を投獄したって、どういう事なんだ!!」


「やめなさい、ヴァイシス。」


第一王子ヴァルシードの息子ヴァイシスは、叔父であるヴァーツラフに食ってかかろうとした所を父に止められた。



「何をする!父上!!」



彼は掴まれた服を振りほどこうともがく。



「言った通りにしなさい。」


父はそう言うと、息子の体を持ち上げた。



「うわっ!」




「さてヴァーツラフ、説明してくれるかな。」



ヴァルシードは弟に微笑みかけた。




「…説明するも何も、は会合に出席したのだ。だから投獄した。」


「…会合か。それは投獄されても仕方ないね。でもさ、その会合に出席した者達は皆釈放され、リーダーのシフォン・ウェレンツ君は強制送還されたんじゃないかな。どうしてだけが投獄されるんだい?」

ヴァルシードは、弟が怒り出さない様に穏やかに聞いた。



が他の若者達全ての罪を被ったのだ。」


「ふーん。そうなんだ。」


ヴァルシードはそう言うと、息子を持ち上げたまま部屋を出て行った。



「父上、離してください!!まだ話が終わってない!!」



遠ざかって行く兄の方から、聞こえたのは甥の叫び声だけだった。














































「気分はどうだ?。」


「普通ですわ。」


牢屋の中でちょこんと座っている妹を見ると、ヴァーツラフは笑った。


「笑い事ではないです。」


は頬を膨らますと、プイとそっぽを向いた。


「そう怒るな。そうだ、シフォン・ウェレンツとイルハ・ウェレンツをガドリアに送届けてやった。」


ヴァーツラフがそう言うと、は目を輝かせて兄を見た。


「ちゃんと、約束を守ってくれたのですね!!」


妹のこういう顔を見ると、兄としては弱い立場になる。


「約束だからな。しかし、あいつと次に会うのは八つ裂きにする時と決めていたのに…、お前にはしてやられた。」


ヴァーツラフはクッと笑うと、格子に背をもたれた。


「私、そんな気はありません事よ。」


もフと笑う。



「…で、そろそろ、何故ああいう行動をしたのか話してくれるのだろうな。」



ヴァーツラフは静かに言った。その声には威厳が含まれ、先程のおどけた様子とは打って変わっていた。
はそれにビクンと反応すると、胸の指輪を触った。




「私は、平和を求めているのです。」

話し始めた妹を、ヴァーツラフは見据えた。






「私は今回の事で、たくさんの若者が戦争を望んでいない事を知りました。戦争をしているという事は、若者達にとって死と隣り合わせに生きているという事です。
彼らは、私達ボラド家が戦えと言えば戦い、死ねと言えば死ぬのでしょう?それでは、駄目なのです。


皆が生きて、皆が幸せにならなければ、本当の平和は来ない。

クルザンドの平和は来ないのです。」



は兄を見上げる。


ヴァーツラフは妹に聞こえない様に舌打ちをすると、



「そんなのは、幻想に過ぎない。」




と吐き捨てた。







しばらくの間、二人共喋らなかったが、ヴァーツラフが突然に口を開いた。



「お前は、クルザンドの資源がどんなに切羽詰まっているのか知らないのだろう。貧困の者が、どんなに溢れ返っているか知らないだろう?クルザンドは窮地に立たされているのだ。何故かなどとは言わないな。」

ヴァーツラフは、お前ならわかっているだろう?という口振りで言った。はそれを悲しそうな目でみやると、反論する。


「窮地に陥っているからといって、何故他国と戦わなければいけないのですか?戦わなくても窮地を脱する方法はあります。

それは…他国て同盟を組む事です。」


「クルザンドが他国と同盟を組むことはありえん。他国は、貧困の国を救うなぞせぬ。同盟を進めたならば、クルザンドは攻められて滅びるだけだ。」


「兄様はそんなに戦いに結び付けたいのですか?戦って失うのは、人の命です。命がなければ何もできません。戦いの後に残るものは、虚しさです。」








ガシャァンッ








「甘い!!

