「待て!メルネス!!」
















ワルターは彼女の腕を掴むと自分の方に引き寄せた。












「!?」














メルネスは驚いた顔で彼を見上げる。
その顔はほんのり赤く、可愛い。














「なっ…何をする!」

「勝手にいなくなろうとするな!まだ伝えてないことがある。」

「えっ…?」













ワルターはそう言って私も見る。















も聞いておけ。」

「う…うん。」













私は畏まるとメルネスを見た。メルネスもポカンとした顔で私を見る。

私達は顔を見合わせると、お互いの拍子抜けした顔を笑った。















「…何を笑ってるんだ?」














ワルターは不機嫌そうな顔をすると、腕を組んだ。














『ごめん・すまん』












私達は同時に謝ると、それが可笑しくてた笑い合う。



その笑いにまたワルターが不機嫌になるかと思ったけれど、彼はそうならないで、遠くを見るような目付きで微かに笑った。















「貴様らが俺を置いていなくなった後、俺はどうなったと思う?」













突然彼は、そんなことを言い出した。



そう言えば、私達がいなくなったあとは親衛隊長さんだけ残ったんだよね。















「…だれかと結婚した?」

「こんないい女二人を忘れてか?」












私達はケラケラ笑った。
ワルターは呆れたような顔付きで私達を睨む。













「…真面目な話をしてるんだ。」











そう言ってプイと顔を逸らした。















「…違うの?本当に誰かと一緒になったのかと…。」

「お前も相変わらず変な娘だな。こいつがそんな男に見えるのか?」

「…見えないけど。」

「見えないなら変な事を言っていじめるな。」

「ふふ、そうね。」












ワルターは一層呆れた顔をするとあからさまに溜息をつく。














「で、だ!

