「ねぇねぇ、ちゃん。」
ノーマは私を呼び止めると、ニヤ〜っと笑った。
…なんだか何かを企んでいるみたい。
「どうしたの?」
「…あたしさ、飛んでみたい。」
「……だってステラ、どうする?」
― いいんじゃない?
目をキラキラ輝かせているノーマに私はにっこり笑うと彼女の腰を掴んだ。
「ひぇっ…。」
「そんな変な声を出さないで。」
「ごめん〜。んで、ステラんいいって?」
「ステラん?」
「うん〜あだ名〜。」
― ほんと、ノーマちゃんは面白いわねぇ。
「良かった、ステラも喜んでるみたいよ。」
「マジで!やったーっ!!」
私は滄我に祈ると、ステラの羽を出した。
太陽みたいに暖かく、光のように輝かしい色。
まさにステラそのものなんだわ、この羽は…。
― ごめん、当分私は眠るわね。
(えっ…?)
― さっきに移っちゃったでしょ?その時たくさん力を使っちゃって。
(力を使っちゃうの?そっか、わかったわ。おやすみステラ。)
― おやすみ。
「ちゃん今、ステラんと喋ってたでしょ?」
「えっなんでわかったの?」
「んーとね、何だか目が遠くなるんだよね。ジェージェーが言ってたんだ。」
「ジェイが?」
「そー。よく見てるよねぇ。」
ノーマは私のマントをぎゅっと掴むと、目を瞑った。
「さー、勢いよくやっちゃって!!」
「…もー変な言い方しないでってば。」
「あはーごめんごめん。」
私は羽の先まで自分の意識を乗せると、一気に飛び上がった。
舞い上がる砂、逆に波打つ海。
私はそれらを飛び越して海の上を飛んだ。
ここに来たときよりも遙かに穏やかに波打つ海…滄我。
私達に思いを託したあなたは、心穏やかなのですね。
「ちゃん、またステラんと喋ってるの?」
「ううん、ただ海に想いを馳せていただけ。」
「もーっ!あたしがいるんだからさーっお喋りの相手になってよねっ!!」
「あら、ごめんなさい。」
ノーマは私のマントを両手で掴みなおすと、私から少し体を離して下の海を見た。
「ホントに飛んでるよーっ!!」
そして嬉しそうに叫ぶ。
「ちゃんの羽きれいだね。ワルちんのは何だか悪魔みたいだったから(笑)」
「悪魔ねぇ。そう言ったら怒るでしょうねぇ。」
「ホント!!あはは…」
私達は笑いながら海の上を飛んでいく。
風が気持ちいい。
風を切って飛ぶ事にとても感動する。
自分自身が飛んでいるなんて、信じられないくらい。
風は冷たくなく、熱すぎもせず、丁度良くて…。
この大地が私達をとっても優しく包み込んでくれているのを感じる。
海も、風も全てが。
「ノーマ、感じない?」
「何を?」
「大地の暖かみ。」
「…わかんないよーっ!!」
「そう?」
「なんだか羨ましいなーっちゃんは。」
「?」
「何でも出来て。」
「何でも出来ないわよ。」
「あたしよりはいっぱい出来るじゃん。それに前世も凄い。」
「前世…。」
「さっき話してもらった話、あたし本当は感動しちゃったんだ。だってあの女の子は皆に訴えるために火刑を選んだんでしょ?普通の人は出来ないよ。」
「…そうね。でも……あの子は間違ってる。」
「何で?」
「私だったら、死なない。だって…シャーリィを、メルネスを止めたいから。
死んでしまったらそれは出来ないでしょ?」
「ちゃん…。」
「あの子はあの時、親衛隊長さんと逃げてメルネスを止めるべきだった。そうしたらあんな悲しみは生まれなかったのに。」
海が泣き始めた。
波の音が何だか悲しく感じる。
遙か昔の記憶に、泣いているのだろうか。
「滄我ちん、泣いてるね。」
「ノーマ!?」
「何だかそう見えたんだよ。
…逃げないのはちゃんが持ってる強さだよね。でも火刑に処されながらも訴えたのはあの子の強さだったんじゃないかな?」
「あの子の強さ……。」
「あたし思うんだよね。前世ったって全然違う人なんだから、自分と一緒じゃないんだよ。ちゃんはあの子とは違う。」
「…そうよね。あの子はあの子なりにメルネスを助けたがってた。だから訴える死を選んだんだわ。」
「うん。でさ、違くてもあの子を理解しろってことなんじゃない?あんなイメージを見せられたんだからさ。」
「……。」
「あなたとメルネスは、行き違ってしまったの。ある事が原因で。」
― ある事?
