時間だわっっ!」と言うと、足早に広間を出て行った。
「、待て…私も」
ヴァーツラフは妹を追おうするが、
「ヴァツ、話がある。」
とヴェスティクスに止められ、しぶしぶ椅子に座り直した。
「そう嫌な顔するなよ。」
「これが嫌でなかったら、何なのだ?」
「そう言われると、なんも言えないだろ。」
ヴェスティクスは、嫌そうにしている弟を、どうどうと抑えた。
「何なのだ?」
「の事だよ。」
「の…?」
― てっきり、私がしている遺跡船の計画が漏れたか、王位を狙うのをやめろと言われるかと思ったが。
の事とは。
「さっきの話の続きなんだけどさ、早めにの嫁ぎ先を決めたいと思うんだよ。ね?ヴェティ。」
「ああ。あの純粋な娘には、戦う事はどういう事かを、知られたくないと思う。」
兄達は揃って、の幸せを望んでいる。
しかし、
「あいつの才能を摘みとれと言うのか!?他の女と同じように、子を産む幸せだけで生きて行けというのか?そんな事…が望むわけない。」
ヴァーツラフはそう言うと、自分を落ち着けるためにコーヒーを口に含む。
「ヴァーツラフ、僕達もそう思うよ。でも、が戦いを知ったら壊れてしまいそうで。あの子は、ガラスのように透き通っていて、脆いから。」
「な!?ヴァルシード兄上は、のどこを見ているんだ!」
ヴァーツラフは一番上の兄の発言に激怒する。机をバンと叩いて立ち上がると、熱く抗議する。
「あいつは脆いかもしれない。しかし、あいつは持っているんだ!…強い心を。痛い目に合っても、必ず成長していく強い心を!!」
ヴァーツラフはそこまで言うと、自分が熱くなりすぎている事に気付き、再びコーヒーを口に含む。
兄達は互いに顔を見合わせる。
「では、そうだったとしよう。しかし、いつかはも嫁ぐ事になるんだよ、ヴァーツラフ。いつまでも僕達の手元に置いてはおけない。」
ヴァルシードは言う。
「その時が、今でも、何年後でも、心の準備をして置かなければだめだよ。ヴァーツラフ。」
兄は諭すように言う。
「なぜ、私に言うのだ?」
「何故って、ヴァツがシスコンだからだろ。」
「なんだと?!」
「まぁまぁ。でも、ここまで話せて良かったよ。」
ヴァルシードは胸を撫で下ろした。
「がいなくなる時は、兄弟一緒に見送りたいからな。」
ヴェスティクスも微笑む。
― あんなこと言っているが…今日ぐらい、いいか。
ヴァーツラフからも笑みが零れるが、それを隠すようにコーヒーを飲む。
「を、サジェが貰ってくれればいいのに。」
ぶはぁっ!!!!!!!
「…ヴァーツラフ、汚いぞ。」
兄の突発的発言に殺られ、ヴァーツラフはコーヒーをとうとう吹き出した。
「なんでサジェなんだ!?」
ヴァーツラフはコーヒーを垂らしながら言う。
「だって、サジェはかっこいいし、頭脳明晰だし、優しいし、気が利くし…貴族だし。」
貴族だというのは最後でいいのか。というツッコミはあえてしない。
「それに…彼は強いからをいつまでも守ってくれるだろうしね。」
自分の付き人がそんな風に思われていたのを知ると、なんだか嬉しさわ隠せない。
「そうだな。サジェならを幸せにしてくれるだろうしな。
…そういえば俺、二年前にテラスで二人がキスしてるの見たな。それも口同士で。」
カチーン!!
「何!!!!!サジェの奴、私のにそんな事を!!!!」
ヴァーツラフが今にも部屋を飛び出して、サジェの所に行こうとするのを、兄達は必死に止める。
「ありゃ、がお礼にしてただけの軽いキスだったぞ!!」
「ヴァーツラフ、落ち着いて考えようよ!」
必死に止められ、鼻息を荒くしながらも、その場に止どまる。
「お似合いの二人だと思ったんだけど…。ヴァーツラフにかかれば、サジェもだめかぁ。」
ヴァルシードが残念そうに言う。
「まぁ、その内なるようになるだろ。」
「……それにしても、
ヴァーツラフはシスコンだね。」
ヴァルシードは笑いながら言うが、その場の空気が凍る。
「……」
ドゴォン!!!!!!!!!!!!!!
一瞬何が起こったか分からず、時間が止まる。
次の瞬間、壁に思いきりぶつかるヴァルシードの姿。
頭から蒸気を出しながら部屋を出て行くヴァーツラフ。
呆気にとられるヴェスティクスがいた。
「…それだからシスコンて言われるんだよ。」
ヴァルシードは、こう言うと、ガクと頭をうなだれた。
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お疲れ様でした〜。
初の兄様3人絡み☆どうでしたでしょうか?
3人とも妹大切にし過ぎだよ、というツッコミは無しで(笑)
憎んでいるのに何故か仲良いですね。
この話、書いていて相当楽しかったです♪
それより、この世界にコーヒー無いだろ…。(ユルシテ!)
2006/03/14
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