メラニィを倒したセネル達は、上へ上へと向かっていた。
途中、後方から現れた同盟軍兵士にメラニィ撃破を本部へ伝えるよう頼み、彼ら同盟軍の士気を一層高めることとなった。
「さん。」
小走りで皆について行くの横に、疲れを知らない様な表情のジェイが来た。
は乱れた息を整えジェイに微笑む。
それを、彼は心配そうな目で見ていた。
「無理しないでくださいね。あなたに倒れられたらたまったものではありません。
…………少し休みますか?」
「いえ、大丈夫です。時間がないのですから…。」
にとって、ジェイの心遣いはとても励みになった。
「ジェイに心配していただけるなんて、皆に自慢出来てしまいますね。」
「…そんなことありませんよ。」
彼らが上の層へと近付いていく度に、の心は段々と重くなっていく。
本当は先ほどの様に微笑むのも、にとって辛いことだった。
― 段々、兄様に近付いていく。
兄様と会うという事は、
…仲間としての皆との別れになる。
彼女の心は陰り始めていた。
自分は彼らに秘密を持つ事で彼らを裏切っている。そして、兄の考えにも裏切っている。
― …どっちつかずなんて関係ない。
私にとって、親しい人の心が離れて行くのが一番辛い。
兄様とも、皆とも、ずっと仲良くしたかった…。
でも、最上階に着いたらそれは終わり…。
は俯き、目を閉じた。
ジェイはそんなに気付く事なく前だけを見て歩いていた。そしてそのままの目線でに話しかける。
「そういえばあなたがクルザンドに居た時、メラニィと一悶着あったんですか?」
「あ…。」
鋭いジェイが気付かない筈がない。
彼はとメラニィの話をどこから聞いていたかは分からないが、を王女と呼んでいたのは聞いてなかったようだ。
「相当憎まれてましたね、あれは。」
ジェイはを見ると、意地悪そうに唇の片端を上げた。
「…ええ。メラニィは軍人ですから、私が行なっていた戦争反対運動が気に入らなかったのでしょうね。」
彼女はこの話だけで引き下がって欲しいと切に願った。
そして彼らは歩を止めて見つめ合う。
しばらくしてジェイは軽く頷くと、
「そうですか。」
と言い、先に歩いて行った。
ジェイの考えは、真相とは程遠いところにある。
の正体に気付いている事もない。
けれども、何かに感づいている。
ヴァーツラフに会えばの正体など分かってしまう。
だからといって、今彼らに言うべきではない。
彼らの実際の目的はシャーリィを助けること。
だから、今仲違いになるようなことは話せない。
― 彼らが私の正体を知ってしまったら、その時は彼らが望むままに。
は胸に手を置くと、ぎゅっと心を押し込めた。
「皆、大好きです。」
そして、消え入りそうな声で呟くと彼女は静かにジェイの後を追っていった。
光の指す扉を抜けると、そこは中庭のようだった。
木々が生え、豊かな葉を茂らせている。
は深呼吸すると、大きく手を広げた。
「素敵!!」
が大喜びで飛び跳ねると、他の皆はびっくりして彼女を掴まえた。
彼らはこんなにはしゃいだを見た事がないので、異様なまでに騒ぐに驚いたのだ。
「あ、ごめんなさい。あまりにも故郷に似ていたので!!」
は彼らに笑うと、舌をペロリと出した。
似ているのはクルザンド城の中庭。
そこでは、幽幻のカッシェルに隠れんぼを挑んだ事があった。
その時のはまだ幼くて、カッシェルもまだ幽幻などという通り名もついていなく、ただヴァーツラフのお気に入りの部下であった。
その日、彼はちょうど城に呼ばれて兄を訪ねていた。
― 私はそこで、初めてカッシェルを見た。
兄様から話を聞いていたけれど、会うのは初めてだった。
「ヴァーツラフ兄様!!!」
私は、兄の部屋へと続く廊下を小さな足で一生懸命に走っていた。
そして、部屋の前に誰かが立っているのに気付いた。
「あなたは誰ですか?」
その人はひょろりと大きくて、私が見上げると虚ろな目で私を見下ろした。
横には性格のきつそうな女の人(そういえばメラニィだったような…。)がいて、二人して兄様の部屋の前で立っていた。
「俺は、カッシェルです。」
「私はメラニィ。」
「私は、です。お見知りおきを。」
二人がちゃんと挨拶してくれたので、私もドレスの裾を掴むと、腰を折ってお辞儀した。
「王女様、ヴァーツラフ様は何処にいるのですか?」
「あら、兄様いないの?」
