渇いた音が響く。
ここはすごく広い空間だとというのに何故こんなにも響くのだろうか。
胸が締め付けられるように苦しい。
ステラが、心の中で泣いている。
シャーリィに対して泣いてる。
「シャーリィ、あなたはいつから人の心まで傷つける子になってしまったの!?」
ステラはそう言うと、シャーリィの頬を叩いた手を下ろした。
シャーリィは最初、驚きを隠せないような顔をしていたけれど、泣きそうな顔になって叫ぶ。
「そんな知ったような言い方しないでよ!!
私のお姉ちゃんじゃないくせに!!」
今度は私の心がズキンと疼く。
…私はシャーリィをこんなに追い込んでいたの…?
「…誰の気持ちにも気付かないでマイペースで、皆に愛されて暮らしてっ……
ヴァーツラフの妹のくせに!!
フェニモールじゃなくて、あなたが死ねば良かったのよ!!」
!!
……シャーリィ…。
「シャーリィ、何を言ってるんだ!!
あの時だって、はお前を助けようと…!!お前だってわかって…」
「っ…お兄ちゃん、やっぱりさんを庇うんだね…。」
「シャーリィ!!」
弁解しようとするセネルを、ステラが止めた。
「シャーリィ、あなたは本当はどうしたいの?
…が他人の気持ちに鈍いのはわかるわ。
それで、になんて言わせたいの?
セネルを好きじゃない?嫌い?
シャーリィこそセネルに相応しい?
どれなの?」
「わっ…私はっ……!」
「恋は人を素晴らしくするし、醜くもするわ。
あなたは後者よ。どうしてそうなってしまったの?
昔から私と一緒にセネルだけを想ってきたじゃない…」
「えっ……」
ステラの言葉にシャーリィは目を見張った。
それを見て、ステラはゆっくりと背中からテルクェスを出す。
「ねぇ、シャーリィ。好きなら対抗して、頑張って可愛くなって、振り向かせればいいじゃない。
私達だってそうして来たでしょう?」
「あっ…」
「ね、シャーリィ?」
「お姉ちゃん…?」
シャーリィは私の中にいるステラの存在に気付くと、迷いなく抱き着いた。
「お姉ちゃん何で?何でさんの中にいるの?」
「それはね、シャーリィとメルネスを止めるためよ。」
「私とメルネスを止める…。」
「えぇ。」
シャーリィはステラを見上げた。
「お姉ちゃん、ずっとさんの中からお兄ちゃんを見てたの?」
「そうね。」
ステラはくすりと笑うと胸を叩いた。
「が鈍いなんて今に始まった事じゃないのよ(笑)」
「ふふっ…。」
彼女達は笑い合うと、もう一度深く抱き合った。
…なんだか複雑な気分だわ。
「シャーリィ、さっきの言葉は言ってはいけないことよ。」
ステラは妹の肩をぽんぽんと叩くと、にっこり笑った。
シャーリィは俯くと胸に手を当てる。
彼女は何を思っているのだろう?
私が鈍いせいで、あんなに追い詰めてるとは思ってもみなかった。
シャーリィはきっとあんな事言う子じゃないし、…やっぱり、私のせいなんだよね。
でも、あの言葉はとても辛い。
ヴァーツラフの妹のくせに、…私が死ねば良かったのに、か…。
確かにそうかもしれない。
実際に私は、シャーリィを助けてあげられてないし、手も差し延べてあげられない。
それなのにこんなに追い詰めて…。
シャーリィは顔をあげると、ステラを見た。
「……うん。ごめんなさ…」
「騙されるな、メルネス!」
その時、皆の後方に突然マウリッツが現れる。
「メルネス、お前はずっとセネルに騙されていたのだ。今から真実を教えてやる。
三年前、村が襲われたのはそいつのせいだ」
「えっ…。」
マウリッツに耳を貸してしまった彼女はセネルを見た。
「お兄ちゃん、本当なの?答えて、お兄ちゃん!!!」
シャーリィはステラを掴んだままセネルへと叫ぶ。
セネルは痛々しい顔をすると俯いて頷いた。
「本当だ。」
途端、シャーリィの顔が青ざめた。目は見開かれ、唇は震えている。
ステラを掴む手の力を強くすると、小さく
「そう…」
と呟いた。
マウリッツは嬉しそうに笑うと、言葉を続ける。
「そいつはヴァーツラフ軍の兵士だったのだ。ステラをたぶらかし、我々をヴァーツラフに引き渡したのだよ。」
「!!なっ!ステラを悪く言うな!ステラは関係ない!!」
セネルの言葉を、シャーリィは耳を疑うように繰り返した。
「ステラ…は?
お姉ちゃんは知ってたの?ねぇっ?」
ステラはシャーリィをまっすぐ見つめて頷く。
シャーリィの目からは涙がとめどなく溢れていた。
「知らなかったのは私だけか。
どうせ、お姉ちゃんがお兄ちゃんに口止めしたんでしょ?
…その優しさ、さんとそっくりだよ。だから共鳴したんじゃないの?
…その優しさが私には残酷だとは知らないで!!」
シャーリィはセネルに悲痛に笑いかけると、
「お兄ちゃん、今まで私に黙ってるの辛かったでしょ。
私、お兄ちゃんとは心が通ってると思ってた。でもそれって、私の幻想だったんだね。」
シャーリィはステラの胸をトンと押すと後ろに下がった。
「シャーリィ、私達は!!」
「もういいよ、お姉ちゃん。私が虚しくなるだけだからっ!!」
「…お姉ちゃん…?お姉ちゃんだと?!これは面白い。その娘の中にステラがいるというのか?」
マウリッツはニヤリと笑うと私達を見た。
「フ…お前は陸の民のわりには不思議な力を持っていると思っていたが、ステラの力だったとはな。」
「…この力はが最初から持っている特有のものよ。私の力なんてその力に及ばないわ。」
「ステラ、お前はその娘とセネルに悪影響を受けたな。」
「悪影響?違うわ。これは世界のあるべき姿だわ。私達は今を大切にするべきよ。過去は過去だもの。」
「その結果、水の民が滅ぼされたとしてもか?」
「それはこれから……」
「甘い幻想に過ぎんな。」
「……。」
ステラは押し黙るとマウリッツを睨んだ。
「やめて……!!」
「シャーリィ?」
「私…最後にお姉ちゃんに会えて嬉しかったよ……。」
「シャーリィ!!」
彼女は玉座に走り戻ると、祈るように手を組んだ。
「…これで迷いなく使命を果たすことが出来る。
お兄ちゃんから聞きたかった言葉も聞けたし、傍にはお姉ちゃんとさんがいる。」
シャーリィはテルクェスを出す。
「さん、ごめんなさい。
でも…さっきの言葉、本当だから。
あと、ワルターさんは私と共に居てくれるって誓ってくれたから、連れていく。」
「待ってくれ、シャーリィ!!」
「さよなら、お兄ちゃん。
私には、皆が生きる道という選択肢はないの。
ごめんなさい―」
彼女は舞い上がる。
流れる髪の毛も、
靡く黒い衣装も、
大きく羽ばたく翼も、
全てが悲しく、美しい。
セネルは彼女を連れ戻そうと、駆け寄った。
しかしシャーリィは遙か上空に飛び去る。
彼は上を見上げると、悲痛な声で叫んだ。
「っ……シャーリィ!行くなっ!!
道はっ…俺達で作って行けるんだよ!!
だから行くなーーっ!!」
**************
セネルとステラ、シャーリィの決別。
ステラがちょっと気が強いお姉ちゃんになってしまいました(笑)
2006/08/01
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