ワルターは私を窓から引っ張りあげると、背中に手を回して支えてくれた。
…トンッ…
「…あ……。」
額が彼の胸に当たる。
そこからふわりと香ってくる水の匂い。
それが、彼が水の民なんだと再認識させる。
その匂いをめいっぱい吸い込むと、何故か気持ちが落ち着けて、私はくすりと笑った。
「どうした?」
「な、なんでもない……。」
ワルターに聞かれると、顔を赤くして彼の胸に顔を埋める。
だって、ワルターの匂いにぽーっとなってたなんて、恥ずかしくて言えないでしょう?
「そうか。」
彼は返答を気にする事なく、私がずり落ちないように強く抱え込んで飛び上がった。
私達は凄い速さで上昇していく。
普段感じられないくらい風を切って涼しい。
下を見ると、街にいる人達がどんどん点になって見えなくなってる。
…でも私、見てしまったの。
ステラのお墓の前で、セネルが項垂れているのを。
それを見たら、胸が締め付けられて涙が出てきた。
ステラがいなくなってしまったのは、兄様だけのせいじゃない。
私のせいでもあるのだから…。
― ごめんなさい……ステラ、セネル…。
*
「わぁ、きれい!!街の近くにこんなきれいな泉があったなんて。」
ワルターは私が指差した泉を見ると、そこに向かって降りて行った。
「陸の民は、『輝きの泉』と呼んでいる。」
「そうなの?ワルター達は?」
「知らん…。」
「もう!ワルター達の呼び方が知りたいのに!!」
「俺に怒ったって知らないものは知らん。」
「そうだけどっ!」
地面に降り立つと、彼は私を支えている手を離した。
私は脇目もふらず美しい泉に走る。
するとワルターは呆れたような目で追って来た。
「ねえ見て!!水がこんなに光ってる!!」
「本来、水というものはそれ程きれいなのだ。」
「見て見て!!見たこともないお魚がいるわ!!」
「きれいな水には美しい魚が住む。」
「見て…!!」
私がはしゃいでいると、彼はずんずん近付いて来て目の前でピタッと止まった。
そんなワルターを、私は無言で見上げる。
― あら、ワルターってこんなに威圧感あったかしら…?
私の知っているワルターってもっと…、いじっぱりで、頑固で、子供っぽくて、威圧感なんて感じなかったような…。
彼は私を見下ろして溜息をつくと、ふと私の目元を触った。そして、瞼も!
「あっ…えっ?」
驚きで口をぱくぱくさせている私をよそに、ワルターは手を頬まで落とした。
…ふわ…
― ワルターの手…暖かい。
そう思うと人の暖かみが嬉しくて、ジワリと涙が溢れる。
なんだか最近、涙腺が弛んでるのかもしれない……。
私が涙を我慢するように口をへの字に歪めると、ワルターは心配そうな顔で言った。
「貴様、いつもこんな顔しているのか?」
「こんな顔?」
「…泣き顔だ。」
「そんなわけっ……
…あるけど……。」
部屋の中での葛藤には、いつも涙がついてくる。毎日泣かない日がないくらい。
以前の私は、こんなに弱くなかったのに。
「そうか。」
彼はそう言うと私を抱き締めた。
さっきよりも香る水の匂い。
― 落ち着く…。
そして、私達はそのまま地面に倒れこんだ。
何も考えずに倒れ込んだから、私はワルターの胸に頭突きするような形になってしまった。
「あっワルターっ!?今の痛かったでしょう?」
「……いや。」
「でも……。」
「……。」
ワルターはそのまましばらく何も言わなかった。
私もドキドキして何も言えなくて、彼の胸に耳を当てて規則正しい心臓の音を聞き入っていた。
トクン
トクン
トクン
トクントクン
「?」
あら…音が少し早くなった?
