「ただいまー」
あたしは買い物から帰ると、元気良くただいまを言った。
ガタッ
ドタッ
バタン!!!
あらら、なんか変な音がする。
「!!!」
ドアを勢いよく開けて、慌てて出てくるワルター。
うわっ…ワルターの鬼のような目。
鋭く光って怖い!
「ただいま、ワルター」
「何がただいまだ!!何故一人でどこかに行った!?
目が覚めたら貴様がいなくて……」
「淋しかった?
それとも、嬉しかった?」
あたしの言葉にワルターは息を飲むと、目をカッと開いた。
蒼い宝石が飛び出しそう。
「嬉しいはずがない!!
っ…驚いただけだ」
ふふ、淋しいのは否定しないんだ?
「そっか、ごめんね。詳しくは部屋で話すからさ、居間に行こ?」
「あ、ああ」
ワルターは先ほどとは打って変わって、気持ちが萎えた感じだった。
あたしは買ってきたものをソファに放り投げると、台所で麦茶をコップに注ぐ。
それをぐぃ〜っと飲み干すと、ワルターに声を掛けた。
「ワルターも麦茶飲む?」
「サイダー」
はいはい、サイダーですか(笑)
あたしはコップに氷を入れると、サイダーを注いだ。
居間に行ってテーブルにサイダーを置くと、ワルターは奪うようにそれを取った。
あ、拗ねてる。
可愛いなあ。
素直にそう思っちゃうあたしは、ニヤリとしてしまった。
「何だ?」
「別に」
あたしはソファに置いた買ってきたものの包みをバリバリと開ける。
「?」
ワルターが不思議そうにそれを見つめる中、あたしはニンマリしながら中身を広げた。
「見て!」
「?何だそれは」
「浴衣よ!」
「ユカタ…?服か?」
「そうそう。日本のお祭りはこういうの着るの。バイトの時、お客さんみんな着てたでしょ?」
「そういえば、そうだったな」
覚えてないんだー。しょうがないなぁ。
「これはワルターが今日着るの!」
「俺が…?」
ふっふっふ…
今日はこのために、ワルターを出し抜いて(というか、寝てるとこをそろりと抜け出して)買いに行ったの!
「今日はね、この夏最後の花火大会なんだ」
「花火大会?」
「そう。花火ってのはね、夜空に咲くお花みたいなんだ」
「……がそんな嬉しそうに話すのだ、綺麗なのだろう」
「!!…まっ、そうよ!!」
時々言われる言葉にとても照れてしまう。
ワルターはきっとわかって言ってない。
けど、あたしはすごく嬉しいんだ。
昨日の夜、ベットの上で横になりながらいっぱい考えた。
あたしはこの9日間、ずっと、ずーっとワルターと過ごしてきた。
一緒に居ない時間がないくらいに。
あたしの傍にはいつもワルターがいて、あたしは笑ったり怒ったりしてる。
それが普通で、何気ない毎日だった。
けれども今日で終わってしまう。
ワルターはレジェンディアに帰ってしまうから。
夜、ベットの中で声を押し殺して泣いていたんだ。
ワルターがすぐ隣にいるから、ばれないようにするのが大変だったけど。
淋しい
辛い
悲しい
苦しい
…胸が苦しいよ。
そう思うくらい、ワルターがいるのが当然で、
彼が傍にいないとダメなんだと思う。
あたしは…
あたしは、ワルターが好きなんだ。
「?」
「あっ、ごめん」
「大丈夫か?顔色があまりよくないな」
「だいじょぶ!!昨日ちょっと夜更かししちゃって」
「……そうか」
ワルターは自分が着る浴衣を見下ろした。
紺色の浴衣。
袖と胸と足元に、楓の葉っぱの白い模様がついている。
とっても涼しげ。
「あたしが着替える時間も必要だから、先にワルターの着付けをしちゃおう!」
「あ…ああ」
あたしが後ろを向いてワルターが服を脱ぐと、浴衣を羽織るところまで自分でやってもらった。
だってさ、海水パンツの時の格好と同じなはずなのに、ワルターったら見ようとすると怒るんだもん!
「出来た」
「は〜い」
振り向くと、ワルターが浴衣を羽織った状態。
金髪と紺のコントラストがとってもキレイ。
涼しげでとってもカッコ良かった。
「ワルター、似合うね」
「そうか?」
「うん。その浴衣を選んだあたしの目も、節穴じゃない」
「…そうだな」
似合うと言われたのが嬉しいのか、ワルターはいつもより上機嫌だった。
あたしは黒い帯を持つと、ワルターの裾をピッピッと整えて、くるくると腰に巻きつけた。
そして結ぶ。
「きつくない?」
「ああ、大丈夫だ」
「これで終わり。どう、楽?」
「…なんだかスースーしてへんな感じだ」
「あはは。あたしを待ってる間に崩れちゃったら言ってくれる?」
「わかった」
あたしは笑うと、自分が着替えるために居間を出ようとした。
すると、ワルターが声を掛けてくる。
「…なあ、」
「何?」
「…部屋の前で待ってていいか?」
「部屋の前で?いいけど」
「着るのは話しながらでも出来るだろう?」
「!……うん。だいじょぶ」
あたしはワルターを連れ立って部屋に戻った。
ワルターったら変なの。
いつもだったら居間でテレビ見てるのに、部屋まで着いて来るなんて珍しい。
話したいから?