「……それは、自分でわかってもらうしかないわ。その事に気付いたとき、あなたの本当の思いをメルネスに伝えてあげて。」
それが、ある事なの?
わからない…わからないよステラ。
…私、まだあの子の想いを理解できない。
「私はやっぱりダメな子なのよノーマ。」
「えーっ…なんで!?」
「私…あの子の想いを理解できないもの。」
「はは〜ん、ちゃんは認められないんだ?あの子のことが。」
「えっ。」
「あの子のこと凄いって思ってるけど、その行動が自分の考えと反していて理解できないイコール認められないわけだ。」
「…。」
「少しずつ理解すればいいじゃん、リッちゃんに会うまでさ。」
「…でも…。」
「時間ないケドね(笑)」
「…笑えないわ…。」
ノーマは浜辺のほうを指すと「もう帰ろ。」と言った。
私は小さく溜息をつくと頷く。
風が冷たい。
波が荒い。
海が、大地が泣いてる。
私に対して、泣いてる。
私が理解できないからだ、私が…ダメだからだ。
どうすればいいの、どうしたらいいの?
私に、あの子の想いが理解できるの…?
「ちゃんはさ、重く考えすぎなんだよ。頑固っつーか。
もっと自分らしく受け止めて答えを出せばいいんじゃん?
それにさ、一人で抱えちゃだめだよ。なんのための仲間なの?
ちゃんにはあたしらがいるんだからさっ!!
一緒に探そうよ、メルネスを止める方法を!!」
ノーマはそう言うと、イヒヒと照れ笑いをした。
私は目を真ん丸くして彼女を見た。
…私には仲間がいるんだ。
そうだ、一人じゃない。
「あっ、ごめん。あたしじゃジェージェーみたいに的確なアドバイスできなかったかー。」
私が目を真ん丸くしているのに気付くと、ノーマは苦笑する。
私はそんなノーマが愛しくて、ぎゅーっと抱きしめた。
「いだいいだい…ちゃん〜〜〜!!!」
「あ、ごめんね。」
あまりにも強く抱きしめすぎてしまったのか、ノーマの顔が赤黒くなる。
「死ぬかとおもったーっ。」
「えへへ、ごめんなさい。」
「『えへへ、ごめんなさい。』で殺されちゃたまんないよー。」
「いっそ一回死んでみたほうが性格直るんじゃないですか?」
「あれ、ジェージェーの毒が聞こえる…って、もう浜辺についてるし。」
「さん、もっと強く抱きしめてやればよかったんですよ。」
「ジェイったら。」
「ノーマだけずるいぞ!私も飛んでみたい。」
「クーも海の上飛んでみたいの?」
「えっ…海の上っっ!?」
「飛んできたらいいんじゃないか、クロエ。」
「クーリッジ!!!」
「ワシはと接近できるんなら飛びたいのう。」
「モーゼスさん、死んじゃってください。」
「俺も生物を空から観察してみたいな…。」
「オヤジは重くて無理だろうねぇ。」
「たしかにねぇ。ちゃんじゃウィルちゃんは持てないわねぇ。
「……。」
私にはこんなに頼れる仲間がいる。
大丈夫…私頑張るわ。
絶対にシャーリィとメルネスを助けるから。
風が暖かくなる。
波が穏やかになる。
海がキラキラ輝いて、私を応援してくれている。
そう、皆がいる。
私は、独りじゃない。
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ノーマとのお話。
ノーマって本当は凄い子だと思います。
こうやってヒロインを元気付けてくれたりして、
元気いっぱいのいい子ですね。
今回はヒロインの憂鬱話でしたが、もう大丈夫そうです(笑)
2006/07/24
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