トクントクン
やっぱりそうだ。
私はもっとちゃんと聞こうと、もぞもぞと彼の胸に耳を押し当てた。
「…オイ。」
「えっあっ何!?」
音を聞いているのを咎められてしまうかと、焦ってしまう。
…でもそんなことないわよね。
私が心臓の音を聞いてるだなんて彼にはわからないだろうし。
「うんっ…?」
ワルターは私の髪の間に手を入れると、くしゃりと撫でた。
「…俺が初めて会った時、貴様はもっと強い心を持っていた。」
「強い心?」
「そうだ。こんなに泣くような奴じゃなかった。」
「………。」
「今は違う。めそめそと泣いて女々しい。」
「…それ、失礼な言い方だけど。私……否定できないわ。」
「…しかし俺は………そのほうがいい。」
「えっ………?」
ワルターは私の頭を押えて、髪をぐしゃぐしゃと撫で回した。
これじゃワルターの顔が見えないじゃない。
そう思って顔を上げようとすると、ワルターの手が私の頭を更に強く押さえ付けた。
― もうっ…。
どうにもならずに頬を膨らませる。ワルターがどんな顔をしてるのか見たいのに。
― あれ?でもなんで私、見たいのかしら。自分の事なのによくわからないわ。
ワルターの顔を見るのを諦めて、そのまま彼の言葉を待った。
「俺を頼れ。」
ワルターは静かにそう言った。
その低くて心地よい声は私の心の奥深くまで染み渡り、心をかたくなに覆っていたものを一瞬にして溶かしてしまう。
胸の奥が熱くなって、じわじわと体全体に広がっていく。
唇が歪み涙腺が弛む。
― 何で、わかっちゃったんだろう。
「なっ……んで、わかっちゃったのっ……?」
私は彼の服をぎゅって掴んで、泣きながら言った。
ワルターは私を抱きしめる力を強くすると、
「わかる。」
と優しく言ってくれた。
その言葉に、私の中で我慢してきたものが一気に這い出てくるのがわかった。
言葉が、堰を切った様に出てきた。
「…もう、帰るところがないの。それに、兄様もいないの!!
牢から逃げ出して彷徨っていた時は、敵だとしても兄様が同じ遺跡船にいるってわかってた。だから心の奥底で安心してた。
でも、そんな自分の支えを自分で奪ってしまった。間違った事じゃないってわかってても…悲しくて、許せなくて…。
それに、大好きだった仲間達とも会えない、頼りにもできない。
全部、全部自分で奪ってしまったのよ?
だから私、どうすればいいかわからなくて…!!」
私が言い終わると、ワルターはぶっきらぼうに、でも優しく背中を撫でてくれた。
全部吐き出してしまえって言われてるようで、苦しかった心が一気に楽になった。
「頼る者がいないなら、」
「……」
「俺を頼ればいい。」
「…ええ。」
「必要なときは、いつでも飛んできてやる。」
「う…ん。」
「…俺が、を全部受け止めてやる。」
「うん…うんっ!!!」
私は嬉しくて、凄く嬉しくて、何度も何度も頷きながら、彼の体を掻き抱いた。
「…約束してやる。」
「約束?」
「ああ。俺がの支えになることを、だ。」
「嬉しい…。」
「////…そんな、特別な事ではないだろう…?」
「ふふ…私には、特別。だって、ワルターが言ってくれたんだもの。」
「……馬鹿にしているのか?」
「違うわよっ……!!
…………ありがとう、ワルター。」
「…フン……。」
恥ずかしがってるのか、不貞腐れたのか。
きっと前者でしょうけど、ふふ。
ワルターは、今日から私のかけがえのない存在になる。
ありがとう、ワルター
今の私には、あなたの存在が生きる支えになる…
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どうでしたか?
ワルターに慰められていただけたでしょうか?
少し心配なところもありますが(笑)
ほしのき的に、ワルターは自分の直感を一番にすれば結構イイ男だと思います。ゲームでは彼は自分よりもメルネスとは、立場に翻弄されてますよね。ですので自分の気持ちに従ってみたワルターを書いてみたかったのです。
そんなこんなを言いながら、エセに感じられたら申し訳ないです。(それも変換二箇所で申し訳なさすぎ。)
ヒロインは頼れる人がいなくて塞ぎ込んでたわけですね。見つけようと思えば見つかるのに(ミュゼットとか。)塞ぎ込んで盲目になっていたところを、ワルターが手を差し伸べたわけです。
2006/06/15
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