水色に可愛く光るのに、


表情はなんとも無表情で、


目には生を宿していない。

















あれがメルネスなの?











あなたの時代のメルネスも、あんな風だったの?














……違うよね?

























































大きな扉を開けて、長く続く橋を渡る。
その先の玉座にいるのは黒い水の民の衣装を着ているシャーリィ。









その服は四千年前のメルネスとも寸分違わない。









その水色の髪を映やす神秘的な衣装のはずなのに、
何だか私には、その心を表すような服だと感じた。

















「シャーリィ…?」















彼女の名前を恐る恐る呼ぶセネルに視線を移す。




彼は震える右手を左手で押えていた。
でもその左手も、右手と同じように震えている。





私はそんな姿を見ていられなくなって、シャーリィに視線を戻した。

ふと気がつくと、シャーリィの横には傷を負ったワルターが、片膝をついて苦しそうにしている。











ワルター…!!









今すぐ彼の元に走り寄りたい衝動を両腕で自分を抱きしめるようにして抑えると、爪が食い込むくらい二の腕を握り締めた。

















彼のもとに走り寄って私は何をするの?



何を言うの?



自分の気持ち?



自分の気持ちもわかっていないのに?













本当は大丈夫なんかじゃない。

ノーマに言ったのは口をついて出た大丈夫。















結局私は何も分かっていない。


わかろうともしていない。












時を待ってる、ただそれだけ。







自分からは何もしない、出来ない。



















だからワルターが羨ましい。
シャーリィも羨ましい。


















彼らは自ら、何かをやろうとしてる。
















































 ― 、いいかげんになさい!!





(ステラ……。)









あまりにも色々考えすぎて、ステラにも聞こえてしまったのだろう。
ステラは私の頭の中を小突くと、大声で諌めた。









 ― 自分を貶めないで!!

   あなたはあんなにいいところを持っていて好かれているのに、

   それをわからないでうだうだ悩んで。

   私にとって、あなたがどんなに羨ましいことか!




(ステラ、ごめん…。)




 ― 謝るくらいなら悶々としないで。

   あなたのいいとこ、自分で認めなさい。




(……うん。)




 ― あなたがどんなに周囲の人に思われているかもね!!!




(うん。)












わかってる。どんなに皆に大切にしてもらってるかなんて…痛いほどわかるよ。
ステラだって、私の事思って言ってくれてる。


だからそれに応えられない自分が悔しい。






私は唇を噛み締めると、歯軋りをした。
あんまりにも強く噛み締めすぎたのか、口の中に広がる血の味。

















 ― ねぇ、ワルターを信じてるんでしょ?




(うん、信じてる。)




 ― ワルターも信じてるのよ、を。




(え?)




 ― シャーリィも信じてる。

   私も、セネルも、皆も。




   を信じてる。




   だからここにいるんでしょう?




(うん。)




 ― 教えてあげる。


   あなたにはわかる時が来る。


   それはあなたが悶々としていても、普通にしていても、どんなでも。


   その時が来るの。




(…その時が来るの?)




 ― ええ。だから今は、目先の事を最初に考えて!

   今は何をするべきなの?




(シャーリィの説得。)




 ― 良く出来ました。




(…っ…ごめん、ステラ!!)




 ― ……。




(ステラ!!!)










ステラの声は途切れた。
変わりに胸がチクリと痛む。





ステラは言ってはいけない事を私に言ったんだわ。
だから今、どこかに行ってしまった。


私のために!!







私は二の腕から手を離すと、両手を組んで握り締めた。


祈るように。












滄我よ、ステラを怒らないで!











