木々の間から聞こえる音。
これは、カッシェルが移動している音か、それとも風が囁いている音か。
木漏れ日の中で佇むは木々に耳を傾けていた。
― 今なら、私にもカッシェルの隠れている場所がわかるかもしれない。
彼女はそう考えると目を凝らした。
木の葉は静かに囁き、舞う。
ただ一つのヒントもなく彼女の目は木々の間を縫っていく。
― もう、ここにはいない。
答えが見つかると、彼女は溜息をついて頬に手を当てた。
「残念。」
そしてこう呟くと空を仰ぐ。
「私には、その機会はないのかしら…。」
「どんな機会ですか?」
急に後ろから声を掛けられ、はびっくりして仰向けに倒れそうになった。
ジェイはそれを支えると、ゆっくり立たせてやる。
「びっくりしました。いきなり声を掛けないでください。」
「いきなりじゃありませんよ。向こうからさんの名前を呼んだと思いますが?」
は「あ!」という顔をすると、にこやかに笑い掛ける。
「笑ってごまかさないでください。」
ジェイは眉をひそめた。彼女はそれを軽くかわす様に微笑むと、ジェイの手を掴んで歩き出す。
「右足、どうかしたんですか?」
に引っ張られながら、ジェイは彼女の小さな変化に気付き声を掛けた。
は、最初はなんとか誤魔化そうと言い訳を考えたが、良い訳が思い付かず有りのままを話すことにした。
「石に躓いて転んだだけです。消毒も薬も済ませました。」
「それじゃだめですよ、薬は即効性がない。これからの戦いで足手まといになったら困ります。ノーマさんかウィルさんに治してもらいましょう。」
「でも、手を煩わせるのは…。」
ジェイは白くて細い人差し指をの口に当てると、
「足を庇って歩いていると、敵に狙われやすいですからね。守る方の身にもなってください。」
と言った。
は口を窄めると、しぶしぶ「はい。」と返事した。
「、大丈夫か?!」
少し歩くと仲間達が見えて来た。は小さく手を振るとはにかむ。
それを見て仲間達は安心したのか、胸を撫で下ろして次々と彼らに寄って来た。
「どうしたんだ?心配したんだぞ。はすぐ消えてしまうから心配でしょうがない。」
「ごめんなさい、クロエ。実は石に躓いて転んでしまって、手当してたの。」
「何!?傷か!!ヒール!!!」
クロエとが話しているところにウィルがしゃしゃり出て、回復爪術をかけてしまった。
クロエとは目を見合わせると、目を細めて笑い合う。
膝の傷はウィルのお蔭でキレイになくなり、はその場でピョンピョン跳ねて見せた。
「ありがとうございます、ウィル。」
「…いや。」
ウィルは眼鏡をクイと上げると、曖昧な返事をした。
「さぁて、鬼ごっこの続きでもしましょうかねぇ。…そこっ!!」
ジェイから雷が発せられると、何もない所に落ちた。
しかし、「何!?」という声と同時に、その場所からカッシェルが現れる。
「どうですか、僕の実力は…。」
「クッ…。」
ジェイの問い掛けに答える事なく、カッシェルはパッと消えた。
「まだ続けるつもりですか。」
そんなカッシェルを見て、ジェイはニヤリと笑い先へと歩を進めた。
「ジェージェー、楽しんでない?」
「ああ、そう見えるな。」
「鬼ごっこな隠れんぼも、ジェージェーにとっては一種の楽しみなのかな?」
「それは違うと思うが。」
「ジェージェーはSかぁ。」
ノーマには、クロエの切り返しは聞こえていない様だった。
鬼ごっこな隠れんぼは、見つけ見つけられが数回続き、最初の扉の前まで一周してしまった。
「さて、時間も無い事ですしもう止めにしましょうか。」
「……。」
ジェイは片手を挙げてカッシェルの脇に雷を落とした。
「俺は負けん!!!!」
カッシェルはその挑発に乗るように、ナイフを構えて向かってきた。
「カードキーも手に入った事ですし、行きましょう。」
横たわったカッシェルを背に、ジェイは仲間達に言った。
ジェイは勝ち、カッシェルは負けた。
カッシェルの敗北はすぐに決まった。ジェイの力は、彼を何倍も上回っていた。
そして、カッシェルは一人。ジェイには仲間がいることが勝因だったかもしれない。
の人選に狂いはなかったが、こうやって昔から知っている者達を失くしていくのはとても辛い事だった。
それも、それを顔に出せないのが非常に辛い。
涙の一つでも流せれば、どんなにの心は救われただろうか。
彼女はそう思うと、自分の立場を少し呪った。
「行きましょう。」
「その意気じゃ、!」
「え?」
モーゼスの思ってもいなかった言葉に、は目を丸くして聞き返してしまう。
