コンコン





「ヴァル兄様、いらっしゃる?」




王女は軽く戸を叩いた。



「いるよ、入っておいで。」



中から兄の答えが返って来る。

王女は辺りを見回すと、誰にも見られていない事を確認してドアを開けた。


ここは城の地下の一室。
普段誰も訪れることはなく、埃だらけの部屋であった。
彼らはこの部屋を、秘密特訓のためにわざわざ綺麗にしたのだ。




「来たね。ヴァーツラフは大丈夫だったかい?」


「ええ、今日から遺跡船という所に遠征されましたわ。」



王女は静かに戸を閉めた。


「そうか。…ヴァーツラフは最近、遺跡船ばかりに行っているな。、寂しいだろう?」

「そうですわね。でも、こうやってヴァル兄様と秘密の特訓が出来て嬉しいですのよ。」


王女はペロリと舌を出した。


「ヴァーツラフが聞いたら、悲しむだろうねぇ。


僕を殺りに来るかもしれない(笑)」


「ありえますわ!!」


二人は笑うと、上着を脱ぎ始めた。




王女は動きやすいように服を脱ぐと、ほとんど下着だけのような格好になる。



、いつも思うんだけど、脱ぎすぎじゃないかい?」



兄は遠慮がちに言った。



「いいではないですか、兄様だけですし。」


「それがさ、今日はもう一人来るんだよ。」



兄は妹に言った。は少し驚いたが、あまり気にしていない様である。

すると、ドアの外から誰かの足音が聞こえる。



コンコン



「入りますよ。」


ドアをがちゃりと開けて入って来たのは、ヴァルシードの息子ヴァイシス。



「…!?」



ヴァイシスがドアを開けた途端視界に飛び込んで来たのは王女の下着姿。

彼は声を出さずに驚くと、目を見開いた。



「……………な、なんて格好をしてるんだよ!!」



やっと声を出すと、彼は王女を怒る。



「ヴァス。秘密の特訓はドレスじゃできないのよ。」



王女はサラリと言うと、部屋に立て掛けてある細身の剣を手にした。


が、こんな格好してるなんて知ってたら来なかったよ。父上は何も言わないんだから。」
「嘘をつくんじゃない。お前がに会いたいと言うから教えたのだぞ。」


「…どちらでもいいですけど、ヴァス、ヴァーツラフ兄様に言ったら、ただではおかないですわよ。」


は剣を構えながら、にこりと言った。



「コエ〜」


ヴァイシスは彼女を見て震えた。







「さ、始めるぞ。構え!」

ヴァルシードも立て掛けてある剣を取る。


彼らは準備体操と、素振りを長い時間をかけ、徹底的に基礎をつける。
剣を振るビュンという音が、一定のリズムで聞こえる。
時々、ぽたりと音を立てて汗が落ちた。


ヴァルシードは、息子と妹を交互に眺め、時には叱咤したり褒めたりして、満足そうな顔をしている。


「よし。素振りは終わりだ。汗を拭いて。」



『はい!』


二人は同時に返事をした。



、君はすごく剣に向いてるよ。」

「本当ですか!?」

は兄の言葉に喜んだ。

「うん。やっぱりヴァイシス以上だよ。はぁ、我が息子ながら情けない。」

ヴァルシードは息子に溜め息をついた。



「父上がそんな事言うから息子が育たないんだよ。」



ヴァイシスはさほど気にした様子もなく、汗を拭いている。


「父上は妹好きだからね。息子なんて二の次だよね。」


息子が笑いながら言うのを見ると、ヴァルシードは「お前は出来た息子だよ。」と笑った。











「げ!!!、そんなとこ引っ張って拭くなよ!」

突然、ヴァイシスが叫ぶ。
彼は顔を真っ赤にしていた。

ヴァルシードも振り返って見る。


!?」




王女は辛うじて胸を隠している服を前に引っ張り、手を突っ込んで自分の胸の汗を拭いていた。




「どうされました?」




王女はそう言うと、服を引っ張っていた手を離す。



ペタン



服は勢いよく体に張り付いた。







「はぁ〜。」


ヴァイシスは溜め息をつくとを見た。


「そんなんだと、男は誰も相手にしないぞ。」
「十一歳の子供に言われたくないですわ。」


彼の嫌味にすかさず返事をする王女。


に相手がいなくても、お前のものにはならないんだよ。」


それに付け加えるヴァルシード。





「そんな事、わかってるよ!」

ヴァイシスが答える。



「あら、ヴァスは私と一緒になりたいんですの?」



王女がそう言うと、ヴァイシスは顔を真っ赤にして俯いた。






否定もしない。






