「どうだ……?」










セネルは恐る恐る顔を覗いた。

先ほどは蒼白になり生気を感じられなかったステラの頬に、少し赤みが差してきた。
セネルは微かに唇を歪ませ、彼女の名前を呼ぶ。













「ステラ!」











すると、閉じていたステラの瞼がゆっくりと開いた。















「お姉ちゃん!」




「やった……やったぞ!」













ステラは物憂げな瞳でセネルを見ると、続いてシャーリィを見た。













「お姉ちゃん、しっかり!」





「ステラ、俺達の声、聞こえるか?ステラ!」













彼女はセネルとシャーリィの声に反応する様に微笑むと、唇を震わせた。

















「シャー…リィ、あなたの力は皆を幸せにするためのものよ。ゆっくりと育んで…。」

















シャーリィは姉の手を握ると、大粒の涙を零した。
ステラは愛しそうに妹に微笑むと、こくりと頷いた。


そして少し顔をずらしてを見る。






















、ごめんね。私のせいで、あなたを悲しい目に合わせてしまった。」























ステラの言葉に、は悲しみに満たされた。


しかし、彼女を決して恨む事は一つもないと思う。

























「…気にしないで、ステラ。


……これがステラの意志のように、あれが私の意志なの。」




















ステラがの名を呼んだことや普通に受け答えしたに驚きながら、セネル達は彼女を見守った。
















「あなたのお蔭で、私………ようよ。」







「え…?ステラ、何…?」















が聞き返すと、ステラはにっこりと微笑んだ。










「…あなたと、共に。」































次にステラは、セネルに向き合った。
彼女は微笑んでいるが、セネルはボロボロと泣いていた。














「…セネル…。」














彼女は言葉を途切らすと瞼を閉じていく。














「ステラ!!!……え、『ごめんね。』ってなんだよ、おい!!」













ステラはセネルの声に反応することなく、静かに目を閉た。












「行くな、おい!ステラ!」










セネルはなんとかその目を開かせようと、彼女の体を揺すった。
しかし、彼女の目は開かれない。
















「俺が水舞の儀式を申し込むの、楽しみにしてたんじゃなかったのかよ!」






「お兄ちゃん……。」






「先に行っちまったら、申し込めないじゃないか!ステラ……おい!」













ステラの息は細くなり、消えていく。
そして、彼女はガクリと項垂れた。












「ステラ?ステラーーーー!」





「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!!」















セネルとシャーリィは彼女を掻き抱くと、大声で彼女の名を叫んだ。









は彼女の鼓動が止まるのを感じ取ると、目を瞑って祈りを捧げた。













―  ステラ、安らかに…。












すると、の胸に暖かいオレンジ色の光が舞い降りた。
はそれを抱きしめると、ステラの死に涙した。

















































            *











































彼らは一言も話す事なく、艦橋の入口へと降りて行った。










「…またね、ワルター。ありがとう。」



「……また……会いに来る。」









ワルターはを安全な場所まで送ると、後ろ髪引かれる思いでシャーリィの下へと飛び立って行った。









は艦橋を見上げて、溜め息を付いた。











― 一生のイベントが、凝縮されて降り懸かったみたい…。










彼女はもう一度溜息をつくと、その場に腰を降ろして自分の姿を見た。


手や服には、褪せること無く兄の血がついていた。
は汚れているはずのその部分を、優しく触れた。









































さん。」







急に誰かに名を呼ばれた。
しかし自分をこう呼ぶ人は、ジェイしかいない。






彼女は自分を呼んでくれた嬉しさを隠せず、ドキドキしながら振り返った。










「……ジェイ!」








彼の名前を呼ぶと、ジェイの顔が少し引きつった。
それに気付くと、嬉しくなってしまった自分を諫める。
















― そんなこと思っても、失われてしまったものはすぐ取り返せないわ。














彼女は嬉しさを隠して彼に問う。







「ジェイ、どうしたの?」






ジェイは引きつった顔を戻すと、澄まし顔に戻って言った。










「…作戦参謀として、あなたをレクサリアに引き渡さなければなりません。」







「そうですか。」










当然の行為。
はそう感じるとジェイに頷き立ち上がろうとしたが、ジェイはそれを止めた。











「むこうがここに来るそうですから。」




「…わかりました。」











ジェイはそう言うと、の横に腰を下ろした。













































しばらく無言の刻が流れるが、ジェイはそれを追い払うかのように彼女に話しかけた。









「一つ、聞いていいですか?」









ジェイはの方を向くと問う。彼女はジェイを見て頷いた。















「何故、あなたはヴァーツラフを殺したんですか?」




「!……」















は彼の目線から逸れる様に遠くを見た。















「………。」




「答えなくてもいいですよ。」
















ジェイは彼女を見つめたまま言う。




は決心した様に目を瞑ると、歯を噛み締めて唇を動かした。
































































「私は、兄様に甘いのです。」


























































