「今日も雨かぁ…。」
私はゆったりとベッドに腰掛け、窓の外を見ていた。
窓の桟に滴る雫が、ぽたぽたと床に落ちる。
そこには水溜まりが出来ていて、私がもう長い間ぼーっとして窓を開け放していたことを示していた。
「……ああっ、大変!」
それに気付くと、大急ぎで窓を閉める。
窓はキィと鳴って雫を振り払いながら枠に納まった。
雫のせいで床が結構被害を受けていたけれど、そのうち乾くと判断してそのまま放置した。
― もう、何日続いてるだろう……こんな、憂鬱な日々。
「兄様……。」
私は祈るように手を合わせると目を瞑った。
大好きなヴァーツラフ兄様。その命を奪ったのは自分。
人の命を奪ってしまったことは、人として許されない罪。
自分自身でも許せない。
― たとえ兄様が悪いこと……世界を揺るがせるような謀をしていたとしても、私は妹として、クルザンドの王女として、兄様の願いをお助けするべきだったかしら…。
いいえ、違う。
私はこれで良かったの。
ジェイも、ワルターも言ってたじゃない…。
『 私はきっと、間違ってない。 』
「ヴァーツラフ兄様…。」
私は目を開けると、無意識に入っていた肩の力を抜いた。
数日間、私はこの葛藤をして過ごしてきた。
起きても寝てもその事ばかり。
精神の病ではないかと思うくらい葛藤していた。
あの戦いの後、私はマダムミュゼットのお屋敷に居候させてもらい、平穏な毎日を過ごしている。
マダムミュゼットは聖王陛下であるにもかかわらず、とても暖かく優しい方。敵国だったクルザンドの王女である私を匿ってくれていた。
「、一緒にご飯食べましょ!!」
そしてここには居候がもう一人、ウィルの娘のハリエット。
どんな理由からかわからないけれど、ウィルと彼女は別々に住んでいる。
…でもせっかくの家族なのだから、一緒に住んでもらいたい、それが私の細やかな願いかな。
ウィルもハリエットも強情なだけで、お互いとても愛してるのが私にはよくわかる。
ふふ…。
「ったら〜!早く出てきてよ!!」
「あら、ごめんねハリエット。」
私は立ち上がると、ドアを開けて外に出た。
「…なに笑ってるの?気持ち悪いわよ。」
「あら、大変な言い草ね。ハリエットとウィルの事を想ってたのに。」
「うえ〜っ。やめてよ、ハティとあんなやつのことを一緒に考えないで!!」
ハリエットは膨れっ面になると、腕を組んだ。
「はいはい!わかりましたよー。」
「わかってない!」
「わかりました♪」
「絶対にわかってない!!」
「ふふふっ。」
「ったらもーっ!」
ハリエットは可愛い。私に妹がいたら、こんなんだったのかしら。
そう考えると、ヴァーツラフ兄様から見た私もこんな感じだったのかもしれないわね。
…でも兄様と私の年齢は、親子ほど離れてたけど。
私に妹はもう無理だから、その分ハリエットをたっぷり妹扱いさせてもらおうっと。
「ね、ハリエット。」
「なぁに?」
「私の妹になってくれない?」
「…いいわよ。しょうがないから。」
「えーっ!しょうがないってなあに?」
「だって、意地悪なんだもん。」
「そんなことないわ。」
私がおどけると、ハリエットはまた膨れっ面になって、「そうだけど。」と言った。
その眉を顰めている姿がなんとも可愛くて、思わず抱き締めてしまう。
「ちょっと、どうしたの?」
ハリエットは本気で心配してくれてるみたいで、その小さい手で私の背中をぽんぽんと叩いてくれた。
それが胸の奥のしこりをほぐしてくれて、
……なんだか、涙が出た。
*
「さん、あなた外に出た方がいいわ。」
マダムミュゼットはお茶を飲みながら私に言った。
「…私、外に出たくないのです。」
私はそう言うとクイとお茶を飲み干した。そして席を立とうとすると彼女に呼び止められた。
「さん、いつまでも逃げていてはだめよ。」
「えっ…。」
意を突かれたようで、私の体は立ち上がった姿勢のまま止まってしまった。
「あなた、このままでは嫌でしょう?」
「……。」
「あの子達も、このままじゃ絶対に嫌なはずよ。」
彼女は言い切った。何故彼女がそこまで言い切れるのか、私にはわからないけれど…。
「絶対…ですか?」
「そう、絶対。」
「私……。」
「時間はかかるかもしれないけれど、あなた達は大丈夫よ。」
「マダム…。」
私、どんな顔をしていいかわからなかった。
だって自分がどうすればいいか分からないんだもの。
「頑張ってね、さん。」
「……はい。」
私は二つ返事をして席を立った。
そして一目散に部屋に帰ると、思いきりベッドに飛び込んだ。
震える手を押えて痛いくらい胸に当てる。
不自然に出る嗚咽を我慢して、固く体を丸まらせた。
― 私、どうすればいいの?
これ以上嫌われる事はないというのに、勇気を出す第一歩が踏み出せない。
― 絶対に無理よ。
私は膝を抱えて目を瞑った。
目からは熱いものが溢れ、私の服を濡らしていく。
何度擦っても止めどなく溢れ、擦りすぎて肌が痛くなる。
そしてそれに疲れて溜息を一つつくと、そのまま寝入ってしまった。
コツン
変な音がする。
コツン
…怪しい。絶対に怪しい…。
私はガバッと起きると、気配を消して窓に近寄った。
コツンコツン。
怪しい音は鳴り終わらない。
もしかしたら、私を狙った刺客かしら。
…ありうるわ。
クルザンドから放たれた刺客かもしれない。
警戒しながらゆっくり窓に手をかけると、勢いよく開けた。
バンッ!!!
「誰っ!?
………あら?誰もいない?」
左右見ても誰の姿もない。あらら?
不思議に思っていると、急に髪の毛を引っ張られた。
「痛い!やめて!」
抵抗しながら引っ張られた方を見てみる。
そうしたらなんと、仏頂面のワルターがいるじゃない!
彼はまだ性懲りもなく、グイグイと髪の毛を引っ張っている。
「ちょっ…ワルター、やめて!」
「貴様が悪い。」
「え?」
「俺が窓を開けろと叩いていたら、何の前触れもなくいきなり開けやがって……。」
「まあ、ごめんなさい!!てっきり私を狙ってる刺客だと思って。」
私がこう言うと、ワルターは押し黙ってしまった。
どうしたのかしら?
無言で彼を見つめていたら、彼は顔を赤くして顔を逸らすと、私に手を出した。
「?」
わけが分からずその手を見つめていると、彼はしびれを切らしたのか、
「外に、行くぞ。」
と言って私を睨んだ。
私には、ワルターのその変わらない睨みと思いやりがとっても嬉しくて
「ええ!!」
と微笑んで彼の手を握った。
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ヒロイン視点の始まり♪
前の方が良かったりしたら、遠慮なく言ってください!
ヒロイン視点で物語を書くと、ほしのきは不気味にニヤニヤ
してしまいます。(こわ!)
電車の中でニヤニヤしないように気をつけなきゃ…。
ヒロインの中身なので、くだけてたりして違う人に思えたらごめんなさい!
2006/06/13
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