「最近は何かを焦ったり、元気がなかったりしちょったからの、ワシらは心配じゃったんじゃ。」
「私が…焦ったり、元気が無かったり?」
「オウ!」
確かめるように聞き返すと、モーゼスはにこりと笑って返事をした。
それに付け足すように、セネルが彼らの間に割って入ってきた。
「。が思っているほど、俺達はの変化に鈍いわけじゃないんだ。が焦れば俺達は気付く。が元気なければ俺達は勇気付ける。……出来る限りだけどな。」
セネルはそう言うと、照れ隠しか笑った。
「セネル……。」
「前クロエが言ったけど、俺達さ、なんのための仲間なんだ?」
セネルの口元から見える白い歯がきらりと輝いた。
は嬉しそうに笑うと、何度も何度もお辞儀して皆に「ありがとう。」を伝えた。
「セネル、ありがとう!!!」
最後にセネルへそう言うと両腕を伸ばして彼を抱きしめた。
それに妬く視線を気にしつつ、セネルはゆっくりとの背中に手をまわして抱きしめ返した。
「オッホン!」
クロエがわざとらしく咳をしたので、二人は二人の世界から引き戻された。
「あ…ら、長い間抱きしめてしまってごめんなさい、セネル。」
「い…や。」
彼らは離れると、気まずそうにクロエを見た。
「……行くぞ。」
クロエは一言そう言うと、ジェイからカードキーを奪って先に行ってしまった。
「セネセネ、ちゃん、やっちゃったね〜。」
ノーマの言葉に、二人は何だか分からない、という顔で見合わせた。
「クー、可哀相。」
そんな二人を見て、ノーマはこう言うと、クロエの後を追うように着いて行った。
「、行こう?」
最後に残ったセネルは、なかなかここを動かないに手を出した。
しかし、は手を取る気配が無く彼は困惑する。
「?」
「……あの、セネル。」
「?何?」
は俯き加減だった顔を上げ、セネルを真正面から見た。
彼女の下唇は噛み締められ、口元に皺が寄っている。
よほど言い難い事なのか、目は迷いに満ちていた。
― が言いたくないんだったら、言わなくていい。
セネルはこの言葉が真っ先に浮かんだ。
しかし、この言葉は今のには適当じゃないかもしれない、とも思う。
すると、セネルの頭の中にもう一つ言葉が浮かんだ。
彼は何の迷いも無くこの言葉を放つ。
「、言わないと後悔する。」
― なんで後悔するかなんて俺は知らない。
セネルは思った。
― でも、この言葉をに言わないといけないって思ったんだ。
セネルはの顔をじっと見つめた。
はそんなセネルの顔を不思議そうに見つめると、最後に一回唇を噛み締めた。
そして、口を開く。
「私、カッシェルと知り合いなのです。カッシェルと最後のお別れをしてきていいですか?」
「え…カッシェルと知り合い?」
「はい。」
セネルはの言葉に驚くと、彼女の顔と横たわっているカッシェルの姿を交互に見た。
― …そうか。だからカッシェルはに攻撃してこなかったんだ。
それにも、カッシェルに直接ダメージになる攻撃は一切しなかった。
セネルはカッシェルとの戦いでの二人のやり取りに気付く。
気付くと、とても申し訳ない気持ちになった。
シャーリィを救い出すために、カッシェルとの戦いは避けられないものであった。
だからといって、彼を殺すまではなかったと。
「ごめん、。俺、気付かなくて。」
「セネルが気に病むことは全くありません。カッシェルは私達の敵なのです。敵が、知り合い、友人、家族であろうとも、自分の信じるものと相対するのであれば、戦って勝たなければならない事はあるのです。」
「…。」
「セネル、有難う。あなたはとても優しい人です。」
「…そんなこと…。…わかった。最後のお別れしてきなよ。俺は少し行ったとこで待ってる。あ、誰も来ないようにも見張ってる。」
「ありがとう、セネル。」
のお礼を聞くと、セネルは二カッと笑って走っていった。
はそれを見送ると、少しずつカッシェルに歩み寄り膝をついた。
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こんな微妙なところでごめんなさい。
それも、カッシェル話ここで終わりな筈
だったのに、一話延ばしてしまいました。
これは、ほしのきの趣味でしかありませ
ん!(土下座)
あ、でもセネルちょっとラブ話…。
ジェイもね。
それよりクロエ、ごめん!!!
2006/05/29
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