冷たい風が吹く。の銀色の髪の毛が靡くと、夕日できらきらと橙に光った。






ジェイはその銀色の橙に惹かれ、彼女の髪を神秘的なものかの様に見入る。






は髪を引き寄せると、靡かないように肩に撫で付けた。











― きれいだったのに…。










ジェイはそれを少し惜しんだ。








































































「兄様は私のことを分かっていて、選ばせたのです。








……プライドを失っての生か、







……プライドを守り通す死を。



















































そして、私は選んでしまったのです。








兄様が望むものを。」



















































がそう言うと、また風が吹いた。先程とは違う、暖かい風が。
















「そういうことですか。」












ジェイは「ヨイショッ」と言って立ち上がると、腕を広げて深呼吸をした。












「……。」








さん、あなたはもっと自分中心に考えた方がいい。あなたは今回、他人を優先することで大切なものをたくさん失いましたよ。」







「…ええ、そうですね。」







「一つはあなたの故郷。二つ目はお兄さん。三つ目は……」







「仲間、ですね。」











ジェイは頷いた。












「あなたは、僕たちにあなたへの恐怖を植え付けた。今回の事ほど、あなたが恐いと思ったことはありません。






……まさか、自分のお兄さんを手にかけるとは。」










ジェイは腰に置いていた手を、無造作に胸の前で組んだ。
は立ち上がると、彼を真っ直ぐ見つめる。
















「ねぇ、ジェイ。






人は…一度でも人を殺してしまうと、次に人を殺してしまう瞬間の決断が早くなると思いませんか?」









「!!」
















ジェイは驚くと、目を見開いた。




まるで、自分を見透かされた気分だった。
















「…私は、そうなってしまったのでしょうね。」













は彼に微笑んだ。













ジェイはそれから何も言わず、カーチスとイザベラが来るのを待った。
彼らが来ると、ジェイは静かに去っていった。


























































































「貴女が、クルザンド王統国の王女ですか。」





「はい。」






イザベラは悲痛な面持ちでを見つめると、カーチスをチラリと見た。
カーチスは頷くとの肩に大きなケープを被せた。
ケープのお蔭で、兄の血は見えなくなる。









「こちらに来ていただけますか。」







イザベラはそう言うと、彼女の背にかかっている弓を手に取った。









「申し訳ありませんが。」




「いえ。」







はそう言うと、彼らの後についていった。













































しばらく歩いた先に、一人の女性が立っていた。
彼女は、源聖レクサリア皇国の聖皇陛下。










は彼女に微笑むと、膝をついた。











さん。」





「はい。」





「あなたは、私の家にいらっしゃい。」








ミュゼットは優しく微笑むと、彼女の肩に手を置いた。
聖皇陛下の言葉に驚いたカーチスは、









「ミュゼット様、宜しいのですか!?」








といつもとは違う真面目な顔で聞いた。








「いいのよカーチス。彼女は私のところに来てもらうのが一番でしょう。」








ミュゼットがそう言うと、カーチスは後ろに下がった








「ミュゼット様がそう仰られるなら。」






「いいですね、さん。」






「はい。宜しくお願いします。」








は立ち上がってミュゼットにお辞儀すると、艦橋を見上げて手を握り締めた。







その手の中には、兄にもらったペンダントとサジェにもらった指輪。







































「…さようなら、ヴァーツラフ兄様。」













は、ウェルテスの街に向かってゆっくりと歩き出した。














































































兄様の想い…








あの時、兄様は私にこう言った。













「女として、お前を愛している。」












と。


































































ヴァーツラフ兄様、













私は妹として、女として、貴方に愛されて、













幸せでした ― 。



























































*****************


ヴァーツラフ編完結です。

最後の兄様の言葉は33話の空欄だったところです。
ヴァーツラフは想いを遂げたという感じで。

ヒロインがヴァーツラフの妹だったのは受け止められたけれど、彼女が兄妹であるヴァーツラフを殺してしまう事を受け止められない仲間達。
どんな事情があったとしても、仲間として友達として最も近しい者を自分の手で葬ってしまうような人を簡単に受け入れる事は出来ませんよね。
ジェイも家族を知らないから殺したこともないだろうし、ヒロインの行動に絶句したはず。

この後は、彼らがどんな感じでその壁を越えていくかなどを、メルネスなシャーリィを交えたりしてオリジナリティを富んだものにしたいと思っています。

一つの区切りが出来たので、新たな目標を持ってこれからも書いていきたいと思います。
ここまで読んでくださって有難う御座いました。


皆様が読んでくださったからこそ、私はここまで頑張れたのです。
そして、これからも。


2006/06/11


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