とヴァルシードは顔を見合わせると、微笑んだ。



「ヴァス、私よりもっとあなたを想ってくれる方はこれからたくさん見つかりますわよ。」

「そうだぞ。は、お前がいくら頭が良くても、手に負えないよ。」


「兄様、それはどういう意味ですの!?」


王女が怒ると、ヴァルシードはしまった!と口にを当てた。




「はは、面白いな、父上とは。」


ヴァイシスが急に笑い出したため、二人はびっくりして彼を見た。


「さ、手合わせしてよ。。」
ヴァイシスは何事もなかったように普段通りに喋る


「…いいわ。手加減しないわよ。」


は彼の求めに応じると、剣を構える。




「…双方構えて、始め!」


ヴァルシードの合図に、とヴァイシスは目を交わす。


しばらく睨み合いのようなものが続くと、



「やあっ!」



ヴァイシスが気合いを入れて切り込んで来る。


ガキン!


はそれを受け止めると、勢いよく払う。


「はっ!」






キィン!





キィン!




しばらく打ち合った後、が剣をヴァイシスの頭上から振り下ろす。



「はぁっ!!!」



キイィィン!!!





ヴァイシスは刃を重ねて受け流すと、素早くの懐に入り込む。



ヴァイシスはの目を、下から見上げる。
彼の目はキラキラと澄んで、純粋にだけを見つめていた。




「!?」




突然の出来事に驚いたは、体勢を崩して後ろに倒れそうになる。


ヴァイシスは、するりと彼女の背中に手を回すと、体を支える。





そして、呟いた。








「貰い手がいなかったら、僕が貰うから。」








は驚いて言葉を失う。



ヴァイシスは彼女を支えきる事が出来ず、二人はそのまま後ろに倒れこんだ。






カラ…ン…








二人の剣が床に落ちる。




「どうしたんだい!?」


ヴァルシードが心配そうに駆け寄って来た。



「大丈夫です…私が体勢を崩してしまっただけですから…」


がきょとんとした顔で言う。




ヴァイシスは立ち上がると、自分の服をはたいて言った。




「今日は僕の勝ちだね。

あーお腹空いた。僕、先に行くよ。」




ヴァイシスは、ドアを開けて出て行く。








「あの子、本当に兄様のお子ですの?」

「?」

「まるで、ヴェティ兄様のお子のようですわ。」


は言った。


「なんか、言われたのかい?」


ヴァルシードが興味津々に聞くが、は答えなかった。


「…それとも、もしかしてヴァル兄様の裏の部分を受け継いだのかしら…。」





「…大方、が欲しいみたいな事言ったんだろう?言わせてあげといてよ。まだ11歳なんだし。恋もするよ。」

ヴァルシードはそう言うと、隅にあった椅子に座る。


「ヒトを好きになれば、ヒトは成長するんだ。大切な誰かを守るために、ヒトは強くなる。」


持った剣をくるくると回しながら、言う。


「そうですわね。ヴァイシスは今まで本ばかりの本の虫でしたけれど、この頃はちゃんと剣の練習もするようになって…。


 やはり、ヴァル兄様お子ですわ。
 私なんて、すぐ越されてしまいそうです。」



は笑う。



「でも、ヴァスったら…自分の叔母ではなく、もっとちゃんとした恋の相手を見つければいいのに。」



妹が呆れたように言うので、ヴァルシードは息子を庇う。


「歳の近い女の子なんて、くらいしかいないからね。あの歳じゃ、叔母とかは関係ないんだよ。」


「…そうなのですか?


 …男の子って変わってますのね。」


はそう言うと、剣を拾って壁に立て掛けた。
そして、兄の方に振り返る。



「さ、兄様、私達も食事に参りましょう?」


「そうだね。」



二人は静かに部屋を出て行った。



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お疲れ様でした☆

ヴァルシードの息子、ヴァイシスのお話です。
彼は、11歳。ヴァルシードの息子ながら本の虫で、
かなり頭の良い大人ぶった少し生意気な子供です。
ヒロインとは2つ違い。尊敬しているのはヴェスティクス。
父への口癖は、
「彼女(ヒロイン)以上に可愛い子はクルザンドにいない。」です。
なかなか本人の前で素直になれない可愛い坊やなんですよ^^


2006/03/18


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