ブオォン…






エレベータは昇りきると、上階の床に嵌り込んだ。
は前回の学習を経てエレベータから足を投げ出すという行動をしなかったので、足に痣が出来ることはなかった。しかしエレベータが昇る時に感じる風は清々しく、は足を投げ出せないことにひどくがっかりしていた。


エレベータからそろりと降りると、一歩一歩確かめながら歩いていく。
ノーマを連れていないので、何かのトプがあったとしてもには何の対処も出来ない。そのトプにひっかかってどうにかなってしまうのがオチだった。
そうならないためにも、は周囲に気をつけながら歩いていった。












「まぁ、あれは……空割山?」


艦橋の大分高い階層に来たのか、ガラス張りの廊下の外は遺跡船の周囲が見えた。
海、遺跡線の中、ウェルテスの街。そして彼女の目に映ったのは、聖ガドリア王国のシンボルの空割山。







「こんなに近くに……。空割山があるという事は…、もう、時間がないのね。」







はガラス越しに空割山を見据えた。
その山麓にある聖ガドリア王国の王都バルトガ…。

そこにはたくさんの人々が暮らしている。













 ― それは、ガドリアもクルザンドも同じ。








  それを壊すのは、人の罪……。兄様の、罪。











「兄様、絶対にダメです。……どうか、間に合って下さい。」






は空割山を目に焼き付けると、目を瞑って走り出した。























長く続く廊下を走ると、暑くもないのにじわりと汗が滲む。
変わらない景色を、何度も何度も通り過ぎながらは進んでいた。





心の中は焦りでいっぱいになり、先へ先へと走っていく。しかし体はそれに追いつかず、彼女の運動不足を買っていた。









「兄様…。」








は背に掛けてある弓をとると、白銀の柄を握り締める。弓はそれを痛がる様にキシキシと鳴った。







「あっ……、これでは壊してしまうわっ……。」






は自分の行動の無意味さに気付くと、手の力を緩めた。









「丸腰では、兄様には勝てないものね。




…でも、弓があっても同じだけれど。」







彼女はクスと笑い、弓を背に掛け直した。









しばらく歩くと、廊下の突き当たりに大きな扉が見えて来た。は直感的にそこに兄がいると感じとると、立ち止まって着ている服の皺をのばした。
そして弓矢の確認と自分の怪我の確認をすると一回、深呼吸をする。
































「スーッ………ハーッ………。よし!!」



























パアァンッ…















そして最後に自分の両頬を叩いて気合いを入れる。










「絶対に、負けてはダメ。」









は自分に言い聞かせる様に呟くと、思いきりドアを開けた。



































































































「見事……。」





スティングルは後ろに倒れ込んだ。
クロエは剣を持って近づくと、彼の喉元に切っ先を当てた。




「最期に言い残す事があれば聞いてやろう。」


「……。」



スティングルはゆっくり起き上がると、彼女の剣に手を当てて払いのけた。





「!?スティングル!」





彼は立ち上がってそろりと後ずさった。






「おい、まさか逃げる気じゃないだろうな。」





クロエはそう言って剣を構える。
スティングルはそれに準じて後ずさっていく。







「お前……!人に覚悟を聞いておいて、自分はその態度か!」






クロエは剣を振り下ろすと、ワナワナ震え始めた。






「これが私の覚悟だ。」



「何……?」






スティングルは胸元から何かの機械を取り出した。
そしてその機械のボタンを押す前に、彼らを見渡した。







「あの娘は先に行った。早く追わないと、取り返しのつかない事になるかもしれん。」




「なんじゃと!?」



が先に!?」




セネル達は動揺すると、一瞬の隙を見せた。
その瞬間、スティングルは機械のボタンを押しエレベータの入り口を開け、そしてそこに勢い良く飛び込んだ。











「私はまだ、死ぬわけにはいかぬ!」











彼の最後の言葉は、彼が生き抜く事を語っていた。







































「おのれ……!」



「クロエ!!!」



「くっ……!」



「クロエ……。」





クロエはスティングルを追おうと皆に背を向けたが、セネルが彼女を呼び止めた。





「クーリッジ、私は……私は……!」





セネルしか見えないクロエの泣きそうな顔。
彼は何の言葉を掛けるべきか頭をめぐらしていた。しかし良い言葉が浮かばず、彼はクロエをただただ見つめるばかりだった。




彼らの後ろでは、モーゼスがジェイにクロエとスティングルの関係の疑問をぶつけている。




「クッちゃんと仮面野郎、知り合いじゃったんか?」



「そうみたいですね。詳しい事情は僕も知りませんが。」




しかし、さすがの情報屋のジェイも知らないのか、頭を悩ませていた。





「クーの探してた相手か…。」




モーゼスの隣でノーマがそう呟くと、クロエを悲しそうに見つめた。

















クロエは脇に下げていた手を力強く握ると、セネルを真っ直ぐ見た。






「教えてくれ、クーリッジ。私は、なぜ、ここにいる!?」






「……祖国の危機を救うためだ。」





セネルは少し考えると、彼女に優しく答えた。
クロエはそれに深く頷くと、他の仲間達を見た。






「……うん、そうだな。みんな、先へ進もう。」





そして、彼女は仲間達に笑いかけた。
セネルは真剣な顔で彼女を見返すと、再確認するように問いかけた。





「……いいんだな?」



「今、真っ先にやるべきなのは、ヴァーツラフの下へ辿り着くことだ。祖国を守るために、シャーリィとステラさんを助け出すために。私は騎士だ。位は失えど、心は誇り高き、ヴァレンス家の騎士だ。人を救う事、国を守ること、それこそが騎士の本分だ!」





クロエが爽やかに言い切ると、セネルは満足そうに仲間達を振り返った。





「……というわけだ。みんな、わかったな?」



「りょ〜かい!」



「ちょっと待てェ!ワイにはさっぱりわからんぞ!」





セネルが仕切りだすと、モーゼスはちんぷんかんぷんだという顔で言った。
それをノーマがぺしぺしと叩くと、




「いつかクーが話してくれるよ。それまで待とう。」




と言ってクロエにウインクした。
クロエはそんなノーマをフと笑うと、






「ああ、約束する。」






と言った。













































「なんだか、助ける人が一人増えてしまいましたけど、頑張りましょう。」



「ホンマじゃ。のやつ、待ってるっちゅうことを知らんのか。」



「今回の彼女の行動は……ああ、どっかのバカ山賊と似たような感じですね。」





モーゼスの言葉に、ジェイはニヤリと笑って言った。彼のツッコミが効いたのか、モーゼスは怒っている。






「なんじゃと!?」


「あなたの名前なんて出してませんよ。」





モーゼスはまんまとジェイに嵌められると、悔しそうに歯軋りをした。





ウィルは父親のように温かい目で彼らを見ると、






「よし、残るはヴァーツラフだけだ。あと一息だぞ!急いでを追いかけるんだ!!!」





と言ってハンマーを振り回した。











































彼らは囚われの少女達を助けるために、





真実に近づくために、





艦橋の最上階へと向かっていく。





























*****************

ちょっといいところで終わらせてみたり♪

どんな困難でも仲間と一緒なら乗り越えていける。
でも、今は一人の彼女は、自分の兄を目の前にして
どうするのだろう。


2006/06/03





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