「メルネス。私は本当に、あなたより先に死んだのよ。」
私は二人の横に行くと笑った。
別に心の底から笑ったわけじゃないわ。ただニヘラと、空笑いしたの。
「……。」
「私は父に、火刑に処されたの。彼も知ってるはずよ。」
私がそう言うと、ワルターは静かに頷いた。
彼はあの時、私を助けに来て私の最期まで見届けてくれた。
あの青い空に彼のテルクェスが舞う瞬間が、私の最期だった。
それを追い求めるように空を見上げて、私はあの時代から消えていったんだわ。
メルネスは私達の顔を交互に見ると、唇をきゅっと噛み締める。
「……そんな…悲しそうな顔をするな!
本当のことだと信じなければならないだろう…。」
そして俯いて言う。
「どうせ……私達のせいなのだろう。水の民と交わった罪なのだろう?
…本当に、私より先に死んだのだな。お前は長生きすると思ったのに。」
「ええ。でも、私が命を無くしたのは、あなた達のせいじゃないわ。
あの時代のせい。
あの時代は今のように二つの種族が交流できるほど良い時代ではなかったけれど、今の私達はそれを変えていける時代に生きてる。
メルネスもシャーリィとして、一緒に変えていこう?」
…優しく微笑んでみる。
メルネスが少しでもその気をもってくれればいいって願いをもちながら。
「……それは、できない。
私は光跡翼を発動させる。」
「メルネス!?」
メルネスは固く決意したような瞳を私に向けた。
シャーリィの顔なのに、やっぱりメルネスなんだ。
「それは今のメルネスも、望むことだ。」
メルネスの言葉と同時にシャーリィの言葉が頭に響く。
お兄ちゃんが私の傍にいてくれないなら…
この世界から消えてなくなりたい…
本当にシャーリィの声が聞こえるかのようだった。
そのくらい、メルネスの言葉は悲痛に満ちている。
ワルターは私に下がれとジェスチャーすると、メルネスの髪を撫でた。
さらりさらりと流れる髪が、水色に光っている。
ワルターの髪も同じように水色に光っている。
二人は、紛れも無く水の民。
私とは違う。
…本当はこの二人、お似合いなのに。
メルネスと親衛隊長さんは、昔からお似合いだ。
いつも仲良く言い合ったりして、彼はメルネスを命懸けで守って。
そんな彼が…私に恋をしてたなんて信じられない。
でもワルター、否定しないし…。
うんとも言わないけど…。
本当なのかしら…?
「メルネス、本当は光跡翼など発動させたくないのだろう?
素直になるんだ。」
「そんなことはな……。」
「メルネス。この世界には争いがある。
しかし変えていけるだろう。
俺が絶対協力する。
だから……」
「だから大切な者がいるこの陸を壊さないでくれ…か!?」
メルネスはワルターの胸をドンと押した。
「そんなことは…できん。私は光跡翼を発動する!
私は肉体の頚木から開放され、精神をも失って、この世界からいなくなるのだ!!!」
メルネスは私達に背を向け、ツカツカとさっきまで目を瞑っていた場所へと歩き出した。
彼女は突然歩くのを止めると、振り向かずに私達に声を投げた。
「……私が一番気に入らないのは、この世界より何よりも、お前達が互いへの気持ちを隠してることだ。
私のためか?
そんなの、私が惨めなだけではないか!
だから、お前達とは一緒にいたくなかった。
お互いを大切に思って好いているはずなのに、私にいらぬ気遣いをして…」
「!!」
私はきっと、とっても驚いた顔をしていたことだろう。
メルネスは振り向いて私の顔を見ると目を細めて睨んだ。
「知らないとでも思ったか!?
私だって恋をしてる身だ。気付かないわけないだろう。」
メルネスは強く拳を握り締め歯を食いしばって私に訴える。
その姿は何とも健気で、儚げだった。
知って…たんだ…。
昔の私が…。
私は泣きそうになると、足が勝手に走り出していた。
そして彼女の前で立ち止まると、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
「何をする!?」
「ごめん、本当にごめん!」
「何を今更。」
メルネスを力いっぱい抱きしめる。
「ごめん。本当にごめんなさい。
あなたの言う通り、私も彼が好きだった。」
「……。」
そう。
私もメルネスと同じように彼に惹かれてた。
でも滄我に頼まれただけで近づいた私みたいな人が、彼女達の邪魔なんてしたくなかった。
メルネスは、本当に彼を愛してるのがわかったもの。
彼が気付かないのがもどかしいほどに。
私の入る隙なんてなかった。
だから私は自分の気持ちを覆い隠したのに。
誰にも知られないようにしたはずなのに、一番知られたくない子に気付かれてしまってたんだ。
「全部、全部メルネスの言う通りだわ。
私、自分の気持ちが彼に傾くのが怖かった。
だって、あなた達はずっと一緒でしょう?
羨ましかった。
…それに、私はあなた達が嫌う陸の民だし、
だから、早く一緒になってもらいたかった。
私を置いて、一緒になってくれればって……。」
私が彼女を掻き抱くと、彼女は肩を落として溜息をついた。
「……お前も、私と同じで馬鹿だな。
好きな男が親友と取り合いで、お互いを庇い傷ついて、こんな年月が経った。
その上、こんな大事件にしてな…。
でも、私よりお前の方がましだ。
私が失恋した時に目に入ったのが、かつてから水の民が切望してきた陸の民への粛正だ。
今まではどうにか抑えて来たが、失恋した途端、意識が滄我に支配されていった。
気付くと、私はもう後戻りできない状態だったのだ。」
メルネスは私を離すと、自ら私を抱きしめてくれる。
「私は生きたかった。
メルネスなんて投げ出して、三人で生きていきたかった。
……本当は、二人が一緒になったって良かったんだ。
お前達といることが、私が生きている中での幸せだったのだから。」
「メルネス…。」
「でも、私は今光跡翼を発動させなければならない。
それは、今のメルネスの願いだからだ。」
「そんな!」
「止めたいのなら、言ってやるがいい。お前が私に言いたかったことそのまま。」
「メルネス……?」
「私がお前達の気持ちを受け止められたんだ。だから、今のメルネス…シャーリィも、きっと大丈夫だろう。」
メルネスはそう言うとにっこり笑った。
四千年前とどこも変わらない優しい微笑み。
「ここからはもう、私の出る幕はない。
今の、お前達の時代の幕だ。
、ワルター、ありがとう。」
メルネスの気が薄くなっていく。
あの優しい微笑み、声、全てが消えてしまうの?
まだ何も伝えてないのに!!
待って、メルネス!!
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また引き延ばすとか(笑)もうちょっとお付き合いください☆
気付いてると思われますが、全て三人の会話は過去形になってます。
一応、過去のお話なんです。テヘ♪
2006/08/16
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