あたしが今日、買い物を置いて行っちゃったからかな?
…今日の買い物、本当はワルターがいなくて寂しかった。
連れてくれば良かったってどんなに思ったか。
最後の日なのに半日も離れてるなんて、あたしってバカだ…。
「ワルター、ごめんね」
「なんでだ?」
「置いていっちゃって」
「…そんなことはもういい。早く着替えろ」
「うん」
あたしは部屋に入ってドアをパタンと閉めた。
押入れから取り出す浴衣。
藤色の浴衣。
ワルターの紺色と似合う色。
一緒に歩いてても見劣りしないような、キレイな女の子でいたい。
今日だけは、
あたしの中でだけでも、ワルターの彼女になりたいから。
あたしは鏡を出すと、机に置いた。
そして化粧道具を出すと、机に散らばせて使うものを選ぶ。
念入りにお化粧を。
ナチュラルにあたしらしく。
「完璧」
あたしは呟いた。
あたしらしく。
らしく。
ワルターと一緒に歩きたい気持ちになれるお化粧を。
次に浴衣を広げる。
久しぶりに着る浴衣。
まだ、似合うかな。
って言っても、買ったのは2年前だけどね。
そういえば、着替えながら話をする的な事言ってた割には、ワルターは話しかけてこない。
「ワルター?」
心配になって呼んでみる。
「なんだ?」
問題なく返ってくる言葉。
なんなのかしら。
「話、しないの?」
「…貴様が話せるということは、化粧が終わったんだな」
あ、お化粧待ってたんだ(笑)
「うん、終わったよ」
「そうか」
「……」
「……」
「ちょっと」
「何だ?」
「話してよ」
「別に話す話題はない」
「あのねぇ」
あたしは呆れると、しょうがないので無視して着替えだした。
浴衣に袖を通す。
シュル…
シュルル…
懐かしいな。
くすりと笑う。
「ワルターと花火、楽しみ」
「俺もだ」
「!!」
思いがけずすぐに来た返事にびっくりする。
「そっか…じゃあ、楽しもうね!!」
「最初からそのつもりではないのか?」
「そのつもりそのつもり♪」
帯を巻いて後ろにリボンを挿す。
一通りの着替えが終わると、あたしはタンスの一番上の引き出しを開けた。
そこから取り出すワルターの水の民の衣装。
これを風呂敷に巻いて、と。
中身が見えないように包んで部屋の隅に置いた。
戻る時はちゃんと、これを着てってもらわないとね。
……戻る…ときかぁ。
彼はちゃんと生きて戻れるだろうか。
……ううん、絶対生きて戻る!!
あたしが信じないで誰が信じるのよっ!!!
服の用意も終わると、最後は髪の毛。
アップにした髪の毛に、紫色の花の簪を挿すだけ。
これがお気に入りなのよね。
「う〜ん、うまく挿せない…」
「どうした?」
「あっワルター、ちょっと入ってきて」
「?ああ」
ワルターはガチャと入ってきた。
うんうん、浴衣は崩れてない。
「……」
「え、何?」
ワルターは口を半開きにしてあたしを見た。
そして目を細めて笑う。
ドキン!!
なっなにその爽やかな笑いは!?
いつもの陰気な笑いとは別格じゃない!!!
「似合うな」
「!!!」
ふふふ不意打ちっ!!!
顔が赤くなる。あっつい〜!!
て…照れすぎる!!!!!
「…簪挿して」
あたしは何もコメントせず、俯いてそれだけ言った。
(それだけ言うので精一杯だったの)
「簪?これか?」
「うん。ここにグサーッて」
「わかった」
「頭に刺さないでね」
「そうなのか?」
そうなのかって…。
ワルターはピンポイントにちゃんと挿してくれた。
揺れる飾り。
あたしは飛びっきりの笑顔でワルターに微笑む。
「似合う?」
「////////ああ」
「///ありがと」
あたしは風呂敷包みを持ち上げると、ワルターの手を取った。
「なんだそれは?」
「ただの荷物」
「持つぞ?」
「ありがと。でもいいや」
「そうか」
あたしは家を出てもワルターの手を離さず、ぎゅっと強く握り締めた。
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