我が国にそんな事はさせぬ!!
戦い以外に未来はありえぬのだ。お前みたいな幻想では、クルザンドの者達は生きて行けぬぞ。
クルザンドは戦いの国なのだ。クルザンドは戦って未来を掴み取る。


あまっちょろい考えは捨てろ!!!」




思いきり格子を殴り、怒声を浴せ、彼は、の知っている兄ではなかった。
彼女はここが牢屋の中で、本当に良かったと思った。


すぐ手の届く目の前に、今兄がいたらどうしていいかわからなかった。


は怯えた瞳で兄を見る。



すると、胸の指輪が自分を呼んだ気がして、触ってみた。


なぜかその指輪が暖かくなった気がして、握り締める。



すると、近くにサジェを感じた気がした。






「……サジェは、私に教えてくれました。
人は皆平等で、クルザンドもガドリアもないと。皆、同じ命を持っていて同じように生きているのです。
だから…私達ボラド家は、クルザンドの代表として民達を導かなければならないのです。
それは死を伴う戦いではなく、生としての共存。


共に手を取り合えば、皆平等に生きていけるのです。」




ヴァーツラフは、のクビ下をを睨んだ。







「……サジェはまだ、お前と共にいるのか…。」






ヴァーツラフは悲しそうに微笑んだ。



「お前は、いつもサジェと共にいるな。考え方も、起こす行動も似通っている。
私の考えが気に入らず、私の愛を知らず、お前達は私を困らせるのだ。



…しかし、お前はもう一人だ。サジェはいない。」




ヴァーツラフは格子を開け、中に入ってきた。

はそれに恐怖し、後ずさる。





「に…兄様…?」


、何故後ずさるのだ?私は、お前の兄のヴァーツラフだ。」






こんなの、ヴァーツラフ兄様じゃない!!!

は恐怖に怯え、目を瞑った。







ブチッ






「きゃあっ!!」



ヴァーツラフに無理矢理、胸の指輪を引き千切られる。
兄はそれをニヤリと笑い、懐へしまった。




「…返してください!!サジェの…サジェの唯一の形見なのです。」


「こんなもの、お前には必要ない。そうだこれをやろう、私からだ。」



ヴァーツラフは街で買ったペンダントを妹に投げた。
はそれを取ると、ぎゅと握り締める。



「その指輪がなくなったとしても、私はいつもサジェと共におります。


 そして、私達は平和を望まない日はないのです。


 罪のない人々が殺されていくのは耐えられない。


 皆が平和に手を取り合って創っていく世界。 


 これが、私とサジェの望むもの…」





「フ…そんなものはまやかしに過ぎん!


 人は憎む。恨み、妬みが人を支配する。


 平和などはありはしない。


 あるのは、戦いの跡に残る世界のみだ。」





「そんなことはありません!
 人は不完全だからこそ、可能性を秘めている。


 平和は、人々の手で創っていけるのです!」




、クルザンドの王女がそんな事では務まらん!!」




「私はクルザンドの王女でも、そうでなくても、


 この世界を愛しているのです。


 私のこの想いは変えられません!」




!!」




殴られる!!




