ガタタン








エレベータは大きく軋むと、何かに嵌まり込んで止まった。

何故嵌まり込んだとわかったのかというと、エレベータから投げ出していた足が何かに嵌まり込む瞬間に間に挟まれたからだ。

は挟まれて青くなった部分を擦ると、ぷにと押してみた。




「痛い…。」




押した部分から身体全体に痛みが走った。これは打ち身のようだ。
彼女はいつもの鞄から数枚の葉っぱを出すと、揉みしだいて痣に貼付ける。








「皆、大丈夫かしら…。」






はふと当たりを見回して呟いた。
彼女がエレベータであがっていった時の皆の心配そうな顔。








特に、ジェイの顔が鮮明に思い出された。









「ジェイ…きっと、舌打ちして怒ってるでしょうね…。」








クスりと笑うと、床に手をついて立ち上がった。その反動で先程足に貼った葉が落ちる。

ひらりと舞う葉の後に出て来た肌には、あったはずの痣は既に消え元に戻っていた。
彼女はそれを気にすることなく踏み出すと、次の部屋へと進んだ。


























































「いらっしゃいましたか。」




ウイィンという音を立てドアが開くと、中にはスティングルが腰に剣を下げて立っているのが見えた。

は静かにドアを閉めりボタンを押すと、彼を見据えた。















「来ましたわ。」



「………。」













彼女はゆっくりとスティングルに近付いていった。二人は武器を構える事なく互いの顔を見つめている。









「メラニィとカッシェルは殺られたんですね。」








スティングルはふとそう言うと、後ろを向いた。









「ええ。彼らはもういません。」








はその背中に悲しそうに言うと、胸の前で祈るように手を組んだ。









「私は罪深い王族なのです。たくさんの民をこの手で…。」










胸の前で組まれた手は震えながら強く握られ、肌には爪の跡がついている。
スティングルはそんな王女の姿を見ないためにか、後ろを向いたまま呟いた。






「罪深くない人間なんていない…。」






その呟きはスティングル自身に発せられたようだと、は思った。
実際、スティングルはクロエの両親を手に掛けるという罪を背負っているのだ。








「そうですわね。」







は優しく同意すると、後ろを向いている男に微笑んだ。




















































「クルザンドは………いえ、あなたのお兄さんの軍はもう終わりでしょう。」





スティングルはに振り返ってそう言った。
その時、彼女の顔は蒼白に強張る。














「ええ。あなたも、見切りをつけた方がいいですわ。

















 …病弱な娘さんがいるのでしょう?」















は強張りながらも何気なく言ったのだが、彼女の最後の言葉に、スティングルはかなり驚いた様子だった。








「なぜ、それを!?」







彼は恐怖に怯えたような瞳をに向けた。





「兄様も知ってらっしゃる事よ。
 
 …こういう言い方は良くないけれど、娘さんは…あなたが変な行動をした時の目の届く人質なのです。」





は彼を刺激しないように遠慮がちに言ったが、スティングルの顔は蒼白になって強張った。







「あなた、知らなかったのね。あまり説得力はないかもしれないけど、兄様はこういう所には抜かりはないから。」




「…。」




「だから、あなたはここを抜けて娘さんを守りに戻った方がいいわ。」






は辛抱強く説得するように言った。しかし、












「それは、出来ない。」










スティングルはそう言って目を逸らした。








「私には罪がある。」




「………クロエの両親の事?」







スティングルは頷くと、動かなくなったエレベータを見た。





「あの娘に敵を討たせなければならない。」



「…あなたは死ぬつもりなの?娘さんを残して、クロエに討たれるつもりなの?」





はキッとスティングルを睨んだ。





「討たれる事で、罪が償われるなんて思わないで!!あなたが討たれる事で、また同じ罪を持つ人が出て来るのよ?

分かるでしょう?スティングル。今のあなたとクロエが、クロエとあなたの娘さんになるのよ!!」




「!!」





は胸を押さえて、自分の気持ちを落ち着かせる。






「罪を償うということは、それを背負ってこれからも精一杯生きて行くことだと私は思うわ。」




はそう言うと、スティングルの肩当に手を添えた。








「勇気を出して、あなたの娘さんとクロエのために。



…あなたは生きるのよ、スティングル。」







そして彼を抱き締めた。




















































「それで、いいのだろうか。」





スティングルはぽつりと呟いた。
彼は涙こそ流してはいなかったが、肩は小刻みに震えていた。




「いいの。いえ、そうでなければならないのよ。

あなたの娘さんも、クロエも、きっと分かってくれる。」




「そうか…。




王女、この先にはあなたを求めている方がいる。…あなたは、行かなければならない。」






「ええ。」





「……あなたは本当に、将軍閣下の妹御なのか…。」






はふふと笑うと、





「そうですわ。」





と笑った。







「あなたは、どう償うつもりなのか…。いや、この罪はあなただけのものではないな。」


「少しでも私の罪は罪なのです。私は、皆が望むように償うつもりです。あなたに負けないくらい、生きて償うつもりです。」





はスティングルの肩をバシバシと叩く。





「スティングル、またいつかお会いしましょう!!」





そして、彼を残して次へと続くエレベータに乗り込んだ。



エレベータはを乗せた事を認識すると、機械的な音を立てて昇っていった。
















































スティングルは彼女の後姿を見送っていたが目を瞑って俯き加減に微笑むと、エレベータに背を向けた。











「あなたは本当に不思議な王女だ。



…生きて罪を償う、か。



…人にとって、それが一番残酷で辛いことだ。しかし…。」





























「スティングル!!!」





「来たか…。」






先程が入って来たドアが勢い良く開き、セネル達が現れる。






スティングルは腰の剣を引き抜くと、









「私は、償うために死ぬわけにはいかない!!…これが私の、覚悟だ!!!!!」








と彼らに向かって行った。
























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スティングルが生きる事を選んだ理由。
エルザのためだけではなくクロエのために。


彼女をそんなとこに絡めたかったのです。



2006/06/03





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