メラニィの言葉に私はがっかりすると、廊下をうろうろと歩き始めた。
「…そういえば、今日はどこかに行くと仰ってたわ!」
そして兄様の用事を思い出すと、二人に言った。
メラニィの方は、「用があると仰ったから来たのに!」とぶつぶつ言いながら帰っていったけれど、カッシェルはまだそこに留まっていた。
「あなたは、帰らないのですか?」
「……。」
カッシェルは何も言わずにドアを見つめていた。
私はこれは良い機会だと思って(兄様からカッシェルは面白いと聞いていたし。)カッシェルに話しかける事にした。
「ねぇ…あなた消えたり現れたりできるのでしょう?」
カッシェルはコクリと頷く。
「ヴァーツラフ兄様から聞いたのよ。…カッシェル、私とかくれんぼしましょう。きっと楽しいわ。」
私はポケットに突っ込まれているカッシェルの手を取ると、グイグイと引っ張った。
カッシェルは信じられないという顔で私を見ると、私の手を振り解いてポケットに突っ込む。
私は頬を膨らませてカッシェルを睨むと、
「ある事ない事兄様に報告するわ。」
と言った。(今思うと、これはかなりの脅しだわね。)
カッシェルは驚きを通り越した様な複雑な顔をすると、渋々とポケットから手を出した。
私はその手を満面の笑みで掴むと、
「中庭でしましょう!!」
って彼を引っ張っていった…。
「正面に次の階層への入口がありますね。」
ジェイの言葉に、は現実に引き戻された。
前方を見るとそこには大きな扉が聳えている。
「ここも、爪術の力で開けるっちゅうことか?」
モーゼスはドアに手を当てた。
「はい、皆集合。扉に手当てて〜。」
ノーマの声に従い、他の皆も扉に手を当てる。
「…?何にも起きないじゃん!」
「ホンマじゃのう。」
「モーすけの嘘つき。モーすけに騙されたっ。」
ノーマが頬を膨らませてぶーぶー言うと、モーゼスは彼女の方を向いて「なんでじゃっ!!」と怒った。
「そんなことをしてもムダだ。」
周囲の木々の間から声が聞こえた。
この声は…、
「カッシェル…。」
は相手の名を呟いた。
ブンッという音の後に、皆の目の前にカッシェルの姿が現れる。
「そこの扉を開けられるのは、俺が持っているこのカードだけだ。…何がいいたいかわかるか?」
「ワレを倒しゃあ万事解決っちゅうことじゃろが!!!」
カッシェルはフと笑うとセネル達を見回した。
そして、へと少し長い視線を置いた。
「………。」
実際はとても短い間だったのかもしれない。
しかし、にとってはとても長い間カッシェルと視線を交わしていた気がした。
「…俺の通り名は「幽幻」。何者も俺の姿を捉える事はできん。」
カッシェルはそう言うと、自分の分身を作り出した。
「くっくっくっ……。迷うがいい、惑うがいい。恐怖に震え、死ぬがいい!!!」
分身した全てのカッシェルから同じ言葉が放たれる。
彼らはどのカッシェルが本物か区別がつかず、苦虫を噛み潰したような顔で戸惑っていた。
…一人を除いては。
「そこ!!!!」
あるカッシェルに雷が放たれた。
すると、雷が落ちたカッシェルに他の分身も集まる。
「何っ!?」
カッシェルは自分の姿を捉えた者を見た。
ジェイである。
「僕も身のこなしには自信があるんですよ。
自分と他の人の得意な事が重なるのって気になりますよね。」
ジェイはニヤリと笑って続けた。
「どちらの実力が上なのか確かめずにはいられない。そうじゃありませんか?」
その言葉に、カッシェルの目も細く笑った。
「面白い。ならば貴様の力、見せてもらおう!!!」
カッシェルはそう言うと、高速で木々の茂る方へと走っていった。
「ジェイ…!!」
は心配そうに声をかけた。ジェイは振り返るとにっこり笑う。
「大丈夫ですよ。
…さて、鬼ごっこの始まりだ。」
彼はそう言うと、目を細めてほくそ笑んだ。
**************
はい。カッシェル編まだ続きます〜。
メラニィとの格差が激しい!ってお思いに
なるかもしれませんが…。
先に言いますと、私は何故かカッシェルが
好きです。ええ、好きですとも!(ヤケ)
贔屓です。明らかに贔屓(笑)
所で、まだカッシェルとの過去話続きます。
また途中で入る予定です。
エセカッシェルですが、耐え忍んで呼んで
下さい♪
2006/05/26
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