「っはぁ…はぁ。」





「何とか逃げ切れたな。」










私達はウェルテスの街に逃げ込むと息を整えるために立ち止まった。



すごい勢いで逃げて来たので、皆の肩が荒く上下している。













「あのカカシたちぞろぞろと…ずーっと着いて来るんだもん!!ワルちんたらっ、ほんと性根悪いよね!」
















またズキンとした。



…ワルターは、本当にそんな人なの?












「………。」






。」








私が思い詰めている様な顔をしていたのか、セネルが心配そうに私の顔を覗いた。












「あっ…大丈夫ですよ。」




「ああ…。」









昨日、セネルに平手打ちなんて悪い事をしてしまったわ。
だって…結果的にワルターは私を裏切ったのだもの。











セネルは正しかった。











でも私、まだワルターが裏切ったなんて信じられない。



















































「アニキ!」





「チャバ、どうしたんじゃ!?」









前方からチャバが走って来た。
アニキと呼ばれて反応するモーゼス。

チャバの言っていたアニキって、モーゼスだったのね。
確かに、チャバが言っていた通りかも。










「皆イキナリ爪術が使えなくなったんだ!!オイラ達だけじゃない、街の人達全員!」









「なんじゃと!?よしっ、ワイとギートがなんとかしちゃる!セの字、ワイは野営地に行って来る。子分達を落ちつかせなきゃいけんからのう!」









「わかった。」









セネルが答える前に、モーゼスはもう走り出していた。
チャバはちらっと私の方を見て手を振ると、モーゼスと同じように走り出した。





私達はモーゼスを見送ると、顔を見合わせた。














「爪術が使えない…。俺たちだけじゃなかったんだな。」





「あぁ。これから、どうすればいいものか。」










クロエは腕を組んで考え出した。












「ウィルさん!!」











後方からウィルを呼ぶ声が聞こえそちらを向いて見ると、イザベラが敬礼しながら立っていた。









「ウィルさんとジェイ君、来ていただけますか?」







「陛下への報告か。」







「はい。」






「仕方ないですね。」









ジェイはポケットに手を突っ込むと、軽く溜息をついた。









さんも来ていただけますか?」






「はい、もちろん行きます。」








服を着替えなければいけないものね。











「セネル、俺の家で待っていろ。」






「ああ、わかった。」










セネルの返事を聞くと、私達はイザベラについて歩き出した。








































































さん、大丈夫ですか?」






「え?」






「背中ですよ。」






「ええ、大丈夫です。ノーマのブレスのお蔭で元気ですよ!」





私がガッツポーズを決めると、ジェイは微かに笑って「それは良かった。」と言ってくれた。









「僕は、さんに悪い事をしたと思ってます。」







ジェイはボソリと言うと、半歩前へ出た。








「何がですか?」






「あなたへの接し方です。」







「…あ…。」








「あなたが実のお兄さんを殺めた事は、僕達に恐怖を与えました。



しかし、あの戦いの終わった時のあなたの言葉………。



自分の事を言われているようでしたよ。」









ジェイは少しゆっくりした歩調になって、再び私と並んだ。











「僕とあなたは似ているところがあります。








さん、あなたは僕にとって、非常に興味深い人物ですよ。」










ジェイはさっきより唇の端を上げて笑った。




彼より背の高い私は、上から見る彼の長い睫毛が揺らめいて紫色の瞳を飾っているのを、本当に綺麗だと思った。







彼の言葉が、ワルターのことで固まっていた私の気持ちを少し溶かしてくれて…なんだか、再び仲良くなれそうな雰囲気に私の心は嬉しくて仕方なかった。


























































「いらっしゃい。ウィルさん、ジェイさん。おかえりなさい、さん。」








マダムミュゼットは、聖母のような微笑みで私達を迎えてくれた。








「ただいまです、マダムミュゼット。」







マダムは柔らかに微笑むと、私達にソファに座るよう促した。











「水の民がシャーリィをメルネスとして立上がり、俺達陸の民に粛正をかけると言っています。」





「もうウェルテスもあの人形兵士に囲まれていると思いますよ。彼らは、本気です。」





「カーチスから聞いています。確かに、街は包囲されているようだわ。




…こんなことになって、セネルさんはお辛いことでしょう。」








マダムはそう言うと、ほぅ、と息を吐いた。








さん、着替えてらっしゃい。その格好はよくないわ。

…怪我は、大丈夫なの?」






マダムは気付いたように私に言った。
私は怪我をして服が汚れていたのを忘れていたので、ハッとして立上がった。










「怪我は大丈夫です。私着替えて来ますね。」





「ええ、いってらっしゃい。」









私は急いで階段を駈け登り、部屋に戻った。















 ― 、本当に大丈夫なの?







「大丈夫よ!ステラも心配しすぎよ!!」







部屋に入ると、開口一番にステラの声が聞こえた。








 ― それならいいけれど…もう、無茶はしないでね。







「えぇ。約束するわ。」







私はタンスから新しい服(…と言っても、同じ服なんだけど)を引っ張り出すと着替え始めた。







「ねぇ、ステラ。私達は知らなくてはいけないと思うの。」








 ― ええ。







「私達は実際に遥か昔にあった事を知らないわ。陸の民が書いた文献などに頼るしかない。でも、それでは実際の事をねじ曲げられて伝えられている可能性がある。」







 ― ええ。







「だから、水の民と陸の民に公平である者から事実を聞かなければいけない。そしてその上で、今回の事を考えなければいけないわ。





…そんな方って、いる?」








私はステラに一か八か賭けた。








 ― いる…と思うわ。





   灯台に行って。







「灯台?」







 ― ええ、この街にある灯台…。







「わかったわ、ありがとうステラ。」







 ― ……。






ステラの声は聞こえなくなってしまった。
私は着替え終えると、軽快に階段を降りて行った。















































「マダム、俺達にはわからない事ばかりなんです。水の民が何を思っているのか……。」










「……私達に伝えられているものは、虚実があるのかもしれませんね。



私達は、本当の事を知らなければいけないのかもしれません。」






















「「!?」」















突然、ウィルとジェイの目が点になった。
そして、



















「「灯台!?」」

















彼らは同時に叫んだ。














「なんだか、急に灯台に行かなければいけない気分になりましたね。」






「ああ。」
















「私もです!!」








私は階段を降りきって彼らの腕を掴んだ。







さんもですか?」






「えぇ!」






「これは、何ですかね。


誰かに呼ばれているとしか思えない…。とりあえず、灯台に行きませんか?」






「そうだな。ジェイ、灯台に行ってみよう。もくるだろう?」






「ええ、もちろん行きます!!」










私は矢筒を肩に掛けると、飾ってあった兄様からもらった弓を手に取った。




















「さ、行きましょう!!」















私達はそのまま灯台へ向かった。





































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因みに、ヒロインには頭の中に灯台のイメージは浮かんできてません。


水の民が陸の民に粛正をかけようとする真実を知るために、一路灯台へ。


2006/07/04



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