 あの後俺はすぐ命を絶った。」



『え!?』











彼の言葉に私達は驚愕する。

あまりにも驚いてしまって、冗談も何も言えなかった。















「俺は何も守れなかった。


 助けられなかった。


 何もできなかったんだ。









 俺も、お前達と生きたかった。




 お前達の笑ってる姿を後ろから見守っているだけでよかったんだ。
 それ以上は何も望まない。









 それを守れなかった。それももう、叶うことはない。」

















ワルターの横顔があまりにも悲しそうで、私は胸を締め付けられる思いだった。
死んだ者より、あとに残された者の方が辛いものよね…。
















「絶望した俺は、メルネスのサークレットとあの女のバンダナを俺のかみどめで結び、輝きの泉に埋めた。





 そしてそこで命を絶った。」




















………








……












息を飲む。






彼が命を絶とうとしているところが容易に想像できた。
だって、ワルターも彼と同じだから。




自分の役割のためなら命をとわない。責任感が強すぎるほどで抱え込んでしまう。




彼はそんな人だ。



















「なっ…何故そんなことを!私達の分まで生きることがお前の役目だとは思わなかったのか!?」












メルネスは怒ると、ワルターの胸にどんどんと拳を打ち付けた。














「あの時の俺は、そんなことが考えられないくらいに絶望していた。

 お前達がいなくなって、心に埋められないくらいの大きな穴が開いたみたいだった。」


「馬鹿者が!」


「…しかし、問題はそんなことではないのだ、メルネス。」


「何を言うか!命を絶つなど、許されるわけが!」














彼女はワルターの胸に拳を打ち続けた。
彼はしばらく無言でそれを受けていたけれど、フウ、と息をもらして彼女の手を掴んだ。
















「…聞け!メルネス。一番俺が伝えたいのは、


 今でも俺達は一緒にいるだろう事だ。


 輝きの泉の土の中で、今でも一緒に眠っているという事だ。」



「!!」



「俺はずっと、その事が言いたかった。

 俺達は時代に翻弄されて最期は別れ別れになってしまったが、今でも一緒にいるということを伝えたかった。」


















ワルターは全てを言い終わると、力が抜けたように脱力してヘタリと座り込んだ。











「ワルター!?」









びっくりして近寄ると、ワルターは私の肩に手を置きながら微かに笑う。











「大丈夫だ。少し疲れただけだ。」

「うん…。」









疲れたというワルターの顔は、なんとも清々しい顔をしていた。
重荷だったものを吐き出したような顔。だから安心できる















「言いたかった事、全部言えた?」

「ああ。」












ワルターのこんな笑顔見たことがない。
とても可愛くて胸がキュンとしてしまう。































































「……ありがとう。」

























































メルネスの嬉しそうな御礼が聞こえて、私とワルターは彼女を見た。




彼女は微笑みながら泣いていた。



きっと、嬉し泣きだ。



彼女を見ていたら私も、嬉しくなって泣けてしまう。

















私達二人が泣き出すと、ワルターは困ったように見た。



なんだか昔に帰ったみたい。





















「私達は一緒にいるんだな。」


「ああ。」


「これからも一緒よ。」


「そうだな!!」














メルネスは嬉しそうに頷くと、小指を出した。












「約束しよう。

 私達三人で輝きの泉に行くことを。

 遥か昔を精一杯生きた、私達を称えることを。」












ワルターと私も小指を出す。





















「いいだろう。三人で輝きの泉を見ながらあの時代に思いを馳せよう。」

「ええ、約束しましょう。三人で今を生きる喜びを分かち合いましょう。」

















私達は違いに小指を絡ませると上下に振った。





































『三人の…約束だ…!!』































私達の小指から青い光が溢れ出して三人にかかる。
そしてその光は、メルネス一人に注がれていく。















「メルネス!?」


「大丈夫だ。

 …ああ、別れの時が近づいたようだ。






 …ワルター、お前に言っておきたいことがある。」


「なんだ?」


「私達の気持ちは、あくまで過去のものだ。

 過去に翻弄されるな。

 自分の気持ちに素直になれ。隠したりするな。

 あの娘は、かなりの鈍感だ。」


「…あのな…。もろに言って…。」


「…なんのこと?」


「ほらな。」


「……。」


「当たって砕けろと言う言葉があるだろう?」


「砕けるのか。」


ならありえる。昔のあの娘とは違う。わかっているだろう?」


「まあな。」












一体なんの事を話してるのかしら?

…だいたい私の文句だって事はわかるけど。

まあ、いいわ。あとでワルターから聞き出してやるんだからっ!












、お前にも言いたいことがある。」


「なに?」


「滄我はいつも味方ではない。敵になることもある、気をつけろ。

 …それに、これは推測だか……、はこの世界で特別なものを持っている。

 その力が、何者かに狙われることがあろう。

 何かあったらワルターに言うといい。こいつなら嫌がっても守ってくれるだろう。」


「うん。」


「あのな…。」












ワルターは明らかに不機嫌な感じだった。でもメルネスの言う通りだと思って頷く。

彼はきっと助けてくれるはず。










でも、特別な力って一体何なんだろう。
滄我の声が聞こえるのとか、関係あるのかしら。














「真実を探すといい。

 いつかは知らなければならないことだ。」


「うん、わかった。」














私の返事に満足そうに頷くと、メルネスは目をつむった。





行ってしまうんだ。
















「メルネス……。」














メルネスは目を閉じたまま静かに言葉を発した。















「シャーリィは、このことを後悔するだろう。

 だが、暖かく助けをだしてやってほしい。

 そしてシャーリィの兄というあの男のそばに、出来るだけいさせてやって欲しい。

 それだけでシャーリィは救われる。」



「約束するわ。」


「安心した。










 …ところで、私達がお前につけてやった誠名を覚えているか?」


「誠名?」


「忘れてしまったか。まあいい。


 ……もう時間だ。


 、シャーリィに言ってやってくれ!!!」











メルネスは目をつむったまま自分の体を抱きしめた。









!!」













私はメルネスの言葉に身を締め付けられる思いだった。




シャーリィに戻るということは、メルネスがいなくなるということ。



シャーリィがいなくなるのもメルネスがいなくなるのも、本当は嫌。






私は唇を真一文字に引き伸ばして噛み締めた。
手は震えている。













、私が何も覚えていなかったとしても、メルネスであり、シャーリィだ。私なんだ!」












…メルネスには、私の考えていることがわかってしまうのかしら。



…メルネスはシャーリィ。



そうよね!!

























































「シャーリィ、一緒に世界を変えよう。これからずっと私達が仲良くしていけるように。


 滄我の願い、叶えよう。


 水の民と陸の民の懸け橋になって!!」












































****************

光跡翼の発動は食い止められて、メルネスも救われたようです。
あとは、シャーリィですね。


2006/08/17









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