はそう思ったが、ヴァーツラフは殴らなかった。






「お前の想いは果たされん。」






彼は静かに言うと、牢を出た。





「お前がクルザンドに残る事は許せぬ。


、お前は明日、私と共に遺跡船へと渡るのだ。」



「えっ…」



「お前を残してこの国を出て行くということは、クルザンドの死活問題になる。…私と共に行くのだ。」



は格子の向こうの兄の背を見ると、



「分かりました。」



と呟いた。



































愛する妹への仕打ち、それは自分で考えても酷いものであった。




ヴァーツラフは自室へと戻ると、ベッドに横になり天井を仰いだ。
そして、懐からサジェの指輪を取り出した。
指輪の宝石は、鈍く光ると色が暗くなった気がする。





「お前は、いつも私の考えに反対していたな。」


ヴァーツラフは指輪に話しかけた。



















「ヴァーツラフ様、大切な方を守るために戦って人を殺すのが全てではありません。」


「なに?」


「人を殺さないで戦う方法もあるのです。例えば…」


「下らぬ!!」


「ヴァーツラフ様…。」


「私は、戦でクルザンドを守るのだ。」



















「お前は、穏やかな平和ととの幸せを望んだのだろうな…。」


指輪は淡く光る。


「私は…お前に嫉妬したのだ。の心を掴むお前に。

妹の瞳には、私はもう映らぬ。」














ガチャ…












ドアが急に開き、ヴァーツラフは驚いて起き上がった。







「ヴェスティクス兄上。」


「…ヴァーツラフ、明日クルザンドを発つんだって?」


ヴァーツラフは立ち上がると、頷いた。



はどうするんだ?」


「連れて行く。」


ヴェスティクスは眉間に皺を寄せると、弟の肩を掴んだ。



「何故、を連れて行くんだ?」


「ッ…離せ!!!!」


ヴァーツラフは兄の手を振り解くと言った。


は、今回の事件の責任をとるために私が連れて行く。あいつをクルザンドに残すという事は、クルザンドの死活問題になる。」


「何を言っているんだ!!!お前は何を考えている…いや、企んでいるんだ?何年も前から遺跡船という場所に目をつけて、何をやっている!?」


ヴェスティクスは弟を睨んだ。


「兄上には、関係のないことだ。」


「………。」


ヴァーツラフは兄に背を向けた。




「ヴァツ、お前はを手放したくないのだろう?」


「!?何を!!」


「お前が帰還した時から、おかしいと思っていたのだ。お前がに向ける視線…」


ヴェスティクスはドアへ向かって歩きだした。






「それは、妹へ向けるものではなく女へと向けた視線だ。」




「!?」







ヴァーツラフは目を見開くと、わなわなと震えだした。




「ぐっ………出て行け!!!これ以上侮辱するなら、兄上でも許さぬ!!!!!!」



「!!ヴァツ…お前、自分でも気付いて…」



「出て行けと言っているだろう!!!!」



ヴェスティクスは目を細めて弟を見やると、ドアを出て行った。























「何なのだ!!!何だって言うのだ!!!は私の妹だ!!私の、妹なのだ。」




ヴァーツラフは一人叫ぶと、両手で顔を覆った。












彼の手の中で、サジェの指輪は淡く光った。






















































「ここでも、私は牢の中ですのね。」


「ああ。」


は牢の中に収められると、不満を呟く様に言った。



ヴァーツラフ以外の兄や、父母に会う事もなくクルザンドを発つ事がどんなに悲しい事か。
しかし、彼女はヴァーツラフを恨むことはしなかった。
自分はクルザンドにとって、ボラド家にとっては罪人である。
それに、こんな事があったとしても、彼女は兄を愛していた。






「ヴァーツラフ兄様、どのくらいで遺跡船につくのですか?」


「わからん。」



先ほどから、兄はこの調子だった。
何かを考えているようで、心はここになかった。


は、兄を見上げると溜息をついた。
それに気付いたのか、ヴァーツラフは妹を見下ろす。



胸元には、自分がやったペンダントが飾られている。
それに気がつくと、少し照れくさくなって顔を逸らした。










「兄様、遺跡船で何をされるつもりですか?」


妹は、少し強い口調で言った。それに不機嫌になると、ヴァーツラフはニヤリと笑う。


「フ…お前には、面白いものを見せてやる。」


そして踵を返しての前から姿を消した。


















「兄様…あなたは一体何をなさろうとしているのです…。」















は、いつまでも兄が消えた方を見つめていた。














END



2006/05/03




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