「、無事だったか!!」
セネル達はに近寄ろうと踏み出した。
しかし、当人のは首を横に振って後ずさる。
「…どうしたんだ?」
彼らは心配になって彼女を見た。
はその目線を避けるように俯くと、再び首を横に振る。
ヴァーツラフはその光景をククと笑うと、セネルを見た。
「なんだ?」
セネルはヴァーツラフの視線に気付くと、眉間に皺を寄せて彼を睨む。
ヴァーツラフはそれを鼻で笑うと、口を歪ませた。
「セネル、お前はかなり役に立ってくれたな。」
彼はそう言うと、再びククと笑った。セネルはそれを訝しげに睨むと、歯を食いしばる。
「…何を言っている?」
「フ……。私がお前に感謝していると言っているのだ。」
ヴァーツラフは甲冑をカシャと鳴らしながら腕を組むと、セネルをニヤニヤと見下ろした。
「……感謝だと?一体何を言っているんだ!?」
ヴァーツラフは「今に分かる。」と言うと、マントを翻しての方を向いた。
「そんな事はどうでもいい、ステラとシャーリィ、を返せ!!」
「フ…。」
ヴァーツラフは軽く笑うと、の腕を掴んだ。
は掴まれるままヴァーツラフに身を任せると、彼の腕の中にすっぽりおさまった。
「に触るな!!」
セネルはその行動に吼えると、飛び掛って彼女を引き剥がしたい衝動に駆られた。
しかし、気持ち一つで行動することがどんな失敗を生むか知っている彼は、それを押さえ込んで睨み上げた、
「……触るな?触るなだと?どうしてお前にそんな命令ができるのだ?………教えて欲しいものだな。」
ヴァーツラフはそう言うと、の胸前に手を回して彼女の体を持ち上げた。
「んぅっ!!」
はがっしりした腕の圧迫に、苦しそうに呻いた。
「や…やめろ!!」
セネルは慄くと叫んだ。
ヴァーツラフはの顔がよく見える様に突き出すと、ククと笑う。
は、苦しさに喘ぎながら唇を噛み締めて首を横に振っていた。
「やめろ、ヴァーツラフ!!を放せ!!俺たちの仲間だ!!」
「セネルはこう言っているぞ?クク……仲間だ?……良かったな。」
セネルの後ろから、他の仲間達も顔を出して心配そうに彼女の名を呼んだ。
「を放すんじゃ!ヴァーツラフ!」
「ちゃん!!」
「!」
「さんっ…」
ヴァーツラフは楽しむ様にの体を下ろすと、背中を叩いて行動を促した。
「仲間が呼んでいるのだぞ?」
しかしは首を横に振るだけで、その場を動こうとはしない。
「!!」
痺れを切らしたのか、セネルはヴァーツラフを気にする事なくの腕を掴んで引き寄せようとした。
バシン
その時、恐ろしい形相のヴァーツラフがセネルの手を払った。
「!?なっ……ヴァーツラフ…」
セネルは目を見開く。
「少し強引過ぎないかセネル。
……なあ、。」
ヴァーツラフの言葉に、の振っていた首が止まり体が強張った。
セネル達はそれに気付き、目を丸くして彼女とヴァーツラフを交互に見た。
「……って?」
ノーマが微かに発すると、ヴァーツラフはニヤリと笑っての肩に手を掛けた。
「まだ、仲間に自分のことを明かしていなかったのか?」
ヴァーツラフは続けて彼女の肩をぽんぽん叩いた。
「フ…………。
とは、貴様達がと呼んでいるこの娘の本名だ。」
ヴァーツラフはニヤニヤ笑いながらセネル達を見回した。
彼らの喉がゴクリと鳴るのが聞こえてくる。
しかし、ヴァーツラフの次の言葉を待つように、誰も言葉を発しなかった。
「素性を明かしておらんとはフェアではないぞ、。」
ヴァーツラフは強張ったの頬をスッと撫でた。
の体はそれにビクンと反応すると、目を閉じる。
「この娘の名は、・ボラド。
私の妹だ。」
ヴァーツラフはそう言うと、勝ち誇ったようにセネル達を見下した。
「が、お前の妹!?」
「ウソじゃろ、!!」
セネルとモーゼスがに叫ぶ。
は唇を噛み締めると、意を決したように彼らを見た。
そして、
「私は、クルザンド王統国の第一王女・ボラドです。」
と言った。
その顔は今にも泣き出しそうである。
彼女の口からその言葉が発せられた瞬間、仲間達の顔が苦悩に満ちていった。
はその顔を見るのがとても辛く感じたが、目を逸らす事だけは出来なかった。
それだけは、許されないと思ったのだ。
「ふーん、僕達を騙してきたんですね。」
ジェイはそう言うと、今まで見たこともないくらいに彼女を睨み付けた。
はそんなジェイを、悲しそうな顔で見つめる。
「……チッ……」
あからさまなジェイの舌打ち。しかしは目を逸らそうとはしなかった。
「…そんなぁ…ちゃんが、クルザンドの王女?そんなのって、ないよ〜!!」
ノーマは今にも泣きそうな声で言うと、クロエの腕にしがみ付いた。
クロエはクロエでの顔を穴の開くほど見つめると、
「が我が祖国の敵……!?」
と言って脱力した。
「そうだ、ガドリアの騎士よ。この娘は三年前の砂漠の戦いで、一人で数え切れないほどのガドリアの者達を葬った。」
「!?」
クロエは驚いた顔でを見た。
は彼女の視線を真っ直ぐ受け止めた。
が目を逸らさないのを見て、クロエ悲痛な顔で、それが本当の事なのだと悟った様だった。
「この娘は紛れもなく、クルザンドの王女なのだ。」
ヴァーツラフはそう言うと、妹の肩を握った。はその手に自分の手を重ねると、きゅ、と握る。
「そうです。私の本当の姿はクルザンドの王女。でも……。」
は重ねた手を静かに離すと、兄に向き直った。
「私は、ヴァーツラフ兄様のやり方は許す事が出来ないのです。」
ヴァーツラフはを見ると、悲しそうに笑った。
「そうだったな。」
そして、妹の頬を叩いた。
パアアァァン!!
「うっ……!」
は勢い良く体を跳ねらせ、セネル達の方まで飛んだ。
しかし彼女の正体を知った今、彼女を助け起こす者はいない。
は自力で立ち上がると、兄を見据えた。
「兄様は間違っています。私と共にクルザンドに帰って、償わなければなりません!!」
「何が間違っているというのだ?クルザンドはずっと、戦って成り立ってきたのだ。今回も、その一部にしか過ぎん。」
「クルザンドを幸せで良い国にするには、もっと他の方法があります!!」
「くどい、くどいのだ。私がいる限り、お前の想いは果たされん!
この意味は、わかるな?」
「………。」
ヴァーツラフは拳を突き出すと、恐ろしく冷たい顔で笑った。
「お前は敵だ、。
……私は、お前を殺す。」
は一度、目をぎゅっと瞑ると背の弓を取って構えた。
セネル達は彼らのやり取りに目を奪われていたがが弓を構えるのを見ると、同じように武器を構えた。
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ヴァーツラフの真意が掴みにくいですね。
妹を陥れたり、仲間の元に戻らせたり。
兄様は、何を思って妹と戦うのか。
2006/06/04
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