…滄我は何も言わなかったけれど、ステラの意識が私の意識と混ざり合ったからきっと大丈夫だわ。




私は根拠のない安心をすると、再びシャーリィとワルターを見た。
























































「まさか再び会うことになるとはな。」






シャーリィの口が動いた。
発せられる冷たい言葉。









「シャーリィ、俺達は戦うためにここへ来たんじゃない。…大沈下なんてやめてくれ!光跡翼なんて復活させるな!!」


「ほう…そこまで知っているのか。」


「そうだ。俺達は静の滄我にたくさん教わった。」


「あたしたち滄我ちんに元創王国が生まれた経緯も大沈下がどうやって起こったかも教わったんだよ。」


「…打ち捨てられた地で、無駄な時間を過ごしていたわけではなさそうだな。」


「……なぁシャーリィ。俺達は昔とは違う。今を生きているんだ。過去にこだわる必要なんてないだろ?」


「遺跡線を煌髪人の領土とするよう、各国にかけあってもいい。こんなこと、やめるんだシャーリィ。」









私は何も言わずに皆を見守った。
思えば、私とシャーリィは短い付き合い過ぎて何も言えない。

だから見守るの。全てを逃さないように。


















「ここまで来て、何を言うかと思えば、くだらない。私がお前達の話を聞くと思ったか?」















セネル達の訴えを、シャーリィはいとも簡単に吐き捨てる。








「ワルター、お前は先に光跡翼へ行け。そこで私を待つのだ。」


「……わかった。」







ワルターはシャーリィの命令に頷くと、傷ついた体を起こして立ち上がる。
そして一瞬、私と目が合う。







彼はさっきと同じ、苦しそうな顔をしていた。









「行け……!!」








シャーリィは彼を促す。
ワルターはテルクェスを出すと、飛び上がった。















シャーリィはどうして、こんなになってしまったのだろう?







メルネスだから?




そんな事…。

















 ― 違う。














(…ステラ?大丈夫なの??)







 ― ええ。のお蔭で。制裁を免れたわ。






(制裁?なんで?どうして?…ステラは選ばれたのでしょう?何で制裁なんてあるの?)





 ― …それはね、私はこの使命を全うしたら滄我に叶えてもらう願いがあるの。

   これは等価交換なの。

   守るべきところは守らなければいけない。




(!!!…ごめ…なさい、私のために…。)




 ― いいのよ。だって、が助けてくれたじゃない。

   …今はそれより、…違うのよ。




(…さっきも言ってたけど、何のこと?)




 ― シャーリィのこと。

   あれは、メルネスじゃない。シャーリィよ。




(え…!!本当?)




 ― 私はシャーリィのお姉ちゃんよ!!わかるに決まってるじゃない。

   シャーリィはまだメルネスになりきってない。



   …、代わってくれる?




(ええ、いいわ。)




 ― ありがとう、…。












あの気持ち悪い感覚の後に、私の意識が体の中に篭るのがわかる。
ステラが表に出て、私が中に入ったのだわ。








ステラはセネルの腕に手を置くと、優しく撫でた。

セネルはビクと体を跳ねらせてステラを見る。











「いきましょう、セネル。」

「…ステラ…なのか?」

「ええ。…一緒にするんでしょ?シャーリィの説得。

 頑張ろうって言ってたじゃない。」

「…ああ!!」









彼らはゆっくりとシャーリィに近づいていく。









「動くな!それ以上近づいたら即座に光跡翼を発動させる。」

「…私達だけ、そっちに行ってはだめかな?シャーリィ。」

「俺達だけだ。」







シャーリィは目を細めると、呟いた。








さんも?」








…ステラの言ったとおり、シャーリィなんだわ。







「ああ。も俺も、お前に話したいことがあるんだ。あの時のように。」

「…あの時のように…?」





不思議がるシャーリィを見て、セネルは優しく笑った。








「いいだろ?」


「……うん。」







シャーリィは頷くと、セネルとステラを見た。
そして少しびっくりした顔になると、口を噤む。





セネルとステラは了解を得てシャーリィに近づく。















「…私、もうあなたの妹を演じてた私じゃない。」


「…だから俺はここまで来たんだよ、シャーリィ。今、俺は自分の気持ちをはっきり口にする事が出来る。

 兄と妹としてでなく、一人の人間同士として、もう一度シャーリィと歩きたいんだ。」










セネルはそう言うと、優しい微笑みで彼女に手を出した。
シャーリィは戸惑いながら後ずさる。








「お…お姉ちゃんは?」

「ステラを忘れたりしない。だけど思い出にする。」

「…じゃあ、さんは?」

「…。」







シャーリィはステラを悲しそうに見た。











「あの夜、お兄ちゃんは私に言ったよね?

 さんのこと、気になってしょうがないって!!…好きなんでしょう!?」










あの夜…?って、ワルターと一緒に盗み見たシャーリィの告白場面?











「ああ、言った。俺はのことが気になる。好きだ。


 …でもな、今の俺にとって大切なのはシャーリィだ。」



「でもっ!!!!


 ……ほらっ、今ので伝わったでしょう!?さん、お兄ちゃんの気持ちに応えてあげてよっ!!」


「シャーリィ!!」


「私なんかいいのよっ!!!さあ、さん!応えてあげて!!!」













ステラは悲痛な顔をすると、シャーリィのもとにつかつかと歩いていき、















パンッ













彼女の頬を打った。


















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最後のシャーリィの言葉、セネルにとってもステラにとっても辛い言葉だろうなぁ。

もちろんシャーリィにとっても。



2006/07/30






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