夜も更けた頃、城内の廊下をとぼとぼ歩く王女を見つける。彼女はクリーム色のレースがたくさん付いたネグリジェをひらひらさせながら歩いていた。
ふと立ち止まると、ある扉をたたく。
「母様、です。入って宜しいですか?」
シンとした廊下に、王女の澄んだ声が響く。
「いいわよ。」
中から母の声が聞こえた。王女は胸を撫で下ろすと、ガチャリとドアを開けた。
「どうしたの?」
母はベッドに入った直後のようで、本を手にして手元明かりで読んでいた。
心配そうに娘を見ると、布団の角を持ち上げ、「お入り。」と言った。
王女は嬉しそうに走ると、もぞもぞとベッドに潜り込む。
「私、母様とお話したくて。」
は母を見た。
「どんなお話かしら?」
母はにこやかに微笑む。
「母様は、どうやって父様の心を射止めたのかと思いまして。」
「そうねぇ。…………、あなた好きな方でもできたの?」
母は口許をニヤリとあげた。
「そうではないんですけれど、最近、兄様達の間で私の結婚話が持ち上がるので。」
王女は、恥ずかしそうに言った。
「まあ。あの子達は妹を大事にし過ぎる傾向があるわね。大きなお世話でしょう?」
「…でも、気にかけてもらえるのは、嬉しいですから。」
「そうなの?も兄好きなのね。」
母はころころと笑った。
「では、話してあげましょうかしら。あれはね、私が今のより三つ上の歳だった時のこと…」
「今日も美しいわね、アメリアル。」
「ミュゼット様には敵いませんわ。」
私には、ライバルと思える女性がいたのよ。
彼女は私よりも遥かに位が高い家系で、聡明で美しい人だった。歳は私より二つ程上で、姉のような存在だったわ。
「今日、他国の王子がいらっしゃるそうよ。どんな方かしらね。」
彼女は楽しそうに言うと、私の手を掴んだの。
「アメリアル、あなたその方に嫁いではどうかしら。」
何を言い出すかと思えば、そんな事…と、私はあまり相手にしなかったのよ。
「私、まだ男の方に嫁ぐ気はないですわ。」
彼女は残念そうに溜め息をつくと、こう言ったの。
「あなたがどこかの国の王妃になれば、もっと堅苦しくない話し方を出来るし、世界の平和にも繋がるかもしれないのではない?」
彼女がそこまで考えているとは思わなかったから、私は恥ずかしくなったわ。ライバルを名乗るのは、まだ早いってね。
「でも…。」
「あ、いいのよ。気にしないで。あなたを政治の道具にするつもりはないのよ。今のは忘れて。」
彼女はそう言うと、舌を出して笑ったの。
その後、彼女と別れて、私は付き人を従えて街に出たの。
レクサリアは豊かな国だから、街では色々なものが手に入るのよ。
商品に砂も被ってないしね(笑)
私は、商品を見るのに夢中になってしまって、いかがわしい店に入ってしまったのに気付かなかったのよ。その店のいかにも怪しい男達に言い掛かりをつけられて、トラブルにあったの。
連れて来た付き人も女性だったからどうにも出来なくて、「あぁ、どっかの国に売られるのだわ!」と思うと、私のせいで巻き込まれた付き人達が可哀想で、泣きながら私はどうか彼女達だけは助けて下さいって言ったのよ。
男達はその願いだけは聞いてくれて、付き人達を放してくれたの。
私は唇を噛み締めて、自分が運命を受け入れようとしたその時、
「この店はどういう店だ?何が売っている?」
と若い男性が入って来たの。
「兄ちゃん、今日はもうお終いだよ。出て行きな!」
男達は男性にそう言ったけれど、男性は出て行かなかった。
私は涙を流しながら男性を見た。筋肉質ではあるけれど普通の人に見えたから、関わると危ないと思って、「逃げて!」と叫んだのよ。
パンッ
男達はそれに怒って私の頬をはたいたわ。
私はその衝撃に耐えられなくて、倒れてしまったの。
でもその時、男性が私のもとに駆け寄って手を差し延べてくれたのよ。
「何してんだおめぇ!」
男達は激怒したわ。
「女性に乱暴するなんて、男のすることではない。」
男性はそう言うと、私を立ち上がらせてドレスから埃をはらってくれたの。
「大丈夫か?」
「えぇ。」
「今片付けるから、ちょっと待っていてくれ。」
男性はそう言うと、一瞬のうちに男達をやっつけてしまったの。
私にはどうやってやっつけたのか、早すぎて見えなかったのだけれどね。
「さ、行こうか。」
男性は私の手を取り、引っ張ってくれた。
その手は大きく暖かくて、素晴らしかったわ。
男性は急に立ち止まって、まじまじと私の顔を覗いて言ったわ。
「本当に、美人だ。」
私は最初何を言われたか理解出来なかったんだけど、それがわかると恥ずかしくなってしまって…、顔が真っ赤になってしまったのよ。
薔薇のミュゼット、百合のアメリアルと評されてきたけれど、男性に面と向かって言われたのは初めてだったものだから、嬉しいやら恥ずかしいやらで(笑)
「何を言っているのですか。」
私は極めて冷静を装うと、言ったわ。
「はは。私はね、君を見掛けた時あまりにも美人だったから、つけてきてしまったんだ。」
男性はサラリと言うと、笑ったの。
その笑顔は眩しくて、すぐ虜になってしまったわ。
「私より美人な方は、この国にはたくさんおりますわよ。」
「いいや、私は君がいいんだよ。君、名前は?」
「アメリアルと申しますわ。」
「そう、良い名前だね。あ、もしかして、噂の百合のアメリアルって君の事かな?」
「…一部の方は私をそうよんでいらっしゃるわ。」
男性は嬉しそうに笑うと、いきなり私を抱き締めたのよ。
失礼だと思わなくて?
それ以上に失礼なのが、
「アメリアル。私の妻になってくれないか?」
こう言った事よ。
私は、この男性の虜になりかかっていたけれど、なんとか自我を取り戻して男性を押し戻したわ。
「私は、まだ誰のとこにも嫁ぐ気はありません。」
「そんな事言うなって。絶対幸せにするぞ。」
「そんな事言われましても…私、まだあなた様のお名前も聞いておりませんし…それに、一応身分も…」
父の表面もありますからね。男性に身分は外せなかったのよ。
「お、まだ名乗ってなかったか。私は…」
「王子!!!!!」
男性が名乗ろうとしたその時、顔の整った男性が飛び込んで来たの。彼は男性を王子と呼んだわ。
私が何だか分からずに、彼らを交互に見ていると、顔の整った男性は、
「王子、急にいなくならないで下さい!」
と男性を怒ったの。
「?王子?」
私が辛うじて呟くと、
「…この方は、クルザンド王統国王子ヴェイシス・ボラド様だが……王子、この女性は?」
「私の妻になる女性だよ。」
「…」
「王子。もしや突然プロポーズをしたのでは?」
「したが?」
「な!?なんと失礼な!!」
彼らがそんな会話をしているのを聞きながら、私は頭を必死に巡らしたわ。
この方がミュゼット様の言われた王子様なのだわ。私、この求婚をどうすれば。
でも……そもそもいきなり過ぎるし、からかわれているだけなのでは?
「どこぞのお嬢様、どうぞ、我が王子の願いを聞き届けて下さいませんか?」
付き人の男性が真剣に私に訴えている。
…本当なのだわ。
私はそう思うと少し考えて、とりあえず自分の家に内密に招待することにしたの。
「私、父に相談してみます。」
そう言い、家に連れていったのよ。
もちろん父は大反対したけれど、クルザンドは軍事国家だから、自分の反対のために戦争になっても困るとも考えて葛藤していたわ。
そんな父がいたたまれなくて、私は…
「では、駆け落ちのように嫁いで参ります。」
と言ったの。
これなら、父への迷惑は最小限に済むし、私が侮辱されるだけですからね。父は大いに悲しんだけれど、承知してくださった。
きっともう二度と会えないとわかっていたのね。家族全員で見送ってくれたわ。
「私、幸せになれますわよ。あの方に惹かれましたもの。」
父は大泣きしていたわね。
早々と屋敷を出て、彼らと共に停泊している船に向かったのだけれど、途中である人が私を待っていたの。
彼女が。
「幸せになりなさいね。」
「ミュゼット様…」
「いつか、世界が平和に満たされた時、再び会いましょう。私のライバルさん。」
彼女も、私をライバルだと思っていてくれた事が凄く嬉しかったわ。
「えぇ。また、必ず。」
私はそう言うと、ヴェスについてクルザンドに入ったのよ。
その後結婚して、今に至るわ。
「すごいです!駆け落ちなのですね…。」
王女は、母の話を聴き終わると、憧れたようにぽーっとした。
「でもね、、駆け落ちは憧れるようなものではないわ。大好きな家族に会えないのですもの。」
母はそう言うと、溜め息をついた。
「でも私は、それを凌ぐ程の幸せを彼にもらったから満たされているわ。」
にこりと笑うと、娘の頭をを撫でる。
「もそんな幸せをくれる方に、出会えるといいわね。」
「はい。」
「さ、遅くなってしまったわ。今日はここでおやすみなさい。」
「ありがとう、母様。」
王女は、うとうとすると、母の横で寝入った。
アメリアル王妃は、娘の寝顔を見て優しくほほ笑む。
彼女は、世界に、多くの人々に、クルザンドに、自分の夫に、今の幸せを感謝した。
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お疲れ様でした。
プロローグで一文で終わらしてしまった母様と父様の出会い話です。父様は母様の美しさに惹かれてデレデレとついていってしまったら、こんな良い助けるタイミングが出来て、モノにしてしまったわけですよ!!(要約)
ちなみに、薔薇のミュゼットは、薔薇のように華やかで美しい女性。百合のアメリアルは、百合のように清楚で可憐な女性の意味。
ま、アメリアルは言わなかったけれど、ミュゼットに「ライバルさん。」と言われた時点
で彼女はミュゼットに負けていたわけですよ(笑)
因みに、アメリアルの若い頃はヒロインをもう少し美人にした感じで、ヴェイシスはヴァーツラフの見た目でもう少しヴェスティクスの性格にした感じだけどヴァルシードのように一途で真面目。てな感じです。(笑